君に贈るひまわりの花 ー天才国家魔法士と幼馴染の恋は、なかなか進まない(改稿中)

渚乃雫

第1話 今夜の月は


 ほんのりと光る月明かりと星が綺麗に瞬く夜。


 月を囲むように浮かぶ雲の合間を1つの小さなナニカが音も立てずに飛んでいく。


 月の明かりが飛行物を照らし、その明かりを反射した飛行物がキラリと光るそんな夜。


 人々は眠り、夜の街を出歩く生き物も減った真夜中に、ビルの屋上で二人の青年が揃って夜空を見上げている。






「いやー良いよね。この映像。シュールでさ。いつ見ても笑っちゃう。ねぇ、みつき、そう思わない?」

「………俺は別に」


 ケラケラと楽しそうに笑う青年は、ビルの屋上の縁に座り、細く長い足をゆらゆらと揺らしている。

 ほのかな風が吹き、青年の髪がさらりと揺れる。

 ほんの少し見えた首筋。

 夜空を見上げる少し垂れた目尻と長い睫毛に、透き通るような白い肌。

 その横顔だけ見れば、顔立ちの綺麗な青年の横顔だ。

 だが、彼を作る全てと、彼が纏う空気からは何とも言えない艶めかしさが滲み出ている。


 とはいえ、彼本人も、隣に座る「みつき」と呼ばれたもう一人の青年には、自身の名を呼んだ彼の艶めかしさなど全く関係が無いようで、月の光に照らされながら、彼等が見上げるのは夜空を飛んでいる例の人型だ。


「見てみなよ、みつき。綺麗な夜空を飛ぶマリオネット。こんなにシュールな映像、滅多に無いじゃないか」

「………俺は結構頻繁に見ているが」

「そりゃあ、みつきは僕の相棒だもの、当たり前でしょ」


 夜空を音もなく飛んでいた例の物体は、暗闇にも溶け込むような黒い服を着たマリオネットで、操る糸が無い為か手足はだらりと下へと伸ばされている。高度も速度も落ちることなく一定の速度を保ったまま、相変わらず夜空を飛行している。

 そんな脱力したままのマリオネットを眺めながらケラケラとまた笑い出した彼とは違い、みつきの表情は、先程から殆ど変わらず、つまらなそうな表情にも見えなくもない。

 けれど未だに笑う彼はそんなことには一向に構わないらしい。


「みつき、それ僕にも頂戴」


 そう言って、何の躊躇いもなく口を開けた青年の口に、みつきは食べかけの氷菓子を押し込んだ。

「んん」と小さな呻き声が聞こえた気はしたが、みつきは気にしてないらしい。

 シャク、と氷菓子を噛みしめた彼らの口の中にはヒヤリとした感覚と果実の甘みが広がった。



「みつき、今夜の色は、何色?」

「………結城ゆうきは何色だと思う」


 みつきから結城と呼ばれた青年の細く長い指が、女性の頬を優しく撫でるようなしなやかな仕草で、夜空の星を見えない線で繋いでいく。

 自分を見ずに答えたみつきの言葉に、線を描いていた結城の指先がふ、と動きを止め、そのタイミングで、飛んでいたマリオネットの動きも止まった。


「僕は……そうだなぁ、紺青かな?」

「……俺は深縹こきはなだだと、思う」

「深縹か。良いね。そうだね、そうしよう」


 あっさりと自分の出した答えを捨てた結城に(紺青ではないのか)とみつきは心の中で声に出さずにつぶやく。


 軽快に楽しそうに表情豊かに話す結城と、あまり表情を変えないみつき。

 パッと見だけでも正反対な2人だが、みつきが声に出さずにいたことも、隣に座る幼馴染みの結城には十分に伝わるほど、彼等は同じ時を共に歩んできている。


 それは、現に今も。


「良いんだよ。紺青でなくて。だって、深縹には、みつきの字が入っているからね」

「俺の字はひらがなだろ」

「漢字なら深い月って書くのだからいいんだよ」


 そう言って、何故だか上機嫌に鼻歌を歌いだした結城の周りには、キラキラと氷のような、小さな星のようなものが何処からともなく舞ってきている。

(まぁ、結城が良いのなら別に夜空の色でも何でもいいが)

 そんな風に結論をつけたみつきは隣の幼馴染みの満足そうな横顔を眺め、もう一度、すすす、と動き出した夜空のマリオネットと、結城の指先へと視線を戻す。



 星が輝き、月は満月に向かって日に日に存在を増し、時が穏やかに過ぎていく夜。

 その終わりは、ドォンッ、と静寂を突き破る爆発音と空気を大きく揺らす振動で終わりを迎える。


 勿論、屋外に居た彼らにもこの爆発音は聞こえており、上機嫌だった結城の鼻歌がピタリと音を止める。


 つい、と細められた結城の視線と共に、マリオネットが緩やかに動きを止める。


「みつきー。残念ながら、今日は徹夜かも知れないね」

「………今日も、の間違いだろう?」

「そうかも」


 はぁ、と心底残念そうに溜息を吐く結城に、一足早く立ち上がったみつきが、ホラ、と片手を差し出して結城に立ち上がるよう促す。


「僕が嫌だと。行かないと言ったら?」


 ほんの少し口角を上げながら、結城が座ったままみつきの瞳を真っ直ぐに見つめる。

 熱を持ったような結城の瞳に、片手を差し出したまま見つめ返すみつきの様子が映り込む。

 まるで、夜中の月明かりで密会をする二人のようなシルエットが出来上がってから、ほんの数秒後。


「それなら俺が一人であっちを片付けに行くだけだろう。警察には適当に証言しておけばいい。協会への報告は明日でもいいのだから、俺は別にそれでも構わないが」


 大した問題でも無い、と事も無げに話すみつきに「ま、みつきだしね」と結城は一人楽しげに笑う。


「それに結城が此処に残ると言うなら、此処の後片付けも一人でするのだろう?」


 コレも宜しく、と差し出した手とは反対の手で空になっていたジュースの空き缶を座ったままの結城の前に置けば、ガタタッと音を立てて彼が勢いよく立ち上がった。


「よし決めた今すぐ行こう!さっさと行こう!」


 パン、と服についた汚れをはたき落とした結城に、こうなる事を予想しきっていたみつきは「だと思った」と小さく溜息をつき、さっさと屋上をあとにしようとする結城の背を追いながら、静かに笑った。



「6区の空き地」

「分かった」


 ドドド、と深夜にバイクのエンジン音が低く重く鳴り響く。

 するりと後ろの席に結城が座ったのと同時にみつきがアクセルグリップを握った手首をクンッ、とスナップを効かせて捻らせた。


 深夜の街灯も少ない路地を大型バイクが音を立てずに進んでいく。

 低く重いエンジン音が鳴り響いたのは始めだけで、通常なら聞こえる筈のバイクの走行音は響いていない。

 彼らの居た大通りに面したビルから、真っ直ぐに通りを走り、幾度かの角を曲がり、少し視界が開けた時、閃光のようなものが、夜空に打ち上がる。

 その光を確認した彼らは、迷うことなく光の上がった方角へとバイクを走らせていく。


「みつき……来る。11時の方向」


 後ろに座る結城がそう呟いた瞬間、空中に現れた3つの赤い光がもの凄いスピードでこちらに向かって飛んでくる。

 今この距離であれば、まだ避けられる距離でもあるが、ハンドルを握るみつきは進行方向もスピードも変えることなく真っ直ぐに突き進んで行く。


「結城」

「ん」


 みつきが短く背後の幼馴染みの名前を呼ぶ。

 その声に結城もまた短く答えながらみつきの腹部に手を回し腕に力を込めたのを合図に、二人の身体が大きく斜めに倒れた。




 ズザザザザザザザザ、と車体が地面に大きく半円を描きながらスライドし、赤い光を正面に捉えながら、バイクの動きが止まる。


「なんで僕がわざわざこんな」

「当たるぞ、結城」

「あー!もー面倒ばっかり僕に押し付けるんだから」


 ブツブツと文句を言いながらも、みつきを掴んでいた手を離し、向かってくる光に結城が掌をかざす。


 そして、次の瞬間。

 光は音もなく消えた。



「なっ?!!消えたぞ?!」

「いや!でも確実に捕らえていた筈だ!!」

「だが現に!!」


 光が飛んできた方角にいた者達の困惑とどよめきがその場に広がっていく。


「おい!アレ!」


 ざわめきの中、一人の人間が、光が向かっていた筈の方角とは反対側を指さしながら、一際大きな声を出し、その声につられるように、その場に居た者達が一斉に彼の指さした方角へと振り向いた。


「おや、見つかっちゃった」

「そりゃそうだ」


 ふわ、と流れるのは、ほんの少しの甘い匂いを含む風。


 驚きざわめく者達と違い、みつきの背に寄り添ったまま結城はクスクスとおかしそうに笑う。


「なっ?!だ、誰だ?!お前っ」

「誰だと、思う?」


 目を細め、薄く微笑む結城の口角がほんの少しあがり、じぃと見つめられた彼らは、結城の瞳から視線をそらすことなく動きが止まる。

 大勢の目を集めたままの結城は、先ほど赤い光にかざした手の指先を、つつつ、とそこにある何かを撫でるかのようにゆっくりと動かしていく。


「ねぇ、そこの君」


 空中に泳がせていた結城の指先が、一人の人間にピントを合わせて止まる。


「え?!お、オレ?」

「うん、そう。君」


 ニコリと微笑みかけられた相手の頬が、視線を合わせた瞬間に、真っ赤に染まる。

 その様子をクスクスと笑いながら眺める結城の指先が、動きを止める。


 ーー 「あのね」


 声に出さずに唇を動かした結城に、視線をそらすことができずにいた彼の喉が、ゴクリ、と動く。


「これ、君にあげる」

「え」


 そう言った結城が微笑み、見つめられていた彼が、短く言葉を溢した瞬間、ビリビリッ、と電気のようなものが彼の身体に走る。


「え、何っ」

「おい!!上っ!」

「ヤバイっ!逃げ」


 異変に気づいた者が、上を見上げ、驚きの声をあげる。

 彼らが見上げた先にあるのは、自分達の頭上に浮かぶ青白く、明らかに電気を含んでいるであろう丸く大きな物体で、パチパチッと小さな稲妻が、物体と取り囲んでいるのが否が応でも目に映り、彼らの瞳が一瞬にして恐怖の色に染まる。


「貴様っ!」

「え、ちょ、待っ」

「だいじょーぶだいじょーぶ。気絶するくらいだから。多分」


 にこり、と最上級の笑顔を浮かべた結城の指先が、パチンッ、と良い音を鳴らし、青白い球体が、彼らの真上で真っ白い光を放ち、バリバリッと音を立てて消えた。


「まったく、僕に迷惑かけて気絶で済んでるんだから感謝して欲しいくらいだよ」

「………結城。あったぞ」

「あー、もう、やっぱり僕がハズレくじじゃない」


 容赦ない結城の電撃で倒れた彼らの様子をバイクから降りることなく観察していたみつきは、倒れた彼らの奥にあった暗闇に同化しそうな漆黒に塗れた大きな箱を見つけ、エンジンを切った。


「あ、もしもし?僕だけど」


 するりとバイクから降りた結城は、箱に向かって歩き出しながら、ポケットに入れてあった携帯電話で何処かへと電話をかけはじめる。

 その様子を眺めながら、みつきもまた倒れている彼等に近づき、彼等の所属を確認していれば、胸元に見覚えのあるピンバッジのようなものを見つけ、みつきの手が止まる。

(……このマーク)

 何処かで見た気がするが、何処だったかが直ぐに思い出せず、みつきは小さく首を傾げる。


「そう、うん。こっちにあった。ん?みつきどうしたの?」


 電話をしていた結城が、首を傾げ何かを考えているみつきに気がつき声をかければ、みつきが「あ」と短く言葉を零す。


「思い出した」

「そのマーク何処の?」


 しゃがみ込んでいたみつきの背に、結城がのしかかりながら問いかければ「この間の資料の」とみつきが結城に振り返ることなく答え、彼等の持ち物を探す手を再開させる。


「こんなマークのやつ写ってたっけ?」

「写真の隅に居た」

「僕知らないんだけど」

「それほどに小さな組織ってことだ。何か入ってる」


 ゴソ、と彼等の荷物の中からみつきが取り出したものは、倒れている彼らが使っていた魔法の力、いわゆる魔力の増幅用のクリスタルで、手のひらほどの大きさをしている。

 大半の魔法士は、少量の魔力でも効率よく魔法を使えるよう、魔力の増幅用クリスタルを使うことが多い。

 未使用の場合は透明度が高く、光をよく通すが、みつきによって取り出されたクリスタルは、白く濁っており所々に大きくヒビが入っているのが見える。


「おや、良いの持ってるね。彼ら、そんなにお金持ちなの?」

「いや、無名な上にそんなに財力も無いところだったと思う」

「そう。じゃあ、ソレは偽物?」

「多分な」


 クリスタルを月明かりに翳しながら答えたみつきの言葉に「ふーん」と呟きながら結城がクリスタルに触れた瞬間、パリンッと音を立てて、クリスタルが小さな欠片の塊へと変わった。


「あ、割れちゃった」

「質はどうであれ所詮、レプリカはレプリカだということだろ」

「そう。ということだよ。聞こえてたでしょ。え、何。本気で言ってんの?あ、ちょっと!そういうの要らないし!もしもし?!もしもし?!」


 ツー、ツー、ツーと結城の携帯電話から聞こえる電子音が通話の終了を告げている。


「……切られた」

「そうみたいだな」

「あーもう。本当に何で僕がこんなことしなくちゃいけないんだ」


 口を尖らせ、ブツブツと文句を呟きながら携帯をポケットにしまいこんだ結城は、目を細めた後、じっと南の方角を見て、眉間に皺を刻む。


 その様子に気がついたみつきが「今度は何だ?」とちらりと見上げながら問いかければ、結城が「あのオヤジが」と短く答える。


「……あの人来るのか?」

「いや、オヤジは来ないってさ。その代わりに警察に事情説明しておいたから、僕たちで対応しろってさ」

「……押し付けられたな、結城」

「まったく、今日は災難だよ、本当。しかも、今日は田村のおっさんもいるらしいし」

「田村さんはおっさんって歳でも無いだろ?それに結構良い人だぞ?一応」

「あんな奴が良い人なわけないし!アタマ固いし!」


 心底嫌そうな表情を浮かべながら言う結城にみつきは小さく笑う。

 遠くに聞こえ始めたサイレンの音が、段々と近づき、その距離に比例するかのように、結城は大きなため息をつく。


「どうする?先に帰るか?」

「全力で帰りたいところだけどね。今日は僕が居なくちゃダメみたい」

「そうか」

「そう。ああ、もう帰りたい」


 そう言った結城が、はぁ、ともう一度ため息をつきながら乗ってきたバイクに座り込めば一際大きなサイレンと、エンジン音が、あたりに響き渡った。



「おやおやおや。誰がお待ちなのかと思えば、国家魔法士史上最年少魔法士、津雲つぐも結城ゆうきくんじゃあないですかぁ!」

「……うるさいよおっさん。何時だと思ってんの」

「おっさんじゃないわ!しかも激しくドンパチやってたお前に言われたくないわ!」

「あー、もー、五月蝿い。本当五月蝿い」


 勢いよく止まったパトカーから降りてきたのは、警察庁魔法対策課第一課所属の田村で、「事件は非魔法かつ、人の力と知恵で、捜査および現場は足で解決する」をモットーにしているドラマや小説の中で見るような刑事を目指す田村と、14歳の時に国家魔法士に認定された結城は、根本から考えかたが異なるせいか、顔を合わせる度にギャンギャンと毎度変わらずに言い合いをしている。まぁ、要するに、非常に相性が悪い。


「だから五月蝿くしたのはどっちだ!」

「先に手を出してきたのはアイツラだし!珍しく僕が協力してあげてんのに何なの本当」

「お前なぁ!大体、急に何でお前に変わってんだ!さっきまで立花たちばな氏だったじゃないか」

「僕だって不本意だし!そもそも河瀬警部補とかが来てくれれば良かったのに」

「あ?てめぇ、喧嘩売ってんのか」

「あれ?今更気づいたの?」

「てめぇクソガキッ!」

「こんな美少年捕まえてクソガキだなんて、目腐ってるんじゃない?おっさん」


 嗚呼いえばこう言う。まるで小学生の口喧嘩のようなふたりの会話に、田村を上司に持つ警官達は毎回の事ながら「田村さん!あの!」「警部、現場が」等と必死に声をかけるものの、熱くなってしまっている田村に彼らの声はまるきり届いていない。


 早く終わらないものか、と自然と静かになることを期待しその様子を暫く眺めていたみつきも、終わることなく続くふたりの言葉のやり取りに小さくため息を吐いて「結城ゆうき」と小さく、けれどはっきりと聞こえる声で相棒の名を呼ぶ。


