研究者たちの仮説


 とにかく、まずは私がお父さんや父様に話をするからそれまでは誰にも渡さないようにとセトくんにはしっかり言っておいた。

 一応セトくんも、2人からは私の許可を得てからとは言われていたらしい。うむ、そこは素晴らしい。お父さんと父様は私の好感度を下げずにすんだ。


 でも私のことだからきっと許可してもらえないって思わないものかなぁ? 言いくるめられるとか思ってそう。絶対に許可なんかしないんだからねっ!


「マキちゃんは、明日もまた研究の続きかな?」


 セトくんの上達に驚き、話が一度落ち着いたところで今度はマキちゃんに話を聞く。私の質問に頷いて答えたのを確認し、明日は私も一緒に行ってもいいかと訊ねた。


「異世界の落し物に関しては、私も少しだけ協力出来るかもしれないから」

「そうなんですか!? ぜひっ! 大歓迎ですっ」


 マキちゃんの目がキランと輝いた。な、なんかオルトゥスの研究者っぽくなったよねぇ……。夢中になる分野に対して目の色変えるところはラーシュさんの影響をかなり受けている気がする。

 ま、まぁいい。私としても前世と繋がりのある世界からの落し物については一度しっかり知っておきたいと思っていたからね。


 本当のあの世界なのか、他の世界なのかとか。物が転移してくるのはなぜなのか、転生や転移してくるのも何か繋がりがあるのか、とかね。


 マキちゃんと約束をした後は、4人でそれぞれこの1年での話をして盛り上がる。意外と、私たちの話も興味深そうに聞いてくれていたな。行ったことのない地方の話なんかは特に。同じ大陸でも行ったことがなければ気にもなるか。

 そのおかげで、後半は私とアスカがずーっと喋り続けることになりましたとさ。楽しかったけど、ちょっと疲れたーっ!




 翌日、今日は朝から研究所に顔を出そうと決めていたので、いつも通りの時間に起きて身支度、朝食を済ませた。そのまままっすぐ研究所に向かうと、所員の皆さんがすでにラーシュさんとマキちゃんが談義を繰り広げていると苦笑しながら教えてくれる。


 えっ、どれだけ早い時間から話してるの!? 食堂ではみかけなかったな、とは思っていたけど! まさか朝食抜きにはしてないよねぇ? ラーシュさんはともかく、マキちゃんはちゃんと食べているといいんだけど。


 ヒヤヒヤしながら部屋のドアをノックして中へ入る。返事はもちろんありません。昨日みたいに集中しているから気付いていないのだろう。ちょっと心配になるよ……。


「おはようございます、ラーシュさん、マキちゃん」

「だからこれがー……って、あ、メグちゃん!」

「お、おはよう、ございます」


 目の前にヒョイッと顔を出して挨拶したことでようやくこちらに気付いてくれた2人。本当に危険な時とか、大丈夫? 逃げ遅れたりしない? まぁ、そんなことは滅多に怒らないだろうけどさっ。


「マキちゃん、ご飯食べた?」

「あ、あはは。実は食堂でサンドイッチをもらってここで食べたんです」

「そっか。んー、ちゃんと食べているならよし! でも根を詰め過ぎちゃダメだよ?」


 私が人差し指を立てて注意すると、照れたようにマキちゃんは頭を掻いた。悪い部分まで勉強しなくていいからね? 頼むよ? ジトッとラーシュさんを見ると、申し訳なさそうにビクッと肩を揺らしている。自覚はあるらしい。


 ただまぁ、この人も悪気があるわけじゃないもんね。熱中すると自分でも制御出来ないのだ。ある意味病気である。引き続き所員さんに頼るしかなさそうだね。まったくもう。


「それで、今はどんな研究をしているんですか?」


 このことで話していても時間の無駄なので、早速本題に入ることにした。ラーシュさんとマキちゃんの目がわかりやすくキランと光る。お、おう。


「今、僕たちは異世界の落し物が落ちてくる場所について考察を続けているんだけどね。これまでの研究では魔力の溜まる場所に落ちてくるんじゃないかって説が有力だったんだ。実際、魔大陸で発見された落し物はこのオルトゥス周辺で見つかっているからね。だけど……」

