桃太郎パニック
「こうして、桃太郎とお供のウォウル、モンケイル、ピードは鬼から取り返した宝を村に持ち帰り、みんなで幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
わぁっ、という歓声が上がる。
さて、今何をしていたかというと、精霊たちに桃太郎を話して聞かせていたのである!
前にちょろっと別のお話を聞かせてみたところ、面白い! と精霊たちに大好評だったのでたまにこうして聞かせてあげてるんだけど……どうも、この子たちは桃太郎がお気に入りの様子でこれで10回目だ。お供の動物は犬、猿、鳥にしてこちらの呼び方に変えたり、この世界仕様に変えながらお話しています!
『よぉし、今から鬼退治に行くのよー!』
『おー!』
ん? んんん? 突然ショーちゃんがそんな事を言い出し、他の面々もノリノリで返事をし始めた。
「鬼退治?」
『そーなのよ! 私が桃太郎でー』
『妾がウォウルをやってあげるのだ』
『オレっちはモンケイルだぞ!』
『アタシはピードよっ』
あ、つまりごっこ遊びね? 言われてみれば配役は完璧だ。雫ちゃんは狼な気もするけど。というかすっごく可愛い!
『ご主人様ー、きびだんごが欲しいのよ?』
「え? きびだんごあっても食べられないよね?」
『ご主人、こういうのは気分なんだぞ』
『主殿、雰囲気が大事なのだぞ?』
一見クールな雫ちゃんまでもがかなり本気である。ここは主人としてちゃんとノってあげなければ。でもなぁ、何かお団子のかわりになるものあったかなぁ。あ、あれがある!
「前にもらったミニ饅頭ならあるけど、これでいいかなぁ?」
いつかオヤツにどうぞ、とチオ姉からもらったひと口サイズのお饅頭で、中身はちゃんと餡子が入ってるのだ! あまりに美味しかったからいくつか収納ブレスレットに保存しといたんだけど、まさかこんなところで役に立つとは。
『うんっそれ良さそうっ! ありがとっ、主様っ』
『よーし、みんな! ミニ饅頭をあげるから、鬼退治に一緒に来てくれなのよー!』
早速ショーちゃんがミニ饅頭をみんなに配り始める。みんな結構小さいからミニ饅頭と言えど大きく見えるなぁ。側から見たら、私が1人で饅頭浮かせて遊んでるように見えるのだろうか。まぁ、他に見てる人もいない私室だからいいんだけどね。
『力が溢れてきたぞー!』
『うむ、これなら鬼も倒せるのだ』
『元気いっぱいだよっ』
ミニ饅頭を食べた……フリをしたみんなはさり気なくミニ饅頭を私の手に乗せると、それぞれ宙返りをしたり辺りを飛び回ったりと元気100倍アピールをした。くっ、可愛い……!
『じゃあみんな! 鬼退治に出発なのよーっ!』
『おおーっ!!』
そうして気合を入れたみんなは、ショーちゃんを先頭に列を成してスイーっと部屋から出て行った。……出て行った!?
「ちょっ、みんなどこに行くのー!?」
取り残された私は両手にミニ饅頭をいっぱいのせた状態で1人叫ぶ。しかしそれに返事する精霊はいない。
待て、待て待て。考えてみよう、あの子達がしそうな行動を! もう20年も側にいるんだからあの子達の思考回路なんて簡単にわかっちゃうんだからね!
えーっと、みんなは「鬼退治」に出かけたんだよね。それで、あんまり遠くへは行かないだろうから、近くで鬼役を探せばいいんだ、きっと。オルトゥスで鬼と言えば……
「ジュマ兄ちゃん……!!」
うわぁお! あり得る! あり得るぞ! そしてあの子達は割と本気になりやすい! きっと今頃ジュマくんは見えもしない精霊たちから突如攻撃を食らっているに違いない!
「うぉっ、なんだー!?」
ほぉら聞こえたぞ、開け放たれた窓の外からジュマくんの驚く声が! 私の予想は正しかった! ……じゃなくて、早急に何とかしなきゃー!
