永遠に続く世界か1日だけの世界か
なりろう
彼女の日記
初めまして!となりに引っ越してきた者です!
あぁ、よろしくね。
緊張せずに言えたわたしを少し誇らしげに思う。
お隣さんに挨拶をしたあとわたしを待っていたのは、バイクに乗った赤いヘルメットのお兄さんだった。
お手紙ですよ。と優しく手渡しでくれた。
あら、わたし宛にお手紙なんてめずらしいわ。ありがとう。
そう言ってその場をあとにすると昔よく通っていたお店にとても似ているカフェが見えてきた。そうわたしは今日ここで小腹を満たすの。
所謂お茶ってものね。時計も15時を少し回るくらいだし、計算通りね。初めてだから少し緊張するけど…まあ大丈夫よね、どうせ明日になればみんなわたしのことなんて忘れているんだものね。
おそるおそるお店のドアを開け窓側のテーブル席に着く。
とりあえずメニューに目を通したが、わたしは好物のシフォンケーキとティーのセットを頼んだ。お店の中は思ったよりも人が少なく…というよりわたしと丸メガネのおじいさんだけ。店員さんは背が高く白髪で目が線になっているおじさんで、とても雰囲気がある。
セットのシフォンケーキとストレートティーを楽しみながらいつも持ち歩いている古い本の紅い栞が挟まれているところから読み始める。この本はわたしが20歳の頃、お父さんが成人のお祝いとしてくれた小説。大好きな本だからいつも持ち歩いててたまに読んでしまうの。でも最近忘れっぽいのか最後が思い出せないの。ど忘れってものかしらね。
そんなことを考えていると、ケーキとティーがきた。すると小さなクッキーが添えられている。店員のおじいさんにどうしてと聞いてみると、よく来るお嬢さんだからプレゼントですって。誰と間違えているのかしら。でも、美味しそうだからありがたくもらったわ。
そうして、お茶を楽しんでいると見るからに30代、もしくは40代くらいの落ち着いた男性がひとり入ってきた。
その彼は常連なのか慣れた様子で店員さんにカウンターでコーヒーを注文し、そのコーヒーを持って、わたしに「少しお話しをしませんか」とたずねてきた。これが俗に言う、“ナンパ”というものなのかもしれないと少しばかり胸躍らせるも、正直わたしより10歳、もしくはもっと年上ということで少しだけ怖かった。
彼ははじめましてと最初に言って、軽く自己紹介をした。真面目なひとだ。しばらく話をしていると悪い人ではないように思えた。そして、なぜだか少し落ち着くような気がした。それは彼と何度も話したことがあるような感覚だった。
そんなことを考えていると、彼から変な質問をされた。
え?スマホ持っていないのかですって?
持ってないわ。いえ、実際には持ってきてないわ。連絡する相手もいないし、その逆もないもの。
でもね、今朝わたし宛に手紙をくれる人がいるの。その人はわたしに「はじめまして」と書いて送ってくれるの。まあ、当たり前かもしれないけど、わたしは当たり前のことをしっかりする人が好きなの。それにとても律儀な人でしょ?
わたし昨日の夜に引っ越したばかりのはずなんだけど…どなたかしら。
名前を見たけど、知らない人だったわ。なんとなく見覚えも…ないわね。
怖くないの?という質問にふと考えさせられた。
たしかに知らない人ですもの、少しは怖いわ。でもね、文字や文章の書き方にとても優しさがあるの。だから正直いまあなたに聞かれるまで、そんなこと思いもしなかったわ。
直接会ってくれないなんて、恥ずかしがり屋な人なのかしら。
一度でいいから会ってみたいわ。
その後その男性と別れて家に帰ると、もう19時を回っていた。わたしは今朝家を出る前に作っておいたおかずとご飯を食べて、お風呂に入りベッドに向かった。
今日も新鮮な1日でとても楽しかった。おやすみなさい、わたしを知る世界。
永遠に続く世界か1日だけの世界か なりろう @narirou23
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