第9話 ツチノコとカフェ
ツチノコとルルがピンチを切り抜けた頃、トキ達は優雅な空の旅をしていた、はずもなく。
「私の方が絶対速いんですけど!!」
「それはどうかしら。私も負けるつもりはないわ」
二人のトキが競い合っているため、サーバルとかばんが居るのもお構いなく猛スピードで空の彼方へ向かって行っていた。
「…!!!」
かばんはトキの猛スピードに抵抗できる訳もなく、風を顔面に浴びながらなんとか呼吸だけはしようと必死にもがいている。
「…」
サーバルは完全にその身をショウジョウトキに任せ、四肢を振り落としだらんと脱力していた。かばんが「生きてるのかな…?」と心配になるほどに。
かばんはこの地獄の様な時間が早く終わるのをこころからずっと願っていた。その願いが叶ったのか、
「そろそろ休憩するわよ」
とトキがいつかの柱に着地した。ショウジョウトキもトキに続く。
「どう?かばん。空の旅、楽しんでる?」
そんなことを聞いてくるトキにかばんは呼吸を整えつつ、じっとトキの顔を眺めることしか出来なかった。
そしてトキは、
「楽しんでくれてるみたいね。呼吸が疎かになるほどはしゃいじゃって」
と腹立つようなことを言ってくる。
かばんは呼吸もさせない程はしゃいでたのはどっちだという反論を胸にしまい、ぐったりと横たわるサーバルに駆け寄る。
「サーバルちゃん…。へ、平気?」
「う、うみゃあ、うう…」
どうやら平気ではないようだ。
「あれ?サーバル。元気ないんですか?」
そこへ元凶が声をかけてくる。
「元気ないのなら元気が漲る歌をお届けしますよ!」
「私と一緒にね」
トキとショウジョウトキが並んでサーバルの前に立った。が、
「いやいや大丈夫大丈夫へーいへーきもう良くなったもう良くなったから止めて!!」
本能的に生命の危機を感じたサーバルは飛び起きて捲し立てた。
「そう?元気ならもう出発するわね」
「「え」」
二人が抗議する間も無くサーバルらを連れトキとショウジョウトキはまた空の彼方へ消えていった。
さあ地獄の時間の再開だ。
所変わってジャパリカフェ。
カフェを一人で切盛りするアルパカ・スリが庭の草むしりをしていた。かばんが初めてカフェに来た時に作ってくれたカフェマーク。際限なく伸びてくる雑草に消されないように毎日せっせと草むしりをしている。
そんな中、
「んぅ?」
二つの影が高山山頂へ来たのをアルパカは見つけた。
「なになに~おきゃくさんかなぁ!?」
アルパカは草むしりの手を止め、這い上がろうとする二つの影に手を差し伸べた。
「だいじょぶ?」
影の一つ、ツチノコがアルパカの手をしっかり握る。アルパカもしっかり握られた事を確認すると思いっきり引っ張る。
するとツチノコのもう一方の手にしがみつくルルの姿が見えた。
「あらーおきゃくさんふったりも!いらっしゃあい!ようこそ、ジャパリカフェへぇ~」
アルパカのその言葉にツチノコは思いっきり困惑した顔をアルパカに向けた。が、アルパカは特に気にせずに
「えっと、そっちの子は…」
ルルの姿を見、記憶のそこから名前を引っ張りだそうとする。
「あ、ぼくはトムソンガゼル!ルルって呼んでくれればいいよ!」
「あたしはアルパカ・スリだよぉ。よろしくねぇルル」
そしてアルパカはツチノコに視線を向ける。
「あなたはツチノコだにぇ!黒セルリアン戦の時はお世話になったよぉ」
「あ、ああ」
ツチノコはアルパカのそんな言葉に曖昧に返事しか出来なかった。
「幾ら代替わりしたとしても、ここまで変わるものなのか…?」
「んぅ?なぁに?」
ツチノコの言わんとすることがイマイチ理解出来ずにアルパカは聞き返す。
「ああ、悪い。今説明してやるよ」
ツチノコがアルパカにツチノコの身の上の事情を説明する。
「うーん、なんだかよくわがんないねえ…」
「まあ今の私はお前の知ってるツチノコとはちょっと違うってことだよ」
ツチノコが思いっきり噛み砕いて説明する。
「ねえツチノコ。昔のアルパカってどんな感じだったの?」
「スリか。スリはな、もっとこう…。中性的な話し方で、麓でも言ったが髪のセットが得意だった」
「中性的な話し方って、「やあ、ごきげんよう。今日はどんな髪型にする?ま、ぼくに任せてよ」的な感じ?」
ルルが無理矢理声を作ってツチノコに聞く。
「ああ、そんな感じ」
「へ、へえ~」
ルルは完全に目を泳がせながらツチノコとアルパカを交互に見やった。
「今のあたしとは欠片もあってないねぇ」
アルパカが困ったように自虐的に笑う。
「ま、まあ、仰天したが、今のお前はそれでいいんじゃねえか?」
「それより、ここって紅茶飲めるんでしょ!ぼく飲んでみたかったんだ!」
ルルが話題を変えアルパカに飛びつく。
「いいよいいよお!じゃんじゃんのんでいってにぇ!!」
アルパカもそんなルルを迎え入れる。
「ツチノコも飲みにおいでよぉ!」
ぼーっと二人の様子を眺めてたツチノコにアルパカが声をかける。
「ああ、今行く」
そう言いながらもカフェに入っていく二人を尚も眺めるツチノコ。
「このカフェをやっていたであろうボブキャットやリオ、アンジーは今どこで何をやってるんだろうか…」
「まあ彼女らもきっとどこかで新たな試みを始めてるのだろうな。一抹の寂しさも感じるが」
「やっぱりここは何もかも変わってしまったジャパリパークなんだな…」
ツチノコー!まだー!?というルルの大声に改めてああと返事をする。
「そろそろ待たせるのも悪いか。山登りの疲れは紅茶で取ろう」
ツチノコが歩き出したと同時に空に二つの影が舞い上がった。
「ん?」
ツチノコが気づき見上げると同時に、その二つの影はツチノコに覆い被さるように突撃殺到してきた。
「のわあ!」
咄嗟にジャンプし、避けようとしたがその影は思いっきりツチノコを捉えた。
「この勝負、私の勝ちですね!」
「いや、同着じゃないかしら?」
「「…」」
ツチノコは倒れ、埋もれながらその声を確り聞いた。
聞いたところで特に何もないが。
「いやー…。酷い目に合ったよ…」
紅茶をすすりながらサーバルが疲れたようにため息をつく。
「うん…。きつかった…」
かばんも紅茶を飲みながらぐったりとしている。
「ごめんなさい。つい熱くなっちゃって」
「私からも謝ります!」
トキとショウジョウトキは申し訳なさそうに頭を深々と垂れて謝る。
「この山、崖登るのも連れてって貰うのもキツいなんて酷いよー…」
「まあまあ、その分あたしのカフェでゆっくりしていってねぇ」
優しく癒しの笑顔でサーバルを慰めるアルパカ。
「じゃあみんなの元気が溢れるように、私がここで一曲…」
サーバル「!」
かばん「♪」
ルル「!」
ツチノコ「!!?!」
トキの発言に四人・・・特にツチノコは異様な反応を示し、何が起こってもいいように身構えた。
が、
「わたしはあ、とおきい!なかあまあをさがしてる~!!」
お世辞にも上手とは言えないが、幾分か、いやかなり上達したトキの歌が響いてきた。
「すごいね!かなり上手になったんじゃない?」
「うふふ、毎日アルパカのお茶を飲んで練習した成果よ」
「私だってそれ位は出来るんですけど!」
「お、お前は本当にトキか?あのトキなのか…?あの破滅的な歌声の持ち主だった奴なのか…!?」
「ひどい言われようね」
「あの歌うだけで天は裂け、地は割れ、水は踊り、山は崩れ、全世界に混乱と破滅をもたらすあのトキなのか…!!?」
「…それは流石に言い過ぎじゃないの」
「トキは魔王かなんかですか」
ちょっと傷ついたようにトキの眉毛が下がる。
そしてショウジョウトキも思わずツッコミを入れる。
「いや、代替わりした影響がここまで強かったとは思わなかっただけだ。さて、サーバルにかばん。カフェの次はどこに行くんだ?」
「えっと、次はさばくだったっけ?かばんちゃん」
「うん。丁度そこにはツチノコさんが調査してた遺跡もあったはずだね」
「遺跡か。そこに行けばこのジャパリパークについて色々分かるかもな。よし、次は探検だな!」
「じゃあみんな頑張ってねえ」
