1-4)人物と物語の関係性について

 さて、前述のように女性である証拠を一話からずっと描き続けることで、横須賀に言語化して指摘、サツキと同一人物であると謎解きをさせようというのが終盤の関係変化としての目標です。さてここまで決まると、人間変化のシーンが明確になってきました。


 復讐者が復讐相手とあったとき、どうするでしょう。ということです。山田が殺そうとする、殺させろと言う。それを止める、逆らう。それが人間変化として演出に使えそうだ、と思います。

 基本的に物語には書き手の趣味が入ると思っています。私は復讐はバッドエンドだと思っています。成功してはいけないものだと思っています。バッドでなくてもハッピーにはならない、と。特に神話生物ならまだしも相手は人間です。人殺しは恐ろしい。


 故に横須賀には山田を止めてもらいたいと思います。それも説得なんてかわいらしい形はやめておきましょう。山田は半ば狂気じみた執念でもって名前も性別も偽り復讐を望んだのですから。もっと物理的に——それこそ、狂気じみた形でもって。

 ここで復讐相手を考えます。相手は兄の友人です。山田はごく普通の少女だったので、美しい顔の兄の友人に淡い想いを抱いたかもしれません。恋ではなくても、あこがれのようななにかを、少女は抱いていた。しかしその友人は、神話生物に興味を抱く人間だった。

 実験のような形で兄が巻き込まれ、そして兄を失った両親がその友人にそそのかされて冒涜的儀式に手を染めます。どうにか止めようとし、——最終的に両親も彼女は失う。すべての原因は、兄の友人です。


 さて、しかし物語のラストに山田の過去だけでは横須賀が薄くなります。ここで山田と横須賀の歳の差を決めます。山田37~38歳、横須賀22~23歳。15離れているということは、山田の兄の友人は39歳くらいでしょうか。さて、この友人にまた別の友人——犠牲者を作ります。そしてその犠牲者の娘を、この友人が利用したとしましょう。この娘は横須賀の対比です。兄の友人が山田の敵なら、この少女は敵側で横須賀の対とするのです。


 横須賀は親に愛されなかった設定があります。そしてそれを悲しいと気づいていません。なのでこの少女には横須賀の過去を混ぜましょう。この子は名前を叶子とします。叶える子。逆にいえば、叶える為以外に生まれなかった子です。

 平時は親に見てもらえず寂しい気持ちを抱えながら、冒涜的な儀式に使われ心と精神を病んだ子供です。見目麗しい女性とすればそのちぐはぐ的な恐怖もあるでしょう。17歳の美しい美しい子供です。(としましたが、十八歳未満は、と思ったので都合で19歳とその後変更しました)

 横須賀は彼女に関わりながら同情しながらも振り回されしかし救うことは出来ません。救いたいと願うことすら曖昧になるほど、自分の内側を抉るように似ている、「望まれなかった子」この子をラストにします。横須賀は母親を見限れません。しかし少女は父親を見限り、山田の復讐相手と手を組みます。そちらに利用されます。山田が使う横須賀、復讐相手が使う少女。ここに対比がまた一つ出来ます。

 山田の復讐相手の男は神話生物により最後死に、少女をどうするかという形に残しましょう。少女は儀式的な形で、山田の兄が死んだ理由を内包しています。故に山田は必死に彼女を殺そうとします。


 ここで山田を止める存在を作ります。といってもこれは使い回しですね。刑事の探索者がいるのでそちらを用います。都合がいいことに彼女は美青年に見える女性キャラですので、男のように見えても女であるという人間の描写、山田が男でない証明として使いやすい。

 さてこの刑事が狂気を持った山田を止める。山田は殺したがる。少女を横須賀の腕の中に。ここで一つの形を作ります。山田に殺させたくない。復讐はバッドエンドだ。少女は神話的な儀式以外で望まれなかった子供だ。横須賀は望まれない子供だった。


「俺が殺します」

 背筋を丸め気の弱い青年が、静かに告げる。背筋を伸ばし、自身の中の細い小さな少女を見下ろして。何を言っている、と山田が理解できないように言う。

「そのこは望まれなかった。そいつも望まれなかった。山田さんはだめです、そいつ、とは違う。それでも山田さんが殺したがるなら、そいつ、が殺します。世界に存在しなかった、から、出来る。よかった、そいつ、だからできるんです。そのこを連れて行くならそいつが一番良い」(そいつ、は親から名前を呼ばれなかった横須賀の幼少期の一人称)

 狂気じみた言葉。返す言葉がない山田。やめないか、と平塚が叫ぶ。

「山田さんがそれ(凶器)を持っている限り、平塚さんは手を離せません。また殺そうとしたからとかけだしても——俺は初めて背が高くてよかった、と思います。俺は先に殺してしまえる」

 こういったことで、横須賀は自分の甘えたかった過去を重ねた少女を殺そうとします。山田が横須賀を失ってもよければそのまま失うでしょう。けれどそれまでに山田は横須賀を信頼して——武器を離して平塚に止めるよう頼む。平塚が横須賀を止める。少女は死にかけるが死なない。

 横須賀が座り込む。腰が抜けました。何考えているんだお前は。信じてました山田さんのこと。山田さん、俺、必要でしょう? だからきっと、止めてくださるって——こういう形で、横須賀は自分が必要とされるのだという自己肯定を見せる。これで人物変化の完成です。


 ただこれは前述の中でわかるように、横須賀の幼少期のことや少女について救い切れてません。ただこれを食い込ませるとまた別の話になるので、横須賀と山田の話は一度この形で終わらせよう、と思います。物語は完全に解決しなくても、続く形でもきっといい形で終わるのだと示唆できればいいと思いますし、個人的にはこのあと番外編だとかいう形で横須賀がフォローされれば……いいなあと思いますが、このキャラクターの性格上きっと救われることはないのかな、と思うので、強くなれるこの終わりを一度目指そう、というのが目標ですね。

 これで一応、②どのようにつくっていくか のイメージが固まりました。よかった。ざっくりこういうシーン書きたいなあですませるのが私ですざくざく。

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