友達


「さっきは私が驚かされたからね! メグのことも驚かせられてちょっと嬉しい!」


 そう言って笑うルーンはどこか誇らしげにも見えて、ああ、お父さんが自慢なんだなぁっていう気持ちが伝わってきた。いいなぁ、自慢のお父さん。もちろん、私もお父さんたちは自慢だよ! 魔王さんもお父さんもギルさんも! ただ、仲良しな様子を見てこっちも幸せな気持ちになったから、驚かせたことは許しちゃう。


「お、俺もまんまと驚いた……き、君、魔王の娘だったんだね……」

「グートおそーい。その話はさっき終わった」

「仕方ないだろ!? 俺は忘れ物取りに行ってたんだから! あ、そうだ。父さんこれ。忘れて行ったろ?」


 あ、そっか。私の話はまだグートは知らなかったんだっけ。私がディエガさんに驚いている時に、一緒になって私に驚いていたんだね。なんだか面白い。


「おぉ、持ってきてくれたのか! すっかり忘れてた。ありがとな。助かったぞ」


 そう言いながらディエガさんは順番に2人の頭を撫でた。その顔がすっかりパパで、見ててほっこり。2人も撫でられて嬉しそうだ。私もギルさんに頭を撫でられた時のことを思い出してニヤニヤしちゃった!


「せっかくだ、みんなで昼飯でもどうだ。ルドヴィーク、奢るぞ?」

「経費で落とさないのであれば、喜んでいただくよ」

「ぐっ、堅いな……もちろんポケットマネーで奢る」

「ではありがたく」


 これは、最初は経費にするつもりだったな? 使えるところは使ってもいいとは思うけど、ギルド運営のあれこれを知っている側からすればちょっと気になる部分ではあるよね。

 お金には困っていないし、経済を回すためにも元々お金は落としていく予定だったから。そこのところ、ルド医師はちょっぴり厳しかったりするのだ。こういう人がいるから無事にギルドが回るんだけどね!


 そんなわけで、私たちはありがたく、ディエガさんの奢りでお昼ご飯をご馳走になることになった。……ちょっぴり申し訳ない気もするのは日本人気質が根強いのかもしれないな。




 アニュラスギルド内のレストランは、お昼時というのもあって少し混み合っていた。ガヤガヤと賑やかで、活気があってなんだかいいな。そこら中からいい匂いも漂ってくるのでお腹が鳴ってしまいそうだ。


「あ、あそこ空いてる! 私は席をとっておくから、注文してきていいよ」


 私がいい匂いに気を取られている間に、ルーンは席を確保していた。他の人に取られないようにササっと移動したその動きはとても素早かった。ぼんやりしていてごめんなさい。


「ルーンは日替わりでいいんだろ?」

「うん、それでお願い!」


 どうやら双子のグートがルーンの分を持っていくらしい。喧嘩はするけどやっぱり仲がいいんだなぁ。兄弟って憧れる。前もひとりっ子だったし、この世界ではそもそも出生率が低いから、ほぼみんながひとりっ子なんだけど。だから双子は珍しくはあるけど、年の離れた兄弟の方がよっぽど珍しいという不思議な現象が起こるのだ。


「えっと、メグ、は……メニュー決まった? その、なんなら、座って待っててもいいから」


 そんな2人をじっと見ていたからか、グートがしどろもどろになりながら聞いてきた。ごめんよ、じっと見つめちゃって。


「いいの?」

「う、うん。ここは混み合ってるから……危ない、し……」


 なんてジェントル! この若さで女の子への気遣いが出来るとは……グート少年やるなぁ。将来モテモテになるに違いない。

 確かにあんまり複数人でウロウロするのも危ないし、私はおっちょこちょいなので、その申し出は素直にありがたい。ここは大人しくルーンと待ってようかと思います!


「ありがとう。優しいね!」

「やさっ……い、いや、い、いいいいんだ!」


 なので、きちんとお礼を言ったんだけど……グートは私のメニューも聞かずに顔を赤くしてサッサと行ってしまった。褒めたから照れちゃったのかな? 難しいお年頃だ。仕方がないのでルド医師に、私も日替わりでお願いします、と頼んでおく。ルド医師は快く了承してくれたけど、ディエガさんと笑い合いながらグートの後に続いて歩き始めた。何が面白かったのだろう。大人の思考もよくわからない。


「メグってすごいんだぁ」


 しまいにはルーンにも感心されてしまった。なんで!? みんなそんなに簡単に褒めたりしないのだろうか? 褒めるのはいいことだよ! だって、褒められると嬉しいもん。なので私は今後も積極的に人を褒めていこうと思います!


