その11

「・・・この名前にしようって押し切ったのは、ばあちゃんなんだ」

「そうなんですか?」

「出生届を出すぎりぎりまで父親は抵抗したんだ。こんな名前つけたらこの子は一生母親の死に引け目を感じなきゃいけないって。でも、ばあちゃんは違った」


 こくん、と全員でうなずいて、ユズル部長を促す。


「”うちの嫁が自分の命と引き換えにしてまで跡取りを残してくれたのに、そのこころざしを引き継がんで、それでも男か?”」


 すうっ、と一呼吸する。


「そう言って、父親を怒鳴りつけたらしい」

「かっこいいおばあちゃんですね」


 西さんが声を掛けた。ユズル部長は淡々と続ける。


「僕は、”命を譲る”以上のことは思いもつかない。命に比べたら、これくらい別にゆずってもいいかな、って感じでなんとなく子供の頃からそうしてきただけだよ。推薦を譲ったのも単にそれだけのことなんだ」


 柔らかく締めくくったのは加藤さんだった。


「分かったよ。アンネンくんの意思にユズるよ」

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