寡黙な花
ぱすた
第1話・邂逅
叙情的な夕闇に浮かぶ、君の影。壮美な雰囲気に満たされた教室の一角に佇む、筆舌に尽くし難い程に優美な君。決して言葉を紡ぐことの無い君の表情から汲み取れる感情は、希薄の一言に尽きる。静寂に溶ける君は、何も変わらない。
勇気なんて言葉は、僕には縁の無い言葉だと思っていた。一生涯、使う機会の無い言葉だと思っていた。
「一緒に……お祭り行かない?」
でも、僕は言葉を絞り出した。君の瞳を見据えて、握った拳に滲んだ汗を振り払って、言葉を投げ掛けた。
一生涯、使う予定の無かった勇気を振り絞る時節に、強い焦燥感が背中を押した結果なのだろう。
口を飛び出した言葉は、僕の手の届かない場所に行って仕舞った。もう、無かった事には出来ない。静寂さえ喧騒。一瞬で吹き出す冷汗に嫌悪感を感じる暇さえ無く、居た堪れない感情が後悔の念を駆り立てる状況に、呼吸さえ止まった儘、ただ僕は待った。君の返答。何かしらの応答を、只管に待った。
「……」
やがて、時は一瞬。永遠のような刹那。君は、小さく揺れた。僕の視界の端で、君は揺れた。風の所為と言われて仕舞えば、僕は否定できないだろう。
「え?」
見逃して仕舞った君の挙動。勢い良く顔を擡げた先で、微風に戦ぐ君の髪。灼けた夕日を背に立つ君の表情を伺うことは叶わない。
でも、君は揺れた。
僕の勇気の発露に、君は頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます