その13
ユズル部長たちがいなくなり、わたしたちは3年生となった。成り行きでわたしが文芸部の部長となる。
3年生3人、2年生2人。
なんとかして今年も1年生を数名確保しなくてはならない。
そうしないと来年以降の部の存続が覚束なくなる。
「長坂部長」
「うーん。普通だねー」
2年生がわたしを呼ぶその呼び方に対してやや不満を覚える。
「誰か『ユズル部長』みたいな気の利いた呼び方考えてくれないかなー」
「長坂さんは結局ユズル部長が好きだったんだよね?」
「う。手塚さん、核心突かないでよ」
「だったらさ。やっぱり新1年生で長坂さんに一目惚れした男の子が呼び方考えるべきじゃないかな」
同じ3年の手塚さんはとてもおっとりした子なのに、こういう時は鋭いことをスパッと言う。
「そうだよ。僕もそう思う。っていうか、そうして?」
「谷くんまで・・・」
3年生2人してわたしを追い込む。
そうこうしている内に新入生たちが学校にいつの間にか溢れ、とうとう部紹介の集会の当日となった。
「文芸部の部長、長坂です」
一言そう言って、壇上から新入生の群れを眺めやった。
「かわいー!」
ヤジとも冷やかしともつかないような男子生徒の声が体育館に響き渡った。
まさか、とは思うけど、わたしに言ったの?
「はい?」
マイクで増幅されたわたしの間抜けな声にどっと笑いが起こる。
座っている一年生の左前方の方を見ると、周囲から、『この、この』という感じでつつかれている男の子がいた。
わたしは顔から背中からかあっ、と火照ってしまい、わたわたになった。
「えと、えと、文芸部、入ってくださいね」
おおー、どよめく声が聴こえる。
「ユズル、長坂部長が入部を認めてくれたぞー!」
と、その男の子へ周りの子たちが更に囃し立てるように言う。
ち、違うっ! その子にだけじゃなく1年生全員に言ったんだって!
って・・・あれ・・・?
『ユズル』だって・・・?
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