第3話 ツチノコと仲間

「ところで、お前らが知ってるツチノコってどんなヤツなんだ?」


洞窟に向かう道中、ツチノコがサーバル、かばんにそれとなく質問をした。


「えーっとね、まずはとっても恥ずかしがり屋だったね!」


「うん。遺跡の壁から体を少しだけ出して大きい声を上げたり威嚇したりしてましたね」


「えー・・・それ小心者のやる事じゃないか・・・」


「他にもやたら濁った声で奇声を上げてました」


「しっかりしろ!私!」


ツチノコが悔しそうに呟く。


「でもでも、すっごい所もあるんだよ!」


「ピット器官?だとかで赤外線が見れて、なんでもお見通しらしいですし、空気の匂いで何処が遺跡の出口かも分かるんですって。スゴイですよね!」


「まあ、凄いも何も私だがな…。ただまあ、悪い気はしんな。さて、着いたぞ」


ツチノコの言うように目的地の洞窟はもう目の前だった。


「よーし!とつげきー!」


「わああ待ってサーバルちゃん!プレーリーさんじゃないんだから突っ込まないでー!」


全速力で突っ走るサーバルに慌てて抑えるかばん。


「(いいコンビだな…)ま、落ち着け。騒いだら何が来るか分からんからな」


と、まるで仕事人のようなことを言うツチノコ。


「まあ、慎重に行くことに越した事は無いでしょう」


サーバル、かばん、ツチノコは少しずつ洞窟の暗闇に入っていった。


「くらいねー」


「ちょっと怖いです…」


「静かにしろ。何か居るぞ…」


「え!」


かばんちゃんが怯えたような声を上げる。


「気配を感じる」


「え・えー?どこー?」


何処までも呑気なサーバル。


そして暗闇から声が響く。


「ふっふっふ。遂にアライさんの出番が来たのだ!」


「アライさーん、一人称で誰だか丸わかりだねー」


「なんだ、アライさんとフェネックか」


マイペースに話すフェネックと相も変わらず暑いアライグマのアライさんだ。


「ふっふっふ、アライさん参上!ここから先は行かせないのだ!」


「え?何かあるの?」


「まあ特になにも無いんだけどねー」


「無いのー!?」


「じゃあなんでそんな事言ったんですか」


「それっぽい事言ってみたかったのだ」


「それよりも、お前ら酒を知らないか?」


ツチノコが強引に話を戻す。


「あー、それっぽいのはアライさんが見つけてたよー」


「これなのかー?」


アライさんが酒ビンを取り出す。


「おお!正しくそれだ!よくやったアライさん!」


ツチノコが珍しく興奮しながらアライさんに向かっていく。


「待ったなのだ!これはアライさんが先に見つけたのだ!そう簡単には渡せないのだー」


「えー!なんでー」


何故かサーバルが口を尖らせる。


「何故ならこれはアライさんのものだからなのだー」


「アライさーん、そこは渡した方が良いよー?」


「フェネック?」


そんなアライさんを宥めたのは相棒のフェネックだ。


「アライさん知らない?ツチノコってお酒が大好物なんだよー?」


「えっ?そーなのかー?」


「…ああ」


恥ずかしそうにそっぽを向きつつ肯定する。


「そんな好物を目の前にして手に入れられ無いのは可哀想じゃないかなー?」


「うーん…」


「それに、お酒なんてアライさん飲めないよね?」


「フェネックぅ、そもそもお酒って何なのだ?」


「え、知らずに言ってたのか」


「えーっとお酒ってね、おいしいんだけど身体にはちょっと悪い飲み物なんだー」


「え、身体に悪いのか?」


「ま、まあ私ぐらいのけものじゃないと酒はちょっと厳しいかもな」


ツチノコが自慢げに呟く。


「そうだよアライさん。だからここは譲ってあげよ?」


「ぐぬぬ…」


アライさんはフェネック達の説得に心が揺れ動いてるようだ。


フェネックは目で「出来るだけのことはやった。後はアライさん次第」という旨の事をツチノコに伝えた。


ツチノコはそれを目礼して返す。


「ぐぬぬ…」


アライさんはまだ悩んでいた。他のみんなはじっとアライさんの答えを待つ。


そして、三十分後・・・


「決めたのだ!」


遂に結論が出たようだ。


「なげえよ」


「サーバルちゃん起きて」


「ん?ああ、やっと決まったの?」


サーバルに至っては昼寝をしていた。洞窟の地面が冷たくて気持ちいいらしい。


「んで、どうするのー?」


「ふっふっふー。ツチノコ!アライさんと勝負するのだ!」


「ぇ」


