一四. 禁忌への覚悟㉕


 

 



 人は何故生きるのか

 

 どう足掻いても

 気休めばかりでまともな答えなど見つけられずに


 その問いのはじまりが

 何故に人は、時にこんなにも苦しみながら生きているのかと

 そんな始発点からである以上


 ならば人に生まれたこと自体が

 苦しみなのだと。


 やがて先人たちは

 そんな諦念にこそ、辿りついた









 「どうか・・生きてさえいれば、また新たな志も生まれる日がくるはずだ。今からでも遅くない。今はただ生きていてくれるだけで有難いんだ・・!」

 

 なお諦めきれぬ近藤の悲痛な乞いに、

 

 「そうだぜえ、生きてりゃまた楽しいことはたくさんあるさ・・!希望なんてもん暫く見失っていたって、ただ生きてるだけでなかなか悪くないもんよ」

 

 無理に明るい声で、原田が畳みかけて。

 

 「そうだ、俺達で決めた法なんぞのために死なんでくれ。死ぬときは共に戦で死のうじゃないか」

 

 井上がさらに説こうと試み。

 

 必死の説得は夜通し続いた。

 


 「有難う、皆」

 しかし山南は、首を振った。

 

 「そして、すまない」



 澄みきった微笑みが、皆を見渡し。

 

 「私はもうこれでいいんだ」


 安らかな諦念に固められた山南の意志は、揺るぎなかった。



 「この身を武士として、志も、人の世の希望も見失った身で生き永らえるより、・・決して自棄になるのではなく、ただ私は、私の散り方を選びたく思う。私は戦で殺し合う中で散るよりも、私だからこそ出来るこの方法で、組の役に立って散りたいと・・切に願うよ」

 

 この最期の願い、受け入れてはもらえないか

 

 山南は皆をひとりひとり見て、そして近藤を見た。


 

 

 零れ落ちた涙を払わず、近藤は。

 

 ついに、頷いた。

 

 

 

 「感謝します」

 山南は頭を下げて。

 

 そして、

 

 「沖田君、」

 沖田のほうを向き、微笑んだ。

 

 「介錯は、君に頼めないかな」



 「拝承します」

 

 沖田の返事に、山南は今一度頭を下げ。

 

 

 皆を最後に再び、見納めるかのように、見渡した。

 

 

 「今まで有難う。皆に出会えて、私は本当に幸せだったよ」

 

 

 

 

 翌朝に、組の全員の見守る中、山南は見事な切腹にて、その命を絶った。

           








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る