Stand on me
さて、カメの話である。
みなさん、カメって飼ったことあります?
私はかれこれ二十年以上カメを飼育しているが、同じようにカメを飼っている人の話を聞いたことがない。
情報交換をしたことがない。
ただ、恐らく自分の飼育方法があまり宜しくはないであろうことは理解しているのである。詳細は言えない。
まあ、それでもこれだけ長生きしているのだから、百点満点とは言えなくとも、ぎりぎり及第点くらいの飼い主なのではなかろうかとは考えている。
なので、世の中の『動物の声が聞けたらいいのに』という言葉に対し、私は全く否定的である。
自分のペットの本音とか聞きたくない。
嫌われてたらどうしよう。
ところで、ネコなりイヌなりのかわいい仕草といえば一々挙げればキリがないであろうが、カメのかわいいポーズとはなんであろうか。
カメを飼育することの醍醐味といえば?
これは流石に、実際に飼っている人でなければ分かるまい。
それは、日向ぼっこだ。
間違いない。
大きなミドリガメの甲羅の上に、一回り小さなイシガメが乗っかり、二匹とも同じように目を細めて太陽に向かっているのである。
ぬぼーっとした顔だ。
はい、かわいい。
これは癒される。
ただ、私が心配なのは下のカメだ。
甲羅の半分が水に浸かっている。
その上で、小さいカメが悠々と陽に浴しているのである。
かわいいけど、ちょっとどうなんだろう。
確かに、一番陽当たりのいい場所が狭いので、自然とそうなってしまうのも仕方ないのかもしれない。
私は一計を案じた。
水を替えるタイミングで、まず水槽(代わりの収納ケース)の向きを変えた。
長い面を陽の当たる向きに置き、石と砂利を敷き詰めて長い土手を作った。
これならば二匹とも十分に陽を浴びれることだろう。
感謝するがよい。
私は満足してカメを放し、餌を放ってその場を去った。
翌日。
私が作った土手は他ならぬカメたちの手で(足で)見事に踏み荒らされ、平地になっていた。なんなら他の場所より水深が深いくらいだ。
そこに、甲羅の殆どを水面下に没したミドリガメと、その上に乗っかり陽を浴びるイシガメがいたのである。
二匹とも、表情は穏やかだ。
そこには、余人には到底踏み入れぬ二匹だけの世界があった。
そうか。
それがお前たちの生き方か。
ならば私は何も言うまい。
lagerはcoolに去るぜ。
私は餌を振り入れ、その場を去ったのだった。
……因みに、餌を給した瞬間は両者の立場が逆転する。
ミドリガメはイシガメを押し退け、踏み潰し、我先に餌へと食らい付く。
彼らが互いのことをどう思っているのか、矮小なる人の身に知る術はない。
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