「だけど、落し物は人間の大陸でも見つかったでしょう? 私が当てもなく散歩している時に見付けるくらいだし、その仮説はちょっと違うんじゃないかって。だって、私には魔力がないし、そもそも人間の大陸には魔素があまりないからって。それじゃあどういった条件で異世界からの落し物が……」

「わ、わかった、わかったからちょっとストップ! 2人とも早口すぎるよーっ!」


 ラーシュさんに続いてマキちゃんまでもがものすごい勢いで説明をするからたじたじだよ! しかもじわじわとこちらに近付いてくるし! ちょっと怖い。

 両手を前に突き出して叫ぶように止めると、2人ともすぐにハッとなってごめんなさいと同時に謝ってきた。やっぱり似てきたよね。心中複雑である。


「え、えーっと、とりあえず質問させてもらっても……?」

「「もちろん!」」

「わっ、あ、あはは……」


 一度は落ち着いたものの、やはり第三者がこの話に興味を持ってくれるのが嬉しいらしく、2人の目がキラキラ輝いている。これはある程度は耐えなければなさそうだ。覚悟を決めよう。


「えっと、魔大陸で異世界の落し物を見付けた場所の分布図とかはあるんですか?」

「あ、あるよ! ちょ、ちょっと待って」


 私の質問を聞いてラーシュさんが迅速に動く。そりゃもう迅速に。

 そこまで広いとは言えない室内をシュバッと移動し、丸められた大きな紙を中央のテーブルに広げた。上に載っていた物を思いっきり無視しているので、バラバラと物が床に散らばっていく……。いいのかそれで。


「はい、こ、これ」

「ありがとうございます。……うーん、オルトゥスの周辺が一番多いですね。次に魔王城、か。各特級ギルドもちょっとあって、他にも各地でチラホラ、かぁ」


 分布図にはわかりやすく赤い点で落し物を発見した場所が示されていた。赤い点が多く集まっているのはオルトゥス周辺。時点で魔王城のようだ。

 確かに、これだけ見ると魔力の多い場所に現れるって仮説が立つのもわかるな。だってお父さんと父様がいるからね。今は魔王城にはリヒトもいるし、今後は魔王城付近でも増えそうだ。


 あ、いや魔力の多さという仮説が違うんじゃないかって話になっているんだっけ。マキちゃんが見つけた異世界の落し物は人間の大陸だし……。そこで見つかるなら魔大陸ではもっとたくさん見つかっていてもおかしくないよね。


「マキちゃん、こういう落し物はマキちゃん以外で見付ける人はいたのかな?」

「う、うーん、それはよくわからなくて……。私、身体も弱かったしあまり遠くまで出歩けなかったので」

「それもそっかぁ」


 ん? そう考えるとますます違和感が……。マキちゃんは街の散歩中に見付けたって言うけど、その街でさえ出歩く範囲は狭かったはず。貧民街も危険な場所には近づかなかったって言っていたし、もっと狭いよね?

 それなのに、箱にいっぱいの落し物を見付けるなんて、そんなに都合よく見つかるものかな? まるでマキちゃんが引き寄せたみたいな……。


「っ! ら、ラーシュさん! 異世界の落し物を見付けた時期ってわかります!? 時系列と場所を見比べたいんですけど……!」

「も、もちろん。い、一度それも、し、調べたからね」


 ラーシュさんはそう返事をすると分布図に魔術をかけた。すると、赤い点だけだったのが濃淡のある点へと変化していく。


「い、色がこ、濃いほど昔で、う、薄いものほど、さ、最近み、見つけた物、だよ。く、詳しい時期も、わ、わかるけど……」


 分布図に集中する。オルトゥス周辺は濃淡満遍なくあるけどやや薄めのが多いかな? 魔王城は薄いのが圧倒的に多いみたい。そして各地にあるのは濃淡バラバラだ。一見、関連がなさそうに見えるけど、私の予想が正しければ……!


