sideユージン3
200年。それは濃くも長すぎる年月だ。その間で俺は信頼できる仲間と出会い、ようやくホームと呼べる居場所を作り上げた。
それでもなお、この胸に吹き荒ぶ寂しさと大きく空いた穴が埋まる事はなかった。……のだが。
「はぁ、それにしても夢のようだ。可愛い娘と可愛い姿で再会出来るなんてな。当然以前も可愛かったが」
「ぬぅ、我の子なのだ。可愛いに決まっておろう」
「はぁ? 俺の娘だし」
「何を言うっ!」
メグが環であると知り、おかえりと迎えられ、抱きしめ合っただけで一瞬にして俺は満たされる事が出来た。まさか本当に環の魂だったとは。何度かそんな考えが過ることはあったが、あまりにも荒唐無稽だと否定してきた。だからこそ、それが事実だとわかった時は、例えようもないほど心が震えた。
だが、メグは今アーシュとイェンナの娘なんだよなぁ。何とも悔し……微妙な気分だ。
「まぁまぁ、2人の娘って事でいいじゃない! それよりも、あーんなに可愛いんだもの。年頃になったらあちらこちらから言い寄られるんじゃないかしら?」
「潰す」
「消し炭にしてくれる」
「……物騒すぎるところで息を合わせないでもらえる?」
せっかく心の隙間が埋まってくれたというのにサウラのヤツが変な事言うせいで殺気が漏れたじゃねぇか。一瞬ざわりとホールが不穏な空気に満たされちまった。そんな未来、想像すらしたくないっつーの。
「んー、でもそんなことも言ってられないと思うよ? 早いところお相手を見つけた方が結果として余計な虫がつかないと思うけどなぁ」
「馬鹿野郎、そんじょそこらの男じゃ俺は認めねぇからな!」
「ならどんな条件があるんだい?」
ケイの言うことはわかる。わかるが今そんな事聞く必要あるか? だが、まぁ、俺も分からず屋じゃないんだ。将来の相手のことなんか考えたくもないが強いて言うなら……
「まず強さは必要だろ」
「……それだけならそこそこクリア出来る人いるわね」
そう言ってサウラは視線を移動させた。その先には……ギル。ギル!? いや、いやいやいやいや!
「一途じゃなきゃ許さんぞ!」
「相手を思いやれる、優しさも必要であるな」
アーシュも参加してきた。まぁそれも必要だな。大切に出来ねぇならやはり潰すし。
「……未だかつて女性の気配すらないわよねぇ」
相変わらずギルを見ながらサウラが呟く。くっ、違う! 違うぞぉ!
「そういえば自分を犠牲にしてまで守ろうとしたり、気遣ったりしておったな」
おい、アーシュ! 裏切り者め、お前までやめろっ!
「金も持ってなきゃ話にならんし、何より、本人が好意を寄せてなきゃ意味がねぇからなっ!!」
そう言いながら腕を組み、乱暴に背凭れに寄りかかる。すると、遠くからメグの声が聞こえてきた。
「ギルしゃん、戦闘服新しく買うんでしゅか?」
「ああ、流石にあれじゃあな。今度ぬいぐるみ受け取りに行くんだろう? その時に注文する予定だ」
「しょーでちた、ぬいぐるみ楽しみでしゅっ! それにちても、そんな戦闘服をポンと買えるギルしゃんもしゅごいの……」
「金は特に使い道もないから問題ない」
戦闘服を買い替えるのか……あれ、下手したら土地が3つ4つ買えるよな。そんな商売をサラッとするランも相当なわけだが。
「……ギルの預金額、聞く? たぶん
「それ以上言うな」
俺は世界中飛び回ってたし必要な場面が多かったからガンガン使ってただけだからな!? 浪費はしてねぇぞっ!?
「メグのもいつでも買い替えるから安心して使うといい」
「そう簡単にボロボロにはなりましぇんからねっ!?」
珍しい。ギルが冗談を言ってクックッと笑うだなんて。なんだ? こう、胸がモヤっとする。
「ギルしゃんがずっとしょばにいてくれたら最強なんでしゅから、戦闘服も新品のままでしゅ!」
「……そうか。ああ、ずっと側にいよう」
な、なんだ? あの仲の良さ。デレデレじゃねぇか。メグ、まさかお前……!?
「考えてる事が手に取るようにわかるけど、メグちゃんはこの世界で最初に出会って命を救ってくれたギルに最も懐いているってだけよ?」
「そうそう、書類的にはギルナンディオが父親だからね。そこの2人じゃなくて」
何ぃ!? それはそれで悔しいが、親愛の情って事なら……いや、でも!
「でも年頃になったらわかんないわよ? この気持ちはもしかして……って!」
「メグちゃんに想いを寄せられたらギルナンディオといえど断れないだろうね。むしろ自分の気持ちに気付いたりしてね?」
「やぁん、それは素敵ね、ケイ! 成長が楽しみだわっ!」
サウラとケイが2人で盛り上がり始めた。メグが、ギルと……? 成長して綺麗になったメグを想像する。そりゃあかなりの美人になるだろう。間違いない。そのメグが、ギルに恋する目で……!?
「と、年の差が離れすぎてるだろうがっ……!」
「む、我とイェンナは数1000年差だぞ?」
「てめぇアーシュ、どっちの味方だっ」
「亜人だもの。200年程度の年の差なんかあってないものよね?」
「だぁぁぁっ! うるさい! ダメだっ! 俺は絶対認めねぇっ!!」
バァンッとテーブルを両手でついて叫びながら立ち上がる。うっかりテーブルを割っちまったが仕方ない。
「苦労しそうだね、メグちゃんは……」
「ほぉんとよね。あ、テーブルの弁償代は
親バカで結構! 大体まだまだ早すぎる話題なんだよ。せっかくやっと再会できた娘を他の野郎にやる話をなぜしなきゃならないんだよ。そうだ、そうだよ。まだ数100年も先の話だ。俺たちは寿命が長いんだし。
するときょとんとした目でメグがこっちを見ている事に気付く。
「おとーしゃん、どしたの?」
「……こっちおいで、メグ」
こいこい、と手招きをするとトテトテと俺の元へとやってくるメグ。……なんだこれ。めちゃくちゃ可愛い。
「ちょっと抱っこさせろ」
「うぇっ!? 恥じゅかしいよ!?」
「何言ってんだ。ギルやアーシュ、他の奴らには抱っこってせがむ癖に! 俺はダメなのかっ」
「いやー、なんていうかお父しゃんは環の時の記憶が邪魔してぇ……」
言いたい事はわかる。気持ちもまぁわからんでもない。俺だって成人した時の環の姿のままだったらこんな事言わない。いくら父親でも。
だけどな? 目の前で恥ずかしそうにモジモジしながら頰を染められてみろ。やばい。これはやばい。マジで悪い虫蹴散らす準備しなきゃいけないと再確認した。
「ひょっ!」
でもまぁ、今はしのごの言わせずにひょいとメグを抱き上げる。
「今は幼い子どもなんだ。甘やかさせてくれよ、メグ」
「うー……わかった!」
精神面が身体に馴染んで来たのか、抱っこされればすぐに嬉しそうに顔を綻ばせ、ギュッと首元に抱きついてくれたメグ。くっそ可愛い。誰にもやらん。
「……そういえばお前、精霊の名前のネーミングセンスだが」
「それは言わないお
顔を真っ赤にして慌てて俺の口を小さな手で塞ぐ。たまらん。こりゃからかい甲斐があるな。昔からだが。
「……あんなデレデレした
「まぁ、良いんじゃないかな? これまで我慢してきたわけだし」
「羨ましいぞ、ユージンーっ!!」
うるさい外野どもだ。まぁいい。今はこの至福のひと時を堪能させてもらおう。
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