21-30

21


なんか原子爆弾とか積んだ空母の艦長の副官とかになって、発狂した艦長に向かって必死で「何を仰っているんですか!何を仰っているんですか!」って叫んだ挙げ句呆然と「狂っている……」とか呟きたい



22


なんか11歳の子供になって天井裏に死体があると言い張る父方の祖父の代わりに押し入れから天井裏に上がって探検するが死体はやはり見つからず代わりに鼠の糞や蜘蛛の巣の残骸にまみれた謎の箱を発見しそれを祖父に見せたところ祖父が物凄い悲鳴をあげ聞きつけた父親の顔が能面のようになるのを見たい



23


なんか魔女の弟子とかになって庭の薬草の管理を命じられ最初は渋々世話をするもそのうちどんどん面白くなってきて魔女の期待にも応えられるようになり魔法そっちのけで薬草園に入り浸りとうとう破門され名薬師になるがそれは適性を見抜いた魔女の巧妙な誘導の結果であることにある時気づいて感謝したい



24


なんか舟幽霊に底抜け柄杓を渡し虚しい行為を繰り返す腕々を見ながら最初は勝ち誇るも次第に落ち込んできて(奴等はこれを繰り返し、俺達も漁に出続け、この先もずっとこんな)的な考えが頭を過ってふと本物の柄杓を渡しかけた手を老漁師に掴まれ正気に戻り何も言わずに櫂を漕ぎ続けその海域を抜けたい



25


なんか5歳の坊やになってじいじの葬儀で家中バタついてるときに家族分のお昼が必要だがどうしても手が離せないママからはじめてのおつかいを頼まれチェーン店のお弁当をなんとか選んで無事買えて、迎えにきたママに「買えたよー!」って言ったらその途端ママがぐしゃぐしゃになって泣き出すのを見たい



26


なんか象牙専門の密猟者とかになって象を散々殺しまくるがある時取引先のブローカー経由で稀代の象牙彫刻師に出会い彼の作品に打ちのめされその作品の完成のために象牙を手に入れようと普段渡らぬ橋を渡ったところそれはサツと彫刻師の仕掛けた罠であったため完成を見ることなくあえなくお縄につきたい



27


なんかとんでもない栄華を誇った大都市を攻略してその都市の人々が何よりも大切にしていた大聖堂を視察し見事な壁画や天井窓を眺めて「素晴らしい…」って恍惚と呟き隣で案内人やってたインテリ捕虜に一瞬の希望を抱かせるも次の瞬間に同じ口調で徹底的な破壊を命じるーとかそういう役やりたい



28


団長がお辞儀をするたびにゾウが消え、ライオンが消え、ぶらんこが消え、ぶらんこ乗りが消え、そして、「団長!何故です」ただ一人残ったピエロが声をあげる。団長は空の客席から向き直る。「目を覚まそう。サーカスはいつも夢でしかない」シルクハットを手にお辞儀。ピエロの視界は



29


風が語りかけます。「うまい、うますぎる」風には味覚がありません。「うまい、うますぎる」饅頭屋はとうにありません。「うまい、うますぎる」語りかける相手もありません。「うまい、うますぎる」そのむかし風は人でした。「うまい、うますぎる」誰もいない地球を吹き渡っています。



30


私が知っていたこと。誰も私達を知らないこと、私達も誰も知らないこと、私達は街を織りなし消える雑踏の一音にすぎないこと、そのくせ街を愛したあなたのこと。砂の様な無関心が全てを飲み込むこの街で、人塵に巻かれ喉が嗄れても、私たちは美しい、美しい、美しいのだと、叫び続けたあなたのこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る