「魔王城付近で見つかった薄めのものの中で、一番古いのがいつ頃かわかりますか?」


 ドキドキしながら返事を待つ。すると、ラーシュさんからは予想通りの答えが。うん、私の仮説が真実味を帯びてきた。


「な、何かわかったんですか?」


 マキちゃんとラーシュさんの視線が痛い。そ、そんなに期待のこもった眼差しで見られると……! きっとそうだって思ってはいるけど自信がなくなっていくぅ。


「た、たぶんだよ? 仮説だからね? 違っていたらごめんね?」

「その仮説を考えていくのが研究の醍醐味なんじゃないか!」

「そうですよ! 間違いを恐れていたら何も始まりませんから!」

「ハイ」


 食い気味である。わ、わかったからもう少しだけ落ち着いてーっ!

 ちょっとだけ離れてね、と2人に声をかけてひとつ咳払い。私は、自分の考えを口にした。


「異世界の落し物は、場所を目当てに落ちてるんじゃなくて、特定の人の近くに落ちてるんじゃないかな……?」


 そうなのだ。魔王城で見つかった落し物は、リヒトが魔王城にやってきた後から急激に増えているんだよね。だからこれは、リヒトをめがけて周囲に落ちてきているんじゃないかなって思うのだ。

 今ラーシュさんに確認した時期も、ちょうどリヒトが魔王城に住み始めた頃だったもん。もうほぼ間違いないよね?


 じゃあそれ以外はどうなんだって? それはもちろん、お父さんである。

 お父さんはオルトゥスはもちろん、魔大陸各地に出向いている。あちらこちらで落し物が見つかるのもたぶんそれが理由だろう。濃い色の魔王城付近のものも、お父さんが呼び寄せていると考えれば不思議じゃない。


 そして、オルトゥスが一番多い原因は、私だ。私がずっとオルトゥスにいるからである。


 もうお分かりだろう。つまり、異世界の落し物は……。


「元々は異世界にいた人、つまり異世界の魂に呼び寄せられてるんじゃない、かな?」


 それなら、なぜか日本の物ばかりが落し物として見つかるのも頷ける、のだけど。


 2人の沈黙が怖い。辛い。何か反応してぇ……! 縮こまっていると、バンッとテーブルに両手をついてラーシュさんが感動したように口を開く。び、びっくりした。


「そ、それだ。それだよ、メグさん! もうそうとしか考えられない! 頭領が引き寄せていたのなら各地で見つかるのもわかるし、魔王城でここ最近で増えてきているのも納得だ!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」


 興奮気味に話すラーシュさんの言葉を止めたのはマキちゃんだ。その表情は複雑そうで、新たな仮説に嬉しい気持ちはありつつも困惑している、って感じ。まぁ、そうだよね。


「そ、それでいくと……私も異世界の魂を持っているってことに、なりませんか……?」


 理解が早くて助かるよ。そう、仮説が正しければそうなるよねーって私も考えたのである。


「……そうなるね?」

「そ、そんな軽く……」


 なので、首を傾げながら微笑むと、ちょっと脱力したようにマキちゃんも苦笑を浮かべた。


────────────────


せっかくバレンタインなのでTwitterに上げたif小話をのせておきます!


【メグ&ギルif】

メグ「ギルさん!」

ギル「?」

メグ「その、これ…」

ギル「これは?」

メグ「きょ、今日は好きな人にチョコをあげる日なのでっ!!」(脱兎)

ギル「っ!」(即確保)

メグ「!」

ギル「つまりそれは、メグが俺を好きということでいいんだな?」

メグ「……ソウデス(小声)」

ギル「……聞こえないな?」

メグ「う、うううう嘘つきぃ!」

ギル「ちゃんと聞きたいだけだ」

メグ(ずるいっ)

ギル「……無理にとは、言わないが」

メグ「〜〜〜っ!す、好(アイリ」゜ロ゜)」ハイソコマデ-!


続きはいつかの本編で!(お邪魔虫作者)

さっさとくっつけばいいのに(お前が言うな)


ハッピーバレンタイン!!

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