「なに?」

「結城。そろそろ終わりだ。田村さんも、皆さんが困ってます」

「……桧山ひやま

「むう」

「文句はあとで聞く」


 ほら、と近づき片手を差し出してきたみつきの手を取り「明日の朝、みつきの珈琲もつけて」とバイクから降りながら言う結城に「珈琲だけでいいのか」とみつきは小さく笑いながら答える。


「ちっ」

「警部?」

「……なんでもねぇ」


 手と手が触れる瞬間に、小さく舌打ちをした田村に傍にいた警官が気が付き声をかけるものの、田村は眉間の皺を深く刻み「現場見るぞ」と逃げるように二人から視線を外して歩き出した。


「田村さん」

「お、桧山。どうした?何かあったか?」

「えぇ、少し気になる点が」

「どれだ」

「コレ、なんですが」

「…コレは…増幅用のクリスタルか?魔法士達が使うっていう……」

「レプリカです」

「レプリカ?コレがか?」

「はい」


 先程、結城が触れ砕けたレプリカの欠片を手のひらに乗せたまま答えるみつきに、田村は「粉々じゃねぇか」と眉間に皺を刻みながら答える。


「『本物』にはレプリカじゃ耐えられなかったみたいです」


 そう言って、ちらりと結城を見たみつきに、チッと小さく舌打ちをした田村に、みつきは何も答えることなく静かに笑う。


 出会った時よりも、高くなった背と、最近になってまた少し低くなった声。五月蝿く騒ぐヤツの横にいるにも関わらず静かに、けれど常に受け身でいるばかりでも無く、自身のやるべきことは着実にこなしていく。

 時々、こうして笑う姿に、ドキリ、と心臓が大きく跳ねるような感覚に襲われ、クリスタルのレプリカに伸ばしていた手が、空中で不自然に止まった。


「田村さん?」

「……何でもねぇよ」


 きょとんとした顔をしながら首を傾げて見えたみつきの首元は、ここ数日の強い日差しのせいなのか以前見かけた時よりも少し日に焼けている。

 みつきに『本物』と言われる結城ゆうきは、いつ見ても白い肌をしており、日に焼けたところなど見たことがない。

 二人は一緒に居なかったのか?などと一瞬考えてみるものの、結城とみつきが別行動をしているわけが無いと田村はすぐに自分自身で浮かんだ考えを消し去り小さくため息をつく。


 目の前の首を傾げている青年は整った顔をしている。

 認めたくはないが、顔だけで言うのならば、みつきよりも結城のほうが俳優やアイドルよりも整った顔をしていて、魔法対策課に配属されたばかりの頃は、二人が並ぶのを見て、どこのアイドルだよ、と最初の頃はよく心の中でツッコミを入れていた。

 一課に配属され、数名の国家魔法士と面識を持つようになったが、国家魔法士はどうやら基本的に美形が多いらしいことに気がつくものの、こんなにも目で追いかけるのは、国家魔法士ではない、桧山みつき、ただ一人だと、思う。

(目で追うって………まるで恋でもしてるみたいな……いやいやいや、ってそもそも桧山は男だぞ?しかもオレより年下じゃねぇか?!)


 ブンブン、と頭を振って浮かんできた考えを消し去ろうとする田村の名前を「田村さん?」とみつきが不思議そうな声で呼ぶ。

 呼ばれた声に振り返るものの、じっ、と見てくる顔に頬に熱が集まるのを感じた。


「桧や、ま」

「はい」


 どうにか絞り出した小さな声にも彼が答えたことに何となく嬉しさがこみ上げるものの、その気持ちは「みつき!」と少し離れた場所から彼を呼ぶ声によってすぐに掻き消されていった。


「みーつーきー」

「なんだ?」

「ちょっと来てー!……おっさんも」

「おっさん言うなクソガキ!」

「はぁ?僕たちよりも20歳近く上なんだからおっさんでしょ」

「20じゃねぇ!15だ!」

「……?」


 チッ、と舌打ちをしながらずんずんと歩いて行く田村と、何だか少し機嫌が悪そうな結城を見て「何、怒ってるんだ?二人とも」と小さく呟き、首を傾げながら少し遅れて田村のあとを追うようにみつきも歩き出した時、結城の足元に小さな空気の渦が生まれ、「うわっ」という声とともに結城の身体が大きく後ろへとぐらついた。





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