第2話 ツチノコと記憶

「え?ミライさん?」


突然弾かれたように大声を上げ、かばんに飛びつくツチノコ。それを不思議そうに見つめるサーバル。


「た、食べないでください!」


「食べねえよ!」


「ああ!それ私とかばんちゃんのいつものくだりなのにー!」


と、かばんのお馴染みのくだりをツチノコとした後、改めてツチノコに話を聞く。


「ツチノコさん、ミライさんを知ってるんですか?」


「ああ。てかよくよく見たらお前の帽子がミライと同じなだけで髪色とか格好とか色々違うな。ま、帽子も私が知ってるものより大部ボロくなってるが」


ツチノコがかばんをよく観察しながら呟く。


「でもツチノコ。何で知ってるの?ツチノコはボスの声を聞いただけじゃなかった?」


「は?何言ってんだお前。お前とミライはずっと一緒にいたじゃねえか」


「え・えー?!うーん、よくわかんないや」


ツチノコの言葉に全身から?マークを出しながらサーバルが混乱する。そんな様子のサーバルにツチノコも混乱する。


「博士。これはどうゆう事だと思いますか?」


「えーっとですね助手。本で読んだことがあるのです。人格やら記憶やらが一つの体に二つ以上持つ者があるそうです。きっとツチノコはその類なのです」


「え?どういう事ですか?」


コノハ博士達の会話をなんとなく聞いてたかばんが興味深そうにコノハ博士達の会話に入ってくる。


「私がなんだってんだ?」


ツチノコも?マークだらけで頭がパンクしそうになってるサーバルと共にやってきた。


「サーバルちゃん、大丈夫?」


「ごめん、ちょっと整理させて…」


そう言うとサーバルはそこから動かなくなった。低スペのパソコンが膨大なタスクを処理するように。


「一つの体に二つ以上の人格を持つ者のことを多重人格者と言うのですよ。ツチノコはおそらくそれだと思うのです」


「私が多重人格者…だと?自覚が無いのだが」


「多重人格者はお互いの人格の記憶は共有してない事が殆どなので、自覚ないのもやむなしです」


「記憶の共有をしていることもありますが、そもそも多重人格者の絶対数が少ないので希中の希です」


「あ、じゃあ今のツチノコさんはぼく達が知らない時の記憶を持ってるって事ですよね?」


「そのはずですよ」


「だったらツチノコさん。貴方の記憶を教えてくれませんか?ミライさんのことを知ってるみたいですし、ぼく、すごく気になるんです」


「…まあ、ここは私が知ってるジャパリパークじゃ無さそうだし、別に構わねえよ。お前はミライ達以来のヒトみたいだしな。このパークに何があったか、気になるなら聞かせてやるよ」


「ありがとうございます!」


深々と頭を下げるかばん。それを見てツチノコは溜息を吐く。


「お前を見てるとやっぱミライと被る…。ま、いい。まずジャパリパークとはなんなのか。かつてはどんな場所だったか説明する」


そう言うとツチノコはおもむろに語り始めた。

※アプリ版のネタバレ注意


(語り部 ツチノコ)

ジャパリパークは世界中に住む動物達を一箇所に集め、ヒトと触れ合ったり研究したりする為に作られた巨大動物園だ。そこに空の彼方から突然降ってきた神秘の物質であるサンドスターに当たった動物達がこのような体になった。ここまでお前も知ってることだろ?

ここはまだいいとして、そんなジャパリパークにある日突然事件が起こったんだ。セルリアンだよ。パークの出入口となっていたパーク・セントラルにセルリアンが急襲したんだ。そのセルリアン騒ぎの時はジャパリパークは一旦閉園し、問題解決に急いでいた。

そんな平和じゃなくなったジャパリパークにて、またおかしなことが起きた。サーバルの偽物が現れたんだ。このサーバルは、そこでフリーズしてるのとは違う個体な。その偽サーバルはサーバルが持っていた「特別」、まあ「けもハーモニー」って奴だ。長くなるから細かい説明は省くが、偽サーバルの正体はそのけもハーモニーを奪ってサーバルに似た姿になったセルリアンだ。セーバルって呼ばれてたが。ん?サーバル?・・・まいいや。

セーバルはセルリアンの女王に、けもハーモニーを起こす特別を渡すため活動していた。その特別が女王に渡るとけもハーモニーならぬ「セルハーモニー」が起き、ジャパリパークは壊滅する。それを防ぐためにサーバル、それとカラカル、トキ、ルル(トムソンガゼル)、シロサイ、ギンギツネ、ミライ、そしてジャパリパークの園長である「トワ」の八人で解決に向かった。この事件を「セルリアンの女王事件」と呼び、結局セーバルは特別を女王に渡さず、サーバルとの友情で覚醒し、フレンズとして女王相手にサーバル達とともに戦った。

無事解決したがこの後、とんでもない事件が起こる。

それが超巨大黒セルリアンの強襲だ。このセルリアンの強さは女王の比じゃない程で、討伐に向かったフレンズ達も大勢食べられたり、大怪我を負わされたりひどい有様だった。

私も討伐に向かったが力及ばずボコボコにされた。そこらの動物とは一味も二味も違う実力を持つシーサーやオイナリサマ、カマイタチなどもそいつを大ダメージを負わせたりする事は出来たものの、完全に倒すまでにはいかずこちらのダメージの方が大きかった。

私が倒せるのかとか不安になってる時、ミライからこんな事を言われた。『爆撃機により攻撃を開始しますので島の外へ避難してください』ってな。

言われるがまま避難したが、爆撃機による攻撃でも黒セルリアンを完全に倒すことは出来なかった。そしてこれ以上は危険だと言う事でパークに居たスタッフなどのヒト達は皆パークの外へ出ていった。ミライは最後まで『この島にいる』と抵抗していたが、やがて折れ、最後の思い出とし、観覧車に乗ってから私たちに見送られながら去っていった。私達が残った理由か?セルリアンを倒すためだ。私を始めとしたただの動物じゃないフレンズやまだ生き残ってる皆が協力し黒セルリアンを倒そうとした。爆撃機の攻撃が思いの外効いていたのかかなり弱っていて倒せるかってギリギリの時、彼奴は退避していった。とどめを刺すため全員で突撃していったが、それが罠だったみたいだ。彼奴の逃げると見せかけたフェイントの最後の攻撃を攻撃することしか考えてなかった私達が避けれるはずもなく全員被弾だ。黒セルリアンとフレンズ軍の戦いはフレンズ軍の負けだ。



「以上だ。最後のセルリアンの一撃を食らってからの記憶は靄がかかったかのように思い出せない。恐らくそこでもう一人の自分の人格に変わったのだろうな」


ツチノコの長い説明が終わり、過去について色々分かった為、かばん、ミミ、コノハはとてもまんぞく…そうな顔をしていたがサーバルだけは処理が追いついてないのかまたフリーズしていた。


「ジャパリパークの過去ってそんな壮絶だったんですね…」


「話に出てきた黒セルリアンはもしかしなくとも『あの』セルリアンでしょうね」


「そうですね助手。我々で倒せたのは先人達の努力があってこそだったんですね」


「え、お前らあいつを倒したのか!?」


ツチノコが仰天する。


「そうですね。かばんに助けられたパークの皆がかばんを助けるため勢揃いし、海に沈めました」


「それだけ、皆がかばんを助けるため必死になっていたってことでしょうね」


「お前、すごいやつだな…」


ツチノコはかばんを見て心底感心する。


「えへへ、ありがとうございます」


「かばんちゃんはすっごいんだよ!」


と、処理が終わったサーバルが自慢する。


「お前が威張ってどうすんだよ」


ツチノコのツッコミ。そして皆で笑い合う。


「あ、そうでした。忘れるところでした」


と、コノハ博士が思い出したように告げる。


「しんりんちほーの洞窟にてお酒が見つかったそうですよ。確か『へびごろし』って名前ですが」


「へびごろしだと!?あの名酒が!?」


ツチノコの目がチカチカと光り輝く。


「こうしちゃいられねえ!今すぐに行く!」


ツチノコはコノハ博士から場所を聞くとダッシュで走っていった。


「あ、待ってー!私もいくー!」


「ちょっとサーバルちゃん!待ってー!」


かばんとサーバルもツチノコのあとを追っていった。


「相変わらずサーバルは騒がしいですね。博士」


「そうですね助手。でも私一つ、サーバルに気付いたことがあるのです。」


「博士。奇遇ですね。私もです」


「ツチノコがセーバルの話をした時___」



ツチノコは走りながら考えた。私がセーバルの話をした時、アイツが涙を流してたのは、多分アレだからだろうな…

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