 こうして運ばれてきた日替わり定食は、コロッケのようなものがメインだった。形はまん丸で、細かいパン粉をまぶして揚げてあるっぽい。サラダやミネストローネスープも付いていてボリューム満点! 食べきれるだろうか、と思って見ていると、ルド医師が私の前に少なめに盛られたトレーを置いてくれた。


「メグは、このくらいでいいだろう?」

「はい! よかったぁ、食べきれるかなって心配だったの」

「ふふ、そうだと思ったよ」


 さすがはルド医師である。私の食べる量もきちんと考慮してくれたようだ。ありがたやー。


「メグは少食なのね?」

「えっ、ルーンは食べきれるの?」

「こんなの余裕だよ! グートなんかは足りないからいつも大盛りにしてもらってるよ」

「ふえぇ、すごい」


 私も食べられるならいっぱい食べたい気持ちはあるんだけどさ、この身体の限界値は低いんだよぅ。とほほ。にしても、その年齢で大人一人前食べられるのはすごい方だと思う。グートは、まぁ、男の子だしわからなくもないけど。


 こうしてみんなが席に着いたところで揃って食べ始めた。あ、コロッケだと思ってたけど、中身はお米っぽいのが入ってる! いや、米と言うよりは玄米とかそういう系? ライスコロッケ、とも少し違うなぁ。野菜やひき肉も入ってるからカツレツに近い気もする。


「このパンに挟んで食べるんだよ。カーニャは初めて?」


 コロッケもどきを半分に割って観察していたら、ルーンが食べ方を教えてくれた。カーニャっていうんだ。初めて聞いたかも。私は首を何度も縦に振った。それからルーンに教えてもらったように、白くて半円形の平べったいパンにカーニャを挟む。ピタサンドみたいな感じだ。それから思い切って一口あーんとかぶり付く。


「! おいひぃ!」

「でっしょー! アニュラスでは人気のメニューなんだよ!」


 思わず口の中に入れたまま声を漏らしてしまった。だって、おいしかったんだもん。カーニャにはしっかり味が付いていて、どこかスパイシーで。でも辛さはないから私でも平気で食べられる。濃いめの味付けだから、このピタパンとも相性抜群だ。


「さすがはアニュラス。仕入れるものが他とは違うね」

「そりゃそうさ。それがうちの売りだからな」


 商業でのし上がった特級ギルド、伊達ではないってことだね! 最初から侮ってなんかいないけど、その実力を垣間見た気がするよ。


「で、ルドヴィークたちは仕事かなんかでこっちに来たのか?」


 食事をしながらディエガさんとルド医師が話している。私たち子ども組は食べるのに一生懸命なので、黙って聞きながらもぐもぐしています。


「いや、プライベートだよ」

「ん? ……ああ、そうか。そんな時期だったな。この子も連れて?」

「ああ。一度紹介しておこうと思ってね。オルトゥスの娘は私の娘も同然だから」


 どうやら、ディエガさんもお墓参りだと察したようだ。事情を知ってるくらい親しいってことだよね。にしてもオルトゥスの娘、かぁ。なんだかくすぐったい。そして嬉しい。


「最近はずっとひとっ飛びだったから、ここに立ち寄るのも久しぶりだな」

「そうだぞ、ルドヴィーク。これからはこっち経由で来いよ。そんなだから子どもたちを紹介するのがこんなに遅くなっちまったんだ」

「はは、つい簡単に行ける方を選んでしまうんだよ。でも、確かにディエガの言う通りだね。今後はアニュラスを経由してもいいかもしれない」


 ふむふむ、今回はたまたま空飛ぶ獣が借りられなかったからここに立ち寄ったわけだけど、結果として新しい出会いがあったからある意味ラッキーだったな。


「帰りは寄るのか?」

「休みは明日までだからね。メグを疲れさせるし、帰りは空の便で一気に帰りたいと思ってる」

「あー、残念だが仕方ねぇな。お互い忙しい身だし、お嬢ちゃんを疲れさせるのもよくない」


 私の体調まで考慮してくれてるなんて、なんだか申し訳ない。けど、帰りも立ち寄ったら確かにオルトゥスに着くのが夜とかになってしまう。ルド医師はそういえば夜勤明けだったし、明後日はもう仕事だから是非ともゆっくり休んで欲しいしね! まぁ、ルド医師ともなれば、3、4日寝なくてもへっちゃらだろうけど。ここは気持ち的な問題でやっぱり休んで欲しいところだ。


「えーっ、じゃあ、メグとはもうお別れなの……?」

「えっ……!?」


 そこに、これまで黙っていたルーンとグートが間に入ってきた。うっ、そんな悲しそうな顔しないでよう。わ、私も悲しくなってくる……! せっかく出会ったのに!


「そんな顔するなお前たち。出会ったことに感謝しろよ。今後一切会えないわけでもねぇんだ。次に会える楽しみができたと思った方がハッピーだろ?」


 子どもたち3人で目をウルウルさせていると、ディエガさんがグリグリと双子の頭を両手で撫でながら励ましてくれた。この強面で笑うと余計に迫力が増すけど。でも言ってる言葉や態度は前向きで優しくて、元気が出てくる。


「ねぇ、メグ! 私たち、今出会ったばっかりだけど、友達だよね!?」


 向かい側に座るルーンがテーブルを挟んで身を乗り出し、目を潤ませてそんなことを言う。そんなの、当たり前じゃないか!


「もちろんっ! ルーンもグートも、もう友達だよっ!」

「お、俺も……!?」

「当たり前だよっ」


 両拳を握って力強く答えると、グートが目を白黒させて聞いてくる。むしろなんでグートだけ仲間はずれになると思うのか! せっかく出会えた同年代。嫌だと言われても友達と呼びたいくらいである。


 こうして、私たちはお互いのギルドに手紙を出し合う約束をした。うわぁ、同年代の友達と文通だなんてドキドキしちゃう! 帰ったら可愛いレターセットを買いに行こうと心に決めた。

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