第13話 ツチノコとこはん

ラッキービーストが運転するバスがキュルキュルと鈍い音を立てて、こはんへとたどり着いた。

 

「着いたよ」

 

「よーし、わたしが一番乗りだ!」

 

と、サーバルが生き込んでこはんへ降り立つ。と同時に地面に沈む。どうやら着地地点に丁度穴があったようだ。

 

「うぎゃああ!!」

 

「サーバルちゃん!?」

 

かばんが慌てて穴をのぞき込み、サーバルを確認する。

 

「かばんちゃーん!!助けてー!」

 

穴の中ではサーバルが必死に飛び跳ねている。7.5m程の深さで、サーバルのジャンプ力もあまり意味がないようだ。

 

「サーバルちゃん!捕まって!」

 

と、かばんも必死に手を伸ばすが、それでも届きそうにない。

 

「かばんちゃーん!もっと腕伸ばしてー!!」

 

「そうしたいけど、これ以上やったらぼくも落ちちゃうから…」

 

かばんは悔しそうに手を戻した。

 

「じゃあぼくの武器に捕まってよ!」

 

今度はルルが武器を顕現させ、穴の中に差し出した。

 

「どお?届いた?」

 

「うん!ジャンプすれば行けるよ!」

 

サーバルが言った瞬間、ルルの持つ武器に一気に重量が加わった。しかも、それが急すぎた。

 

「あ」

 

「うぎゃあ!」

 

ルルは持っていた武器を思わず落としてしまった。当然、それに捕まっていたサーバルも、また穴へ真っ逆さま。

 

「ちょっとルル!離さないでよ!」

 

「ご、ごめん!思ったより重くてびっくりしちゃった」

 

「そんな重い重い言わないでー!」

 

サーバルが少しショックを受ける。

 

「仕方ねえ、これに掴まれ」

 

そんな様子を黙って見てたツチノコが徐ろに尻尾を穴の中に垂らした。

 

「ほーう、ツチノコがそんなことをするとは意外ですねえ」

 

「黙ってろ!いいからサーバル。さっさと掴まれ」

 

「あ、ありがとう。でも届かない」

 

「うぇっ!?」

 

「ツチノコ、恥ずかしいですね」

 

「やかましいわ!!」

 

ツチノコは思いっきり赤面する。

 

結局その後は、ツチノコが腰を穴に落とし思いっきり尻尾を下ろし、サーバルを捕まらせる。そしてかばん達にツチノコを引っ張りあげてもらい、無事サーバルを救出した。

 

「はあ…早々酷い目にあったよ…」

 

「私も辱めを受けたな…」

 

ぐったりした様子で並んで歩くサーバルとツチノコ。

 

「サーバルよ、今度は落ちるなよ…」

 

横に並んでるサーバルを見ようと首を回したツチノコ。しかしそこにはサーバルの姿はなかった。代わりにあるのは深い穴。

 

「ごめん。助けてツチノコ」

 

「今度はぼくも」

 

その穴から聞こえてくるドジっ子達の声にツチノコはがっくりと項垂れたのだった。

 

 

「湖に近くなってきましたね」

 

そこかしこに空いてる穴に注意しながら歩く一行。湖の辺に建つログハウスが目的地だ。

 

「にしてもどうしてこんなに穴だらけなんだろうね」

 

「分からないけど、プレーリーの仕業ってことには間違いないでしょうね」

 

「まあ会った時に聞けばいいだけの話さ」

 

そして一行はログハウスの玄関に辿り着く。

 

「じゃ開けるよ」

 

ルルが扉を開け、みんなで潜入する。プレーリーが掘ったトンネルを潜り、ハシゴを登り居住スペースに入る。

 

「おーい、ビーバー?プレーリー?」

 

ルルが問いかけるが返事は返ってこない。

 

「どうやら留守のようですね」

 

「仕方ない、帰ってくるまでここで待つか」

 

と、ツチノコが腰を下ろしたとき、

 

「あれ?誰かいるんすか?」

 

声がかかった。

 