ツチノコは僅かに怯んだような顔を見せた。


「勝負?」


「そう!勝負なのだ!」


「でもアライさーん、勝負といっても色々あるよー?何するのー?」


「バトルなのだー!コブシとコブシのぶつかり合いなのだー!ツチノコにはアライさんスペシャルを食らわせて沈めてやるのだ!」


「おーやる気だねー」


「っぐ、マジか…」


ツチノコは心底嫌そうに顔を歪ませる。


「この勝負に勝てたら、おさけを譲ってやるのだ!でもアライさんが勝ったらあれはアライさんのものなのだ!それでいいかー?」


「…しゃーない、やってやるよ」


「よし!どんとこいなの(シュン)だ…?」


アライさんが喋ってる頃にはもう戦闘は開始されていた。ツチノコは猛スピードでアライさんの元に近づき、膝をアライさんの腹のギリギリのとこで寸止めしていた。


「この間、わずか0.2秒!」


「かばんちゃん急にどうしたの!?」


「数百年以上も人間から逃げ回っていた私の速さを舐めるなよ?伊達に「訊ねけもの」なんて呼ばれてねえんだ」


「…っ」


「今の膝が入っていればお前はこの数週間、いや、数ヶ月以上は腹痛に悩む生活を強いられていただろうな」


「んぐっ…」


「アライさん…」


「どうするよ?まだやるか?」


アライさんは俯いている。が、次の瞬間、輝かしい程の顔を上げこう言い張った。


「まだまだなのだ!アライさんのガッツはこんなもんじゃ無いのだ!」


「んなっ!?」


「まだまだ勝負は終わってないのだ!アライさんが諦めない限り、終わらないのだ!そしてアライさんが諦めるなんて万に一つでもありえないのだ!」


「っぐ…」


「さあ勝負なのだツチノコ!」


「…いや、もういい。私の負けだ」


ツチノコは消え入りそうな小さな声で呟いた。


「え…?」


「え、どうしてー?」


「そんなの決まってるだろ…」


ツチノコは恥ずかしそうにフードを深く被り、誰もいない方に言い放った。


「友達を傷つけて飲む酒がおいしい訳無いだろ…。オレは仲間と笑いながら飲む酒の方がいい。お前を倒さないと手に入れられない酒なんて、いくらへびごろしだろうと要らねえよ」


そう言うとツチノコはフードが千切れる程の勢いで目深に被り端っこで小さくなっていた。


(あれ?今ツチノコさん)


と、かばんが疑問に思ってると、


「いい事言うねー」


と、フェネックが茶化す。


「うるせえ!突っつくな!」


「照れなくてもいいよ!実際かっこよかったよ!」


「やめろやめろー!!」


ツチノコは猛スピードで走って壁の後ろに隠れた


「ねえアライさん。すごいよねーツチノコ」


「…」


アライさんは固まったまま微動だにしない。


「あれ?アライさん?」


「…」


「あー」


「あれ、フェネック、アライさんどうしたの?」


「アライさん気絶してるみたい」


「「「えええ!?」」」


サーバル、かばん、ツチノコの声がハモる。


「アライさん、すごく感銘を受けると立ったまま固まっちゃうっていう何処ぞのペンギンみたいな事になるんだよねー」


「なんじゃそりゃ…」


「まあ面白いじゃん。それとツチノコ。これ」


フェネックはツチノコにアライさんが持ってた酒ビンを手渡した。


「え、なんで…?」


「ほら、アライさん気絶しちゃったじゃん。これ、ツチノコの勝ちで良いんじゃないかな」


「えー…?」


かばんが疑問に満ちた表情で言う。


「ま、まあありがたく貰っておくよ」


「そういえば、カバがなにか面白いもの見つけたって言ってたよー。行ってみたらどうかなー?」


「なに!?だったら行く!よし、サーバル、かばん!着いてこい!」


「わー待って!」


「置いてかないでくださーい!」


「行っちゃったなー。さて、私はアライさんの目覚めを待とうかな」



〜サバンナの水場への道中〜


「色々ありましたが、無事お酒を手に入れることが出来て良かったですね」


「ああ、これはアライさんとフェネック、そしてコノハとミミのお陰だよ…?アレ?」


「どうしたの?」


「これ、よく見たら「へびごろし」じゃなくて「べいひろごし」じゃねえか!つかなんだ「べいひろごし」って!業界用語か!」


「落ち着いてツチノコさん!」


「熱くなりすぎだよ!」


結局、へびごろしでは無かったとさ。

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