私は慌てて部屋の外へと飛び出した。
「あれ、どうしたんだい? メグちゃん。両手にお饅頭抱えて」
部屋を出て階段を下りるところでケイさんと遭遇。あ、まだ持ったままだった! 恥ずかしいとこ見られたな、と思いつつ慌てて収納ブレスにしまう。
「えっと、精霊たちが桃太郎になって、本気のごっこ遊びで……」
「精霊? ごっこ遊び?」
急いでいるからか、その場駆け足になりつつ説明するも、話が纏まらない! 頑張れ幼児の脳!
「えっと、精霊たちにお話聞かせたから、鬼退治って出ていっちゃって、しょれで……」
「うおーっ!?」
「あ、何となくわかった気がしたよ」
話の途中でまたしてもジュマくんの叫び声が聞こえたからか、大体事態を把握してしてくれたケイさん。それから大丈夫だよ、と私の頭を撫でて落ち着かせてくれた。じぇんとる……っ!
「精霊は主人が自然魔術として攻撃しない限り、強力な攻撃は出来ないらしいからね。ちょっとフラつく程度の強風とか少し熱いと感じる程度の炎とか全身ずぶ濡れになる程度の水くらいだから。相手はジュマだし問題ないよ。精霊が視えない者は触れることさえ出来ないから精霊たちも安全だし……」
あ、うん、それはそうなんだけど……でもそれってかなりの嫌がらせなんじゃ……!?
「あ、でもショーちゃんは……誰かの声を聞かせることが出来るからもしかすると……」
そう、ショーちゃんも大した事は出来ないんだけど、誰の声でもそっくりそのまま真似出来るから、悪気なく誰かが濡れ衣を着せられる恐れが……
「んの野郎ぉ、ワイアットー! 誰が脳まで筋肉バカ鬼だぁぁぁぁっ!!!」
「なるほど、ワイアットを使ったんだね。やりそうだもんね、そんなイタズラ」
ああっ! やっぱり犠牲者がー! というか気付いてジュマくん! ワイアットさんは雷モモンガの亜人だから風とか水とか火とか使えないからね? ちなみに、双子の兄であるオーウェンさんは守護ムササビの亜人なんだって。双子でも全く違う種族なのは当然のこの世界だけど、この2人はビミョーに違うってところが面白い。
って、そうじゃなくて! 精霊たちを止めなきゃー! そう思って駆け出そうとしたんだけど、ケイさんにやんわり止められてしまった。なぜ!?
「絶対ワイアットじゃないのに、気付かないジュマが馬鹿なだけだし、なんだか面白いから暫く様子を見ようよ」
ホールでお茶でもしながら見物しない? とふわりとケイさんは笑う。いや、眼福な微笑みに素晴らしいお誘いだけど罪悪感が……!
「後でワイアットもジュマに襲われるだろうけど良い修行になるしさ。それとも、ボクが相手じゃダメかい?」
「い、いーえっ! 是非ご一緒さしぇていただきましゅっ!」
サラッとワイアットさんの危機を聞かされたというのに、私ったらケイさんの口説き文句にあっさり撃沈。その誘いに乗ることを即決してしまった。噛んだし。自然魔術の使い手として、精霊たちの主人としてこれで良いのだろうか?
でも、ギルドのカフェにあった新作の苺のモンブランは美味しかったし、ケイさんとのお喋りも楽しかった。大騒ぎするジュマくんと、後からタイミング悪く通りかかってしまったワイアットさんの白熱したバトルはその内本当にワイアットくんの修行になっていたし、知らない間に面白がったサウラさんが2人の周りに結界を張ってその場にいたみんなでワイワイ観戦する事態になって盛り上がってたから、良かったのかもしれない。見応えもあったしね! 諸悪の根源は私たちだけどね!
ちなみに精霊たちは最初に一撃ずつイタズラした後は早々に退散していたようで、お宝を持ち帰ったのよー! といつのまに持ち出したのかフウちゃんによる風で銀貨をばら撒いておりました。出所はジュマくんの懐だと言う。実行犯はフウちゃん。……盗んじゃダメだよー!? もちろん後で謝りに行きましたとも!
主人はまだまだ、精霊たちの躾に悩まされそうです。ぐはっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます