【クリスマス番外編】メグサンタ計画、始動! 後編
24日12時に前編を更新しております。まだお読みでない方はそちらからお楽しみください。
後編はギル視点です。
メリークリスマス!!
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真っ暗なギルドのホール。
魔道具があるためこんなことは普段あり得ないが、とある計画のため今日は明かりを落としている。
俺は夜目が効くため問題はないが、ここまでサウラに連れてこられる予定のメグは何も見えていないだろう。不安がっていなければいいのだが。
ふと、サウラとメグの気配を察知する。どうやら無事に部屋から連れ出せたらしい。戸惑うようなメグの様子が伝わり、わずかに口元が緩んだ。この後に見せてくれるだろう驚いた顔が目に浮かぶ────
「ギル、最近メグの様子がおかしいと思わないか」
そう頭領に言われたのは4日前だ。それは俺も感じていたことだったため、すぐに相談に乗った。
というのもここ最近、メグは空き時間のほぼ全てを自室で過ごしていたからだ。本人は本を読むのに夢中になっている、と言っていたがそれが言い訳であることは誰もが気付いていた。メグは嘘をつくのが下手だからな。
だが、嫌な思いをしているだとか、悩んでいるだとか、そういったマイナスな雰囲気は感じなかった。何かを隠しているのは確かだが、それがどういった理由で、何のために隠しているのかまでは探れない。
「メグちゃんにも成長期がきたんだもの。何でもかんでも知られたくはないわよ。いい? 絶対に詮索しちゃダメよ。このくらいの年頃は難しいんだから!」
サウラにはそう何度も注意された。特に、男親はやたらと首を突っ込んではならない、と。それが後に嫌われる要因になりかねないとまで言われては、踏み込むことも躊躇われた。
とはいえ、日に日に疲れを滲ませた顔を見せられては何もせずに待っていられるのにも限界がある。そろそろ誰か、事情を聞きに行こうかと話し合っていた時だ。予想もしていない人物からこんなアドバイスをもらうこととなった。
「大丈夫よぉ。でもぉ、そんなに心配ならぁ、メグちゃんを楽しませることでもしてあげたらぁ?」
アドバイスをくれたのはミコラーシュ。夜の姿である女型のミコは、何があったのかを聞くのではなく気分転換させるのはどうかと提案してきた。
探られたくないことは誰しもある。子どもといえど、メグにだってあるだろう。それを無理に聞き出さないこの方法には誰もが賛成した。
「うし。じゃあ俺にいい案があるぜ! クリスマスパーティーだ!」
話を聞いてパーティーを提案したのは頭領だった。クリスマス、というのは何度か頭領から聞いたことがある。詳しくは知らないが。
まぁ、何かと理由をつけてパーティーをしたいだけだろう。オルトゥスのメンバーはそういうイベントを好む者が多いからな。
「メグも昔を思い出して懐かしむだろうし、いいアイデアだと思うぜ! あ、当日はクリスマスっぽい服とか装飾を身に付けてもらうからな」
「あら、楽しそうね! さっそくマイユに頼んでこなくっちゃ!」
「衣装ならラグランジェにも頼んでおこう。これを機に、街にも新たなブームが来るかもしれないしね」
ふむ、メグの前世でも馴染み深いイベントというわけか。なるほど。それならきっと、いい気分転換になるだろう。
そう気楽に思っていた。当日までは。
「……これを着なければいけないのか」
「おう。みんな何かしら装飾を身に付ける約束だからな。駄々こねてねぇでお前も着ろよ、ギル」
まさか自分がこんなに派手な物を身に付ける日が来るとは思わなかった。だが、ここで俺だけ身に付けないのはメグも残念そうにするだろうと言われてしまえば断れない。
……頭領は愉快そうに笑っている。絶対に楽しんでいるな、この人は。……はぁ。仕方ない。メグのためだと割り切ろう。そう覚悟を決めて準備を終えたホールにてメグが来るのを待っていた────
「あれ、真っ暗……?」
メグとサウラ、2人分の足音とともに、メグの不安そうな声が聞こえてきた。
「メグちゃん! メリークリスマス!」
そこで、サウラのよく通る明るい声が響く。その声を合図にホール全体に温かみのある明かりが一斉に灯され、魔道具によるクラッカーの破裂音が鳴った。
「「「メリークリスマス!!」」」
「うひゃあっ!?」
明るくなったところで、待っていたメンバーもクリスマスの挨拶を口を揃えて言い放つ。メグは突然のことに目をパチパチさせていた。予想通りの反応だ。
いたずらが成功したかのような笑みを浮かべて、頭領がメグの元へと歩み寄った。頭領は白い雪を模した飾りのついた赤い帽子を被り、なぜか白い付け髭をしている。
「驚いたか、メグ。今年は思いつきでクリスマスパーティーを計画してみたんだ」
そう言いながら、頭領はメグに赤いケープを着せた。頭領の帽子と同じような白い飾りが裾についた、愛らしいデザインだ。フワリと触り心地の良さそうな素材がメグによく似合っている。
されるがままのメグはいまだ状況を飲み込み切れていない様子だ。子どもには内緒にしておくのが鉄板だろ? と頭領は満足げに笑う。
ようやく理解し始めたメグは、周囲を見回し始めた。それぞれいつもとは違う、クリスマス用の装飾を身に付けていることに気付いたのだろう。
改めて見回すと、統一感や特別感があってなかなかいいかもしれない。……自分が身に付けるのは少々抵抗があるのだが。
それからメグの視線の先には、ホールに並んだテーブルの上にあるたくさんのご馳走。
「ま、まさしく、クリスマスパーティーだぁ……!」
ようやく、メグが口に出した言葉はそれだった。少しずつ目がキラキラと輝き始め、嬉しそうに頬を綻ばせている。
「どうだメグ! これで気分転換に……って、うぉっ!?」
言葉を遮り、メグは頭領に抱きついた。ほんのりと顔が赤くなっているので、やはりスキンシップは少し恥ずかしいという気持ちがあるのだろう。だが、嬉しいと思っているのはその表情を見ればすぐにわかった。
頭領もまた、まさか抱きつかれるとは思わなかったのだろう、一瞬戸惑ったような様子を見せていた。が、当然のようにすぐに抱きしめ返している。幸せそうに微笑んで。
「すごく嬉しい。……あのね、私も準備してきたの」
「あん? 準備?」
メグはそう言うと、収納魔道具からカードのようなものを取り出した。皆が身につけているような赤や緑で、カラフルに飾り付けられたカード。遠くからでよくは見えないが、それが手作りであるらしいのは見て取れた。
「メリークリスマス、お父さん! あの、出来は悪いかもしれないんだけど……気持ちは込めたよ?」
「カード……? これ、俺か?」
どうやら、カードには頭領の似顔絵が描かれているらしい。メグは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。
「お、お前、ここ最近部屋にこもってたのは、これを作るため、か?」
「え、えへへ……」
頭領の言葉に、俺も皆も驚いたように目を見開いた。しかも聞けば他の者にもこのカードを作ったという。全員分ではないだろうが、それでもかなりの数だ。それを1枚1枚、手作りしたというのか。それは部屋にこもりきりにもなるというものだ。
皆のために、1人で頑張っていたというのか。なんといじらしい。
他の人にも渡しに行くから、と言うメグに、頭領は再びメグを抱きしめた。ああ……その気持ちはよくわかる。
「なんだ、よかった……。お前の元気がないから、少しでも元気出してもらおうと思ってたんだよ」
「? えっ、まさかこのパーティーって……」
どうやら、パーティーの目的をメグも察したらしい。過保護が多いからな、オルトゥスには。
……しかし、頭領もメグも揃ってクリスマスというイベントに因んだ何かをしようとするとは。
「親娘だね」
「親娘だな」
2人同時に同じことを呟いたことで、ホール内には笑い声が溢れる。やはり、考えが似ているんだな。血の繋がりこそないが、魂の繋がりを感じさせる。
息が合ってしまった2人も目を見合わせて笑い合っていた。
「みんなに配ってくる!」
「おー。ありがとな、本当に。一生大事にする」
「そ、それはそれで恥ずかしいよ」
メグは頭領から身体を離すと、意気揚々とパーティーの中へ飛び込んでいった。俺は離れた位置で、メグの様子を目で追っていく。
クリスマスカラーと呼ばれる色合いのドレスを纏うサウラ、クリスマスには必要不可欠な動物であるらしいレンデールの耳と角、それから首元に大きな鈴をつけたメアリーラが、メグを間に挟んでカメラ魔道具で記念撮影をしていた。メグに抱きつかれ、抱きしめ返し、と嬉しそうにはしゃいでいる。
イルミネーションのように光るネクタイをして微笑むルドと、同じ格好で不服そうなレキはホールの片隅でお酒を飲みながらカードを受け取っていた。
メグに抱きつかれたルドは余裕の表情で抱きしめ返していたが、レキはどうしていいのかわからず手が泳いでいるな。だが、喜ばしく思っているだろうことは誰が見てもわかる。
本物に近いレンデールの被り物をしてるジュマは浴びるように酒を飲んでいる。だが、抱きつきにいったメグを抱きしめ返す腕の力はかなり加減していたし、カードは大事にしまっていた。あいつもそういう気配りが出来るようになったんだな、と思うと感慨深い。
白を基調としたスーツを着こなすケイは優雅にカクテルを手にしており、言うまでもなくメグを褒め殺している。いつも通りだ。メグは真っ赤になりながらもケイに抱きついている。当然、嬉しそうに抱きしめ返すケイは上機嫌だ。
フェイスペイントというものを頬に施しているニカとクリスマスカラーのストールを巻いたシュリエ、それから赤いジャケットを羽織ったロニーはソファー席でのんびり食事をしながらカードをそれぞれ受け取っていた。
このメンバーは安心して見ていられるな。それぞれが余裕を持って抱きしめ合い、穏やかで優しい空気が流れていた。
これまでも、この場所では様々なパーティーが開かれてきた。そのほとんどはただの飲み会で、俺にとってはひたすら騒がしいだけのものだった。最後まで参加したことは一度もない。
が、メグがいると一変する。やっていることはあまり変わらないのに、温もりと幸せが場に満ち溢れる。居心地も悪くないと思えるのはメグの存在があるからこそだった。
「メグ」
「ギルさ、ん……?」
近くを通りかかった時、思わず声をかけた。しまったな、あまりこの装いを見られたくないからと、今まで隠れていたというのに。
案の定、俺の声に振り返ったメグは驚いたように目を見開いている。
「……あまり、見るな」
「え、無理です。すごい! 似合う! 素敵ーっ!」
いつも俺はあまり代わり映えのない服を着ている。ほぼ戦闘服で過ごしているしな。だが今の俺はいつものマントではなく、暗めの色合いとはいえ赤と緑で縦横に線の通った柄のマントを着用している。裾にはメグと同じく、白いフワフワとした飾りまで付いているのだからなんとも微妙な心境だ。
「……頭領やケイに、無理やり着させられたんだ」
「すっごく似合ってるのでグッジョブですよ、2人とも! それに、私とちょっぴりお揃いみたい!」
お揃い、か? 確かにケープもマントも形状は似ているし、裾の飾りも同じだ。
……さては、俺がどこまでも拒否した時には、メグとお揃いだからと言って着させようとしたな、あの2人。胸中、複雑だ。
「メリークリスマス、ギルさん。あの、受け取ってくれます……?」
ふと、姿勢を正したメグが俺にもカードを手渡してきた。受け取ってよく見てみると、中央に顔が描いてあり、その周囲を綺麗に飾り付けてある。一つ一つ丁寧に、心を込めて作業したのだろう。その姿を思うと胸に何か熱いものが込み上げてくる。
「これは、俺か……」
「うっ、下手ですけど、気持ちは込めましたから! それから……えいっ」
「!」
勢いをつけて、メグは思い切り俺に抱きついてきた。そういえば、カードを配った相手にも同じように抱きついていたな。なるほど、メグからのプレゼントはカードと抱擁ということか。
「ギルさん……?」
こうしてメグを抱きしめる頻度も、だいぶ減ってきたように思う。成長が嬉しくもあり、物足りなさも感じる。これが寂しいという感情なのだろう。
動かない俺を不思議に思ったのだろう。戸惑ったように見上げてきたメグを見て、ほんの少しイタズラ心に火がついた。
「どんなだ?」
「え? わっ」
俺は、抱きしめ返す代わりに久しぶりにメグを抱き上げた。少し重くなったが、まだまだ大きくなっていくのだろう。いつまでこうしたスキンシップが出来るのだろうな?
「気持ちを込めてくれたのだろう? どんな気持ちを込めてくれたのかと思ってな」
「っ!?」
俺がそう訊ねるとメグの顔はみるみる真っ赤に染まっていく。
「どっ、どどどんなって、そ、それはその、日頃の感謝の気持ちを……!」
変化。それはなんと心を揺さぶるのだろう。だが、メグを愛おしいと思う気持ちには変わりがない。それだけはおそらく、不変だと思う。
せっかくだ。いつかこうしたスキンシップも嫌がって、一切受け付けなくなる日が来るかもしれない。そうなる前に、今のうちに堪能させてもらうとしよう。
「そうか。……ありがとう、メグ」
そっと、それでいて強くメグを抱きしめる。あたたかく、幸せな心地だ。
「い、いえ……どう、いたしまして」
相変わらず緊張した様子だったが、幼い頃のようにトントンと背中を優しく叩いてやると、少しずつ身体の力が抜けていくのがわかった。
そしてあっという間に、メグは俺の腕の中でスゥスゥと寝息を立て始めた。……これはまた、珍しい。最近は寝落ちることなどなかったというのに。
「ははっ。寝ちまったのかメグは。プレゼント作り、頑張ってくれてたみたいだからなぁ」
通りがかりに頭領が声をかけてくる。
そうだったな。オルトゥスの皆のために、ずいぶんと頑張ってくれた。今は少し、寝かせてやるのがいいだろう。
「そこのソファで寝かせてやってくれ。そうすれば賑やかな雰囲気と明るさですぐ目を覚ますだろ。せっかくのパーティーに参加できなかったとなれば、落ち込むだろうし」
それにどうせ、俺たちは夜通し飲み食いするしな、と頭領は笑った。
メグがもっと幼かったならば、このまま部屋に連れて行ってやるところだった。だが、今のメグなら多少の夜更かしは問題ない。まだ楽しめるということだ。成長するというのは、いい面もあるものだな。
「……メリークリスマス、メグ」
起きたらまた、色んな話を聞かせてくれ。そう願いながら髪ををサラリと撫で、眠るメグの手元にそっとプレゼントを置いた。
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