目立つ容姿


 今、捕らえられたラビィさんたち、組織の者たちはみんな中央の都にいるそうだ。そこまで、またギルさんコウノトリ便で行くらしい。人間がそれを見たら、大騒ぎにならないかな?


「皇帝の許可を得てる。それに、魔王に比べたらどうって事ないだろう」


 そ、そういえば父様たちが来てくれた時、龍の姿で飛んできたんだったっけね。あの時は通達が急だったのもあって、各地で大騒ぎだったらしい。騒ぎを収めるのに苦労したようだ、とギルさんは言う。そ、そうなんだね。

 ちなみに、人の多い都市では特に収拾がつかなかったので、龍の姿で降り立ち、その場で人型に戻って魔王直々に説明をしたんだって。その馬鹿みたいに整った容姿と魔王のオーラのようなものもあって、あっさりと恐怖から「龍は超美形魔王だった」という噂へと上書きに成功。全てはお父さんの作戦だったっていうけど……人の噂を利用した良い手だと思う。けど、その時の不服そうな父様の様子が目に浮かぶよ!


 というわけで空の旅再びです! みんなで籠に乗り込み、いざ出発。ケイさんはまた華蛇姿で私の肩に乗っております。


『寝ててもいいぞ、メグ』


 お気遣いどうも! でも恥ずかしいからっ! たぶん寝ちゃうから余計にね!




「メグ、そろそろ着くみたいだぞ」

「んにゅ……?」


 案の定寝てしまっていた私は、リヒトの声で目を覚ます。不思議なくらいあっさり寝れてしまうよ、籠の中。なんだか眠れない、なんて夜は籠の中で寝れば確実だね。眠れないなんてことがないけど。


「メグ、髪が乱れてる」

「あう、ありがと、ロニー」


 コシコシと目を擦っていると、ロニーが甲斐甲斐しく御世話をしてくれた。お兄ちゃん!


『そうだ、この髪留めメグちゃんにどうかなって思ってたんだ』


 肩の上からひょいと首を上げたケイさんが、そんなことを言いながらどこからともなく髪飾りを取り出した。尻尾で巻きつくように持っている。器用ですね?


「わ、かわいい……い、いーんですか? 貰っても……」

『もちろん。メグちゃんが早く元気になるようにって。メグちゃんの笑顔を思い浮かべながら選んだんだよ』


 うっ、ものすごい口説き文句だ! 私のハートは射抜かれた!


「け、ケイさんて、すげぇイケメンなのな……」


 リヒトが軽く慄いている。わかるよ、特に日本人にはハードル高いよね。

 苦笑を浮かべつつ、ケイさんからそっと髪飾りを受け取る。蝶々をモチーフにしてあって、羽の部分が淡い紫とピンクのマーブル模様で、ステンドグラスのようにキラキラしてる。それがそこそこ大きいバレッタになっているのだ。

 うわぁ、これは髪も少し長くなってきたからハーフアップにしてみようかな? 耳が出ちゃうけど、もうエルフだってこと隠さなくていいもんね? というわけでささっと自分で髪を上げてみた。


「お、おぉ……いいんじゃね?」

「ん、かわいい」


 髪を上げたことでエルフの特徴とも言える少し尖った耳が露わになった。リヒトもロニーも褒めてくれた!


『すごくかわいいよメグちゃん! まるでこの蝶は、メグちゃんの愛らしさに惹かれて寄ってきたようだよ!』

「ケイさん、恥ずかしいからその辺でいいよう……」


 ただし、ケイさんの褒め言葉は限度を知らない。私は恥ずかしくて顔から火が出そうだった。しかしノンストップなケイさんは、その後も私を褒めちぎってくる。な、なんの罰ゲームですかね?

 そして言われるがままに、淡い黄色のワンピースに着替える羽目になった……シフォン素材でフワフワ風に靡く、ケイさん曰く、妖精さんのような装いである。そして再び褒めちぎられ……何このループ! どうしてこうなった!


 私が悶えている間に、ようやく目的地へと到着し、ギルさんがふわりと降り立った。それから人型になるとまじまじと私を見つめてくる。


「かわいい、というより……綺麗、だな。大人っぽく見える」

「ふぉっ!?」

「早く見たかったんだね、ギルナンディオ」


 不意打ちの真顔な褒め言葉がハートを撃ち抜いてきた。ズキュンー!




 ケイさんのおかげか、適度に緊張がほぐれたところで、私たちは歩き始めた。流石に街の中で降り立つわけにはいかないからね。少し離れた場所で降りて、そこからは徒歩なのである。それでも道行く人の視線を集めちゃったけど。


「……わかっちゃいたけど、目立つなメグは」

「うん。髪の色とか、隠さないと、こんなにも目立つんだね……」


 リヒトとロニーが眩しいものを見るように目を細めて私を見る。やめて、わかってるから。でもこれが私だし、逃亡中でもあるまいし、隠すのはなんか違うからね。でも、色んな人にジロジロ見られるのは居心地悪いっ!


「ねぇ、ギルナンディオ。ボクも目立つけどさ、やっぱりメグちゃんは別格だよね? どうする?」


 私が縮こまっていると、ケイさんがニコニコと笑いながらギルさんにそんなことを言い出した。どうするも何もないんだけど……と思ったら、少し考えた様子を見せたギルさんが、徐ろにフードとマスクを外した。おかげでそのイケメンっぷりが見放題に! えっ、どうしたの!? 外では絶対外さないのに!


「少しはこの容姿も、メグの役に立つだろうか」


 そう言いながらギルさんは私を抱き上げた。え、まさか、自分も目立つ事で私に集まりがちな視線を分散させてくれた……?

 ギルさんは、整いすぎた自分の容姿が好きじゃない。やたら注目を浴びるのが嫌だからだ。それなのに、私にばかり視線が集まるからって、苦手な事をやってくれるっていうの? 実際、顔を見せた途端、ギルさんが注目を浴びている。私ではなく、確実にギルさんを見てるよね?


「んー、メグちゃんを抱き上げていたら、ますます見られてるね?」

「メグだけを見られるよりマシだろう。それに、この方が守りやすい」


 確かに、ここが一番安全な場所と言えるだろう。ギルさんなら、他に守る対象がいる今みたいな状況でも、私を抱えながら戦えるし守ってくれる。ケイさんという心強い仲間もいるし! 魔術があまり使えないとしても、2人は物理的にもとても強いので問題ない。いざとなったら飛んで逃げる事もできるわけだし。

 あんなに不安でいっぱいだったこの大陸だけど……ギルさんやケイさんがいるってだけで全然ちがう。心強さ、半端ないです! 私もいつか、そういう人になりたいな。

 ちなみに、絵画みたいだな、っていうリヒトの感想は恥ずかしいのでスルーさせていただくよ!




「なんか、身体が怠く感じるな……やっぱ本調子じゃねぇのかな、俺」


 街に入るための検問所みたいなところへ向かう途中、リヒトが珍しく弱音を吐いた。具合が悪いのかな? すると、ケイさんがリヒトの額に手を当てつつ、いくつか質問をし始める。


「んー、熱はないな。リヒト、具合が悪くなってきたのは、いつぐらい?」

「えっと、鉱山を出て少ししたくらい、かな」

「どこか痛むところは?」

「いや、そういうのはなくて……何となく身体が重いというか……」


 その他に、食べ物で具合が悪くなったことがあるかとか、前の傷の具合はどうか、など聞いていくケイさん。そうしてふむ、と顎に手を当てて頷くと、心配ないよとリヒトの頭を撫でた。


「たぶん、魔素の濃度の違いに身体が慣れていないんだよ。こちらから魔大陸に行く分には調子が良くなるけど、逆は少し怠くなる。リヒトは、魔大陸に初めて行っただろう? 居心地が良すぎたせいで、こっちの魔素の少なさに身体が順応できてないんだよ」

「えっ、でも俺、ずっとこっちで育ってきたのに」


 ケイさんの説明に、驚いたようにリヒトは言う。確かに、今までは平気だったもんね? でもケイさんが言いたいのは、この魔素濃度の差を経験しているかどうかなんだって。確かに、私も最初はどことなくしんどかったっけ。


「若いからすぐ慣れるよ。それに、一度慣れてしまえば、次からは身体が勝手に順応するようになるさ」


 魔力を持つ者は大体一度で慣れるという。今回、私は平気だし、ロニーは鉱山内だけど行き来してるもんね!


 あれ? 実はケイさんもしんどかったりするのかな。ケイさんにとっては大したことないのかもしれないなぁ。それはそれですごいけど、たとえ辛かったとしても、それを表に出さないのもすごい。

 むむむ、私がここまでになるのは、まだまだ時間がかかりそうだ!

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