開幕!


「初めましての方も多いでしょう。私は上級ギルド、シュトルの代表を務めさせていただいています、マルティネルシーラと申します。今大会の総責任者でもあります」


 淀みなく紡がれるマーラさんの声は本当に耳心地がいい。見渡してみればみんながうっとりとその声に聞き惚れているのがわかる。そうでしょう、そうでしょう、見た目だけではなく声も綺麗でしょうマーラさんは! つい誇らしくなっちゃう。


「この度はこうしてたくさんの方にお集まりいただいいて、本当に光栄です。特に各国を代表される方々、お忙しい中お時間を作っていただいて感謝の念に耐えません」


 はっ、そうだった! 魔大陸の中の王様たちも観に来てるんだった! マーラさんの視線の先、おそらく私たちの上の階に各国の王様たちがいるのだろう。

 ど、どんな人たちなのかなぁ。一度は見ておきたいような、恐れ多いような複雑な心境である。確か、ステルラの人たちがおもてなししてるんだよね。卒なくこなしていそうだ。勝手なイメージだけど。


「今大会を開催するにあたって、我が上級ギルドシュトル以外にも様々な方たちが協力してくださいました。本日、各組織のトップの方々に、こちらに並んでいただいています。皆様ご存知の方々でしょうが、紹介をさせてくださいね」


 あ、お父さんたちの紹介が始まるみたい。これは拍手の準備をしないとー! 私は席から立ち上がって一番前の手すりにしがみついた。アスカもついてきたみたい。ワクワク。


「まずは魔大陸を統べる魔王、ザハリアーシュ様」


 マーラさんの紹介に父様が軽く片手を上げた。それを見た私はすぐさま全力で拍手をしてしまったんだけど……あれ? 拍手してるのは私だけ? みんなは父様の威厳やオーラにあてられて硬直してしまっているみたい。私のペチペチというちゃちな拍手音だけが響いていて非常に場違い感が漂っている。あ、あれぇ? 拍手するなんていう文化がないのかな? や、やってしまった? 私……!?


「あらあら、魔王様の御息女からの温かい拍手だなんて、愛されているのね、魔王様は」

「め、メグ……!」


 マーラさんのフォローが余計に恥ずかしいんだけど!? 気付いた父様は口元を片手で覆いながら涙目で打ち震え出してしまったし。感動させてしまったらしい。待って待って、本当に、みなさんもこっちに注目ないでっ!?

 あまりにも居た堪れなくなって手すりの下にスススッと顔を隠してしまう。なんともいえないカオスな場を見て会場の中心にいる面々がポカンとしている様子が隙間から見えた。そりゃそうでしょうよ! お父さんだけは肩を震わせて顔を背けてるけどね! わ、笑うならひと思いに笑ってよぉっ!?


 羞恥で私が顔を真っ赤にしていると、背後から拍手する音が聞こえてきた。驚いて振り向くと、オルトゥスのみんなが拍手をしてくれている。み、みんなぁぁぁ! オルトゥスのみんなは本当に優しいっ! 好き!

 それをきっかけに会場全体に拍手が広がり、温かな空気に包まれていく。訂正、会場にいる人全員が優しいっ! 私が涙目で顔を綻ばせていたら、みんなに頭を撫でられた。え、えへへ。


「ふふ、では次にいきますね。特級ギルドの頭領、ユージン様」


 拍手が収まった頃、マーラさんが今度はお父さんを紹介した。お父さんも呼ばれて軽く手を上げたので私はまた拍手をする。もう恥ずかしくなんかないぞ! 今度は、会場の皆さんも最初から拍手を送ってくれた。ちょっとホッとした。

 続く、ステルラのチーフであるシェザリオさん、アニュラスのヘッドであるディエガさんの時も同じように拍手が広がって、なんだか嬉しくなる。拍手を送られたあの面々はどことなく気恥ずかしそうだったけどね!