「最後に応援歌を一曲…」
「私も一緒に歌うんですけど!」
「そういえばスリ。ここどっか降りる場所とかないか?」
「ああ、今案内するよぉ」
ツチノコはトキ達が歌い始める前にアルパカに場所を聞き、サーバルらを連れ逃げるように向かって行った。
その道中
「あれは…」
ツチノコはサンドスターが噴出する山を呆然と眺めていた。
「サンドスターの山がどうかしたんですか?」
「あそこには今もアイツが眠っているのか…。いつか絶対助けてやるぞ!」
「ツチノコさん?どうしたんですか?」
妙に意気込むツチノコを見て不穏げにかばんがツチノコに尋ねる。
「いや、昔の私の友達の話だ。気にしないでくれ。それよりロープウェイの準備は出来たか?二人一組で降りてくぞ」
「うん!バッチリ出来たよ!行こうツチノコ!」
ルルのがツチノコの手を引きツチノコは素直にそれに従う。
「さて、砂漠には一体何が待ってるんだろうな。楽しみだぜ」
ツチノコのその呟きはサーバルとルルの「おーいしょ」という掛け声にかき消され、誰の耳に入ることは無かった。
以降アラフェネパート
チーターに連れられ、さばんなちほーに来たアライさんとフェネック。
「カバー!居ないのかー!」
アライさんがサバンナの水辺へ大きく声を上げていた。
「いないっぽいねー、アライさん」
後ろでフェネックものんびりと声を上げる。
「うう、これは困ったのだ…。ツチノコの行方が掴めないのだ!」
そう、チーターに連れられてる間、ここでカバと話すツチノコ達を見たと言っていた。だからカバに話を聞こうとしていた。だがカバが居ないのであれば話は別だ。
アライさんは困ったように水辺に言葉を吐き捨てる。
「確かに困ったねー」
と、フェネックはのんびりと応じる。
「どうしてフェネックはそんなのんびりといられるのだ?」
「やー、焦るほどでもないかなーってね」
「なにスナネコみたいなこと言ってるのだ!」
それに、とアライさんが更に言い募ろうとした時、ド派手に水飛沫が上がり、
「誰かいるの?」
という声も上がった。
アライさん達は飛び上がるほどびっくりしたが、カバが居ると分かり一安心した。
しかし、
「おーい、カバー!か?おまえ?」
アライさんが呼びかけながら疑問もぶつけた。
そのカバ、格好はカバと似ていたが、髪の色がくすんだ深い青色、首から双眼鏡を下げ、光の無い紅い瞳をアライさん達に投げかけていた。
「私はカバはカバだけど、あなた達が知ってるカバじゃないわ。私はゴルゴプスカバっていうのよ」
そう自己紹介をするとゴルゴプスカバが軽く頭を下げた。
「そうなのか!アライさんはアライさんなのだ!」
続いてアライさんも自己紹介になってない自己紹介をし、
「アライグマのアライさんだねー。私はフェネックだよー」
フェネックが付け足しつつ自己紹介を済ます。
「んで、あなた達はカバに用があるの?」
「そうなのだ!」
「ホントはツチノコに用があるんだけど、チーターが言うにはカバがツチノコを見たらしくて、話を聞きに来たのさー」
「カバは今、サバンナシマウマからセルリアンが出たって聴いて退治に行ってるわ。でも私、カバがツチノコ達と話してるのを見てたわよ」
「ホントか!?」
アライさんの目が輝く。
「確かツチノコ達はじゃんぐるちほーのジャガーとカワウソに会いに行ったらしいわよ。会いたいならその二人に聞けばいいんじゃないかしら」
ゴルゴプスカバは親切に二人にツチノコ達の情報を教えた。
「おお、耳寄りな情報なのだ!ありがとうなのだゴルゴプスカバ!」
アライさんは早口に言うとさっさとじゃんぐるちほーへ突っ走って行った。
「情報ありがとうねー。待ってよアライさーん」
と、フェネックはのんびりとアライさんの後を追いかけて行った。
「性格が真反対なコンビねえ。でもだからこそ気が合うのかもねえ」
とゴルゴプスカバは静かに呟いた。
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