帰途
ようやく、人間の大陸で出来ることは全て終えたみたいだ。今後も皇帝と父様やお父さんは、手紙でやり取りを続けるみたいだけど。
やり取りをスムーズに出来るように、ギルドに戻ったら通信機の開発をミコラーシュさんに頼むらしい。大陸を越える通信機って、出来るのそんなこと!? 消費魔力の問題とか他にも色々あるだろうけど……でも、ミコラーシュさんなら出来そうって思っちゃう。開発できたら制度の見直しもはやく進みそうだよね。うん、応援する。
「んー、なんだか物足りないな」
「なんだケイ。お前、戦争にでも来た気でいたのか?」
「気持ち的にはそんなとこかな。でも、当然でしょ? みんなにギラギラした目で頼まれちゃったし」
お城から出て、みんなで歩いていると、ケイさんがそんな風に愚痴をこぼす。お父さんの冗談めいた質問に、軽い調子ながらも割と本気で答えるケイさんに恐れおののく。っていうか、お父さんも冗談で聞いたよね? ね?
「な、何を頼まれたんだろ……」
「リヒト、聞かないで。想像した内容の2、3段階上のことだと思うから……!」
引きつった笑みでリヒトが呟くので、早々に止めておいた。聞かない方が良いこと、このギルドにいると割と多いんだよ! 主に私の精神衛生上のね!
「それにしても、城から飛び立つのだけは拒否するとは……皇帝も変なところを気にするのだな」
「まぁな。前もやったから気にすることねぇよなぁ?」
たぶん前にやったからこそだと思うよ!? どうせ突然やったんでしょ! そりゃあみんなビックリするよね、心臓に悪いよね。皇帝、悪くない!
なんか、やっぱりお父さんも人間の感性失ってるよね? そりゃあ数100年も魔大陸で過ごしてたらそうなっちゃうのかな? 私もいつか、そんな感覚になるのだろうか。慣れっていうのは本当に恐ろしい。
「ま、結構こっちの言い分聞いてくれたし、このくらいなら良いだろ」
「そうだよ
あ、そう言えばそんな事言ってたよね! パッと私が顔を上げると、デートだぁ? というお父さんの低い声が聞こえてきた。なんでそんな過剰に反応するんだ。
「……俺は護衛だから、ついて行く」
「俺たちも護衛される側だからついて行くぞ」
「僕も」
ギルさん、リヒト、ロニーは前と同じことを主張している。仕方ないなぁ、とケイさんはため息をついてから、私の耳元に口を寄せて囁いた。
「じゃ、オルトゥスに戻ったら、2人だけでデートしようね?」
「ふぇぇっ!?」
思わず赤面してしまう。前世含めてこんなイケメンな言葉を耳元で囁かれた事ないもん! ごめんね、枯れてる系女子で!!
「何言ったんだケイ、おい?」
「
やれやれ、と言ったようにケイさんがお父さんをあしらっている。その様子を見たせいで、父様も言いたかったことを言えないでいるみたいだ。うん、父様も返り討ちにあいそうだよね。
「……その時の護衛は?」
「聞いてたの? ギルナンディオ。もう野暮なことしないでよ。……影から頼むね」
「了解」
こっちはこっちで仕事の契約が成立していた! もう、勝手にして……
結局、みんなで街を少し歩いて回る事になった。大所帯だし、みんな美形だしでかなり目立ったと思う。私も髪色とか目立っちゃうしね!
でも、もうこんな風に歩く事もないだろうって思えばヤケにもなるよね! 思う存分食べ歩きや観光を楽しませてもらったよ! お店の人は優しくて色々サービスもしてくれたし、炭火焼き鳥も美味しくて幸せだった!
小一時間ほど堪能して、私たちは街の外へ向かう。こっちに来る時、ギルさんが降り立った辺りでまた鉱山に向けて飛び立つんだって。
本当はまたギルさんに運んでもらう予定だったんだけど、魔大陸に着いたらすぐお別れだもん! という父様のわがままにより、お父さんと一緒に父様の背に乗る事に。ギルさんが不服そうだったけど、お父さんと父様という最強の布陣に渋々納得したようだ。
ちょっぴり、龍に乗ってみたい、なんて思ってたから、ギルさんには悪いけど楽しみだったりもする。ごめんね、ギルさん!
龍の背に乗る空の旅は、オン・ザ・お父さんの膝でした。籠の中より心許ないけど、安心感は半端ない。絶対落とされない自信があるもん。あ、龍の鱗やタテガミの触り心地は、想像以上に気持ちよかったです。父様が喜びの雄叫びをあげちゃったけど。
「ね、お父さん」
「んー?」
飛び立ってからしばらくして、私は気になったことを聞いてみた。せっかくお父さんと父様の3人きりなわけだし。
「なんでお城の人たちが、嘘ついてるって思わなかったの? 噂を聞いただけだったし、皇帝さんたちが本当の事を言ってるか、わからなかったでしょ?」
お父さんサイドからの話を簡単に聞いたあと、ずっと気になっていたのだ。私たちはずっと城の人たちから逃げてたわけだし、どっちが黒幕かなんて、片方の主張だけじゃ判断できなかった筈だもん。
だけど、お父さんたちは迷いなく皇帝側を信じたのが不思議だったんだ。
「そりゃ最初は半分疑ってたよ。で、話を聞いて7割信じたってとこだったな。だが、決定打はなかったんだ」
「それなら、どうして?」
「あん? そりゃ簡単だ。決定打が現れたからだ」
聞いてないのか? とむしろお父さんに聞き返されてしまう。え? 何を? 首を傾げていると、お父さんはニヤッと笑ってこう答えた。
「お前の精霊が、皇帝達の前でも平気で姿を見せたんだよ」
「ショーちゃんが?」
どうやら、私が助けを呼んできてと頼んだあの時、ショーちゃんはお父さんたちだけでなく、皇帝も含めた、あの場にいた全員の前に姿を見せたらしい。
精霊は、どこか抜けてるように思えるけど、実はかなり慎重な性質を持ってる。基本は初対面の人の前では姿を見せない。
特に、善悪の心に敏感で、悪の心を強く持つ者の前では決して姿を現さないのだ。シェルメルホルンのように、契約した後に悪い考えに染まっちゃった、とかだと例外になるわけなんだけど……そもそも精霊は、自然魔術を使える人以外、滅多に見ることができない存在だからね。
それなのに、あろうことか魔力を持たない人間の前で姿を見せた。緊急だったし、魔力の節約と考えたとしても異例である。なるほど、これ以上ないほどの決定打だ。これがあったから国はシロだと断定したんだって。
「だから、ある意味お前のお手柄だな」
そう言いながらお父さんは頭をくしゃくしゃ撫で回してきた。もー、髪がぐちゃぐちゃになるっ! せっかく蝶のバレッタでまとめてるのにー!
それに、私じゃなくてお手柄はショーちゃんだ。きっとショーちゃんはそこまで考えてなかったとは思うけど、魔大陸についたらまた魔力をあげよう。ま、また容赦なく吸い取られたらどうしよう! ……心構えはしておこう。
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