「皆様のお力があったからこそ、今日という日を迎えられました。本当にありがとうございます。皆様もぜひ、大会を楽しんでくださいね」


 本当にそうだよね。今日のために、いろんな人たちがいっぱい頑張ったんだ。


 ステルラが諸国への連絡やスケジュールの組み立てをし、シュトルが様々な計画を立てて人員を確保、オルトゥスが主に設備を担当してアニュラスが周辺施設の手配や必要経費の算出などなどを担当して、魔王城でそれぞれの最終確認と総監督をして……見事にそれぞれの得意分野で協力し合って今日を迎えられたんだ。


 魔大陸の人たちって人間とは違って協力して何か一つのことを為す、ってことがないから本当に感動だよ!


 それからマーラさんは、大会におけるルールや諸注意、施設の案内などの連絡事項を伝えた。うんうん、大事だよね。


「最後に、大会終了後にはこの施設を誰でも使用出来る訓練場として解放するつもりです。所属はこのセインスレイ国であり、運営は我がギルドのシュトルが引き受けていますが、発生した収益の一部は今回協力してくださったギルドや魔王城にもお渡しします。つまり、どの国に所属していても自由に使えるということです。各ギルド共通の意見として、特級ギルドに関わらず、とします」


 マーラさんの言葉に観客からどよめきが起こった。まぁそうだよね。基本的に、特級の称号がない団体は他国での活動や他国のギルドとの交流は禁止されているから。個人の依頼は出来るけどね。

 まだ出来たばかりの小さなギルドもここに来ることでいろんな人たちと交流、模擬戦などが出来るっていうのはとても大きい。どうやってギルドを運営していくかや大きくしていくか、などの情報交換なんかも出来ちゃうし。何より、他国のことを知れるのは重要なんだ。優秀な人材が育つことで、ますます魔大陸が発展していくのかもしれない。


「今大会が、魔大陸の明るい未来に繋がりますように。さぁ、大会を始めましょう!」


 マーラさんの言葉で会場は大いに盛り上がり、開会式が終わる。ついに、試合が始まるんだ!


『いよいよ開幕しましたぁっ! 皆様初めましてぇ! 私、今大会の実況と案内のアナウンスを担当させていただきまぁす、魔王城勤務の美人メイド、カリーナちゃんでぇす! 公平で元気できゃっぴきゃぴ実況をお届けしちゃいまぁす!!』


 と、突然、どこからともなくやけに明るく可愛らしい声が会場に響いた。え、え、実況? そんなのもつくの? 会場内もみんなザワついている。


『試合の解説につきましてはぁ、先程ご紹介されておりました、各ギルドのトップの皆さんと魔王様でローテションしますよぉ! うふふっ、豪華でしょーっ! カリーナちゃんたら、ドッキドキ!』


 え、たしかに豪華! でもほんと、この人テンション高いな!? ちょっとお会いしてみたくなる。


『さてさて! 早速、試合の準備をしちゃいますよぉ! まずは未成年部門! 魔大陸の宝である子どもたちが一生懸命戦いますよぉ! 皆さん応援よろしくお願いしますねっ!』


 やたら可愛い声のアナウンスが、1試合めのアスカとマイケ、それから2試合めのグートとピーアの名前を呼ぶ。私は5試合めだからまだ観客席で待機だ。しっかり応援しなきゃ!


「うードキドキしてきたぁ」

「アスカ、頑張ってね!」


 胸に手を当てて緊張しているアスカにエールを送る。この後ろにあるドアをあければ、試合会場控え室に行けるんだよね? と何度もシュリエさんに確認しているのがとても可愛い。


「ふふっ、アスカとメグちゃんが並んでる姿は本当に可愛いわねぇ! 戦闘服、お揃いなんでしょ? 似合ってるわ!」


 緊張を解すためか、サウラさんがいつも通りの明るい声で話題を変えてくれた。えへへ、そうなの。自分たちでもお金を出して買ったからお気に入りなんだ!

 アスカが淡い水色で、私が淡いオレンジ。ボトムスの形がちょっと違うけど、一目でお揃いってわかるのがやっぱり可愛いよね。仲良しみたいで私もお気に入りである!


「そうでしょ!? ぼくも似合ってると思う! ね、メグとお揃いだし、2人並ぶと最高にかわいいでしょ? ぼくたちお似合いだよねー?」

「わっ」


 褒められたアスカは一瞬でパッと笑顔になってグイッと私と腕を組んだ。バランスを崩してしまったけどなんとか転ばずに持ち堪える。もう、突然なんだからー! と文句を言おうと思ったけど、胸に押しつけられた腕から、アスカのバクバクいう心臓の音が伝わってきたので押し黙った。

 明るく返事をしてるけど、やっぱり緊張してるんだ。トップバッターだもんね、そりゃあ緊張もするよ。大会自体が初めての中、一番初めに見せる試合なんだもん。でも、それを悟らせないようにしてるの、なかなかカッコいいぞ!


「ふふっ、そうね。2人ともとっても可愛いわ! でも、可愛いだけじゃないでしょう?」


 そんなアスカの心情なんてお見通し、とばかりにサウラさんが強気に微笑む。やっぱりわかっちゃうよね。サウラさんだもん。というか、この場にいるみんながわかってるんじゃないかな? ジュマ兄はどうか知らないけど。


「アスカ、これまでたくさん訓練してきたでしょう? その努力を信じなさい。勝つも負けるも全ては経験。貴方の力になるの。相性の良し悪しだって試合には影響するわ。しっかり勉強してらっしゃい!」


 なんとも力強いお言葉だ。やっぱりサウラさんはすごいなぁ。私も元気がもらえたよ! アスカもホッと肩の力を抜いたのがわかった。良かった!


「うん! わかった! でもぼく、ぜーったい勝ってくるんだからね!」


 グッと両拳を握りしめてアスカが宣言する。そのまま私の方を向いたので、私ももう一度アスカに言葉をかけた。


「ここでしっかり応援するからね!」

「うん! メグが応援してくれるならいつも以上に頑張れそう!」


 天使のような笑顔でそう告げてくるアスカは事実、天使なんじゃないかと思いますっ! はぁ、可愛い笑顔にやられちゃったよ、お姉さんは!


「さ、行きますよアスカ」

「はーい!」


 シュリエさんに促され、アスカは控え室へと続くドアの方へと向かった。通りすがりにみんながアスカの背を軽く叩いたり声をかけて激励している。やっぱりオルトゥスは家族みたいだな。私の時もやってくれるかな?


 アスカと引率のシュリエさんが控え室に向かい、ドアが閉まったところで、今度はみんなで一斉に会場が見える場所へと移動した。私は椅子に座っちゃうと試合の会場が見えなくなるので手すりにしがみついて立ち見である。背が低い者の悲しみ……ちなみにサウラさんも立ち見だ。サウラさんの隣に立ってニッコリと微笑みあっていると、フワッと感じる浮遊感。おわー!?


「立ちっぱなしは疲れるだろう。その、嫌でなければ、だが……」


 ふと振り返ってみると、そこにはマスクスタイルのギルさんが。どうやら膝の上に座らせてくれるらしい。どことなく気まずそうなのは、あの出来事があったからだろう。うう、そんな反応されると困っちゃうな。私は嬉しいのに。


「あらいいの? 助かるわ! ありがとうワイアット!」

「いーんすよ、このくらい。お安い御用っす!」


 ふと、隣を見ればサウラさんもワイアットさんの膝の上に座らせてもらっていた。素直にお礼を言って好意に甘えるその様子に、なんだか私も肩の力が抜けた。うん、そうだよね。よし。


「ギルさん、ありがと! とっても見やすいし、嬉しい!」


 多少、気まずい気持ちはあるだろうけど……でも、そのことと素直に気持ちを伝えないのはまた別問題だもん。私はまだまだ、ギルさんに甘えたいのだ! それに、頼れる部分はちゃっかり頼りたい! そう、サウラさんのように自然に!


「……そうか」


 フッと目元を和らげてギルさんも答えてくれた。どこか安心したような感情が伝わる。うん、これでよかったんだよね。


 いつか、私もギルドの仲間に甘えてもらえるような、頼りにしてもらえるような人になりたいな。そうしたら、こうして人に頼ることも、もっと自然に出来るよね。そのためにも、精進あるのみだ! 私は心の中で気合いを入れ直した。



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