「あ、丁度帰ってきたみたいだね」

 

サーバルが言いながらハシゴのとこに顔を出す。

 

「ビーバー、プレーリー!久しぶりー!」

 

「ん?ああ、サーバルさんっすか。久しぶりっす」

 

「元気にしてたでありますか?」

 

サーバルの声に優しく返事をするのがアメリカビーバー。そして元気よく返事をするのがオグロプレーリードッグだ。

 

二人ともカタカタと音を立てながらハシゴを登ってきた。

 

「あれ、かばんさんも来てたんすね。それにツチノコさんにルルさん、スナネコさんまで居たとは…。大所帯っすね」

 

「おお、スナネコどの!黒セルリアン戦では、助太刀していただき、感謝であります!」

 

「いえいえ、ボクも得意なことで討伐の助けになれたことは嬉しいです」

 

スナネコ達が和気あいあいと話す中、ツチノコはビーバーを見ながら深刻な顔をしていた。

 

「お前が、アメビー…だと?」

 

「え?なにがっすか?」

 

「ああ、ツチノコさんの事情はぼくが…」

 

かばん説明中…

 

「なるほど、それは面白いっすね」

 

「一世代前のツチノコどの、でありますか」

 

二人は不思議そうな顔をしてツチノコを見る。

 

「それでな、私の時代のアメビーは今のお前とはだいぶ違う外見してたんだよ」

 

「世代交代で変わるもんなんすね。いい発見っす」

 

「ところで、そのアメビーというのは、ビーバーどのの愛称でありますか?」

 

「そうだが、どうした?」

 

「いや、いい響きだと思ったんで、これからアメビーどのと呼んでみようかと思ったのでありますよ」

 

「そういうことっすか。もちろん、いいっすよ」

 

「ありがとうであります!」

 

「それよりさ、どうしてあんなに穴だらけだったの?」

 

サーバルが強引に話を振る。

 

「サーバルったらあの穴に二回も落ちちゃってですねえ」

 

「うう、私のドジっ子の部分を強調しないで!それにルルも落ちたから!」

 

「止めて!恥ずかしいから止めて!」

 

サーバルが悔しそうにスナネコに突っかかり、ルルが赤くなった顔に手を当てる。

 

「ああ、あの穴っすか。あれは落とし穴用の穴っすよ」

 

「落とし穴、ですか」

 

スナネコが興味深そうに呟く。

 

「ええ、対セルリアン用のっすけど」

 

「とりあえず沢山掘って、良さ気な位置の穴を本格的に落とし穴にしようという計画を立ててたのでありますよ」

 

アメビーの説明にプレーリーも付け足す。

 

「本格的に落とし穴にする前にとしょかんに用があって行ってたんすよ。でも、塞がなかったのは危なかったすね。申し訳ないっす」

 

アメビーが深々と頭を下げる。

 

「いやいや気にするな。むしろあんな見え見えの穴だったんだから、落ちる方がおかしいんだよ」

 

「「そーやってわたし(ぼく)をいじめるの禁止!!」」

 

サーバルとルルの赤面に一堂は少しほんわかする。

 

「ところでアメビー。としょかんに何しにいってたんですか?」

 

スナネコが聞く。

 

「ああ、文字が読めるようになりたいなと思いまして、文字を読む練習用の本を借りて来たんすよ」

 

「ほう。文字をか」

 

ツチノコがほほうと頷く。

 

「あ、丁度かばんどのも居ることでありますし、ここの皆さんで文字の練習をしてみませぬか!?」

 

「おお。面白そうだね!ぼくもやってみたい!」

 

「じゃあボクも。少し興味があります」

 

ルル、スナネコも乗り気のようだ。

 

「それならぼくが色々教えるんで、皆さんで練習しましょう」

 

「待て。私も文字なら読めるし書けるから私も教える側だ」

 

「ツチノコが教えてくれるんなら心強いね!」

 

「じゃあ早速、借りてきた本を読んでみるっすよ」

 

と、アメビーは本を開いた。

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