宴会
「出来た!」
「ほぅ、これは綺麗じゃのう」
「メグちゃん、やるねー!」
ちらし寿司を是非教えて欲しいと言われた私は、ただいま厨房にてお手伝い中です! 今日は夕方から宴会だ、とお父さんが言ったことでギルド内はどこか浮き足立っていた。ホールにテーブルや椅子を並べてみんなでパーティーとあっちゃ、ウキウキするなという方が難しいか。
というわけで厨房は準備に大忙し。メイン料理の1つはレオ爺もチオ姉も知らないメニューだということで私が手伝うことになったのだ。宴会の主役にやらせるなんて、と色んな人に言われたけど、お手伝いは私もやりたかったので、必殺「お手伝いしたいでしゅ!」上目遣いバージョンを発動。レオ爺が最初に陥落した結果、一緒に作ろうか、という事に。幼児という強みを最大限に利用させていただいた。えへ。
「環……」
お父さんから呆れたような眼差しを向けられたけど、今の私はこの幼児スタイルにあまり抵抗はない。それどころかすんなり出来てしまう。ごく自然にね! もちろん意識は環だから計算してる部分もあるけど、メグと一緒になったからか、幼児的思考も現象も受け入れられるようになったみたいなのだ。本当の意味で生まれ変わったんだなぁ、としみじみ実感。
「メグちゃん、こっちのプリンはこんなものでいいかい?」
「ふわぁ、おいちしょー!!」
で、私は記憶にある通りにちらし寿司をレオ爺と一緒に作ったというわけ。まぁちらし寿司だから簡単だけどね。それに私がやったのは飾りつけと、フウちゃんにお願いして酢飯を冷ます作業だけである。簡単なお仕事!
それにしてもチオ姉作のプリンはお見事! プリン自体はシンプルなものだけどすが入ってないし、生クリームやフルーツで飾りつけられているからとても豪華な一品となっている。これぞプリンア・ラ・モード! うぅ、食べたい……!
「ふふっ、つまみ食いはおあずけだよ?」
「うー、わかってましゅー……」
「でも明日のメグちゃんのおやつ用に、ひとつ別でとってあるからね!」
「チオ姉大しゅきーっ!」
我ながら単純である。両手を上げて喜びました。
「お待たせちましたー!」
夕方。出来上がったちらし寿司とともにギルドホールへ戻ると、歓声と共にいろんな人からの美味しそうという声が聞こえてきた。うふふ、なんだか嬉しい。あ、もちろん私は運んでないよ! カートを押すだけとはいえまず前が見えないし危ないからね。チオ姉にお任せです。
「すごいですね、メグ。とても綺麗な料理です」
シュリエさんが心からそう思って言ってくれてるのがわかる。目が少しキラキラしてるもん。シュリエさんは見た目も重視してそうな食通だから、これは本当に嬉しいぞ?
「たっ……もっ……!」
「食べるのがもったいない、とカーターは言ってます。確かにもったいないですね! 魚や卵などで飾りつけられて宝石箱のように輝いています。お米も光沢がありますし、レディ・メグは素晴らしい料理を知っているのですね! 美しい私のためにあるかのような」
「え、えへへ、ありがとーでしゅ!」
カーターさんやマイユさんも、褒めてくれるのはとっても嬉しいけど、マイユさんの自己陶酔が長くなりそうなので遮るようにお礼を言ってみた。シュリエさんが苦笑しながら頷いていたので正解だったようだ。ふぅ。
『ジグルの兄貴ぃっ!』
『おー、ホムラぁっ! お前も頑張ったようだなぁー!! よくやったイェェェェイッ!!』
「……兄貴って、精霊に性別ってないんじゃ」
『まー細かい事言うなよ嬢ちゃんよぉっ! あれだろ? 人で言うところのノリってやつだよぉっ!!』
まぁ確かに私もホムラ「くん」って呼んだり、他の子はちゃん付けで呼んでるけどさ。たしかに雰囲気とノリと言えなくもない。
赤いお猿な精霊2人が互いの健闘を讃えあっている。実にテンションが高い。ノリ、良すぎだと思うんだ。シラフで飲み会盛り上げるタイプだ。ホムラくんはあそこまで騒がしくならないといいなぁ、あはは。
『ネフリー先輩っ』
『うふふ、フウも今回はとても頑張ったみたいですわね!』
「せ、先輩?」
『ノリってやつなんでしょっ? ホムラに教えてもらったのっ!』
あぁ、影響が黄緑の鳥さん精霊たちにまで! 精霊って案外楽しいもの好きだよね。楽しそうなら取り入れる。まぁ、良いんだけどね、可愛いからっ!
『いいなぁ、先輩……私も欲しいのよー』
『ふむ。ならば妾が先輩とやらになってやっても良いのだ』
『えっ、本当っ!? 嬉しいのよー! シズク先輩って呼ぶのよっ』
『うむ、悪くないのだ』
こちらはピンクな少女が水色大型犬を先輩と呼ぶようになりました。なんか、あれから精霊たちの仲も深まったみたいで大変喜ばしいんだけど、偏った知識による奇妙な軍団が出来るんじゃないかと懸念しているんだよね。まぁ、全ては可愛ければオールオッケーだけどっ!
「新しい精霊は、メグの母君の最初の契約精霊だそうですね」
「しょーなんでしゅ。なんだか、母しゃまが見守ってくれてるみたいで嬉しいんでしゅよ」
「ええ、きっと本当に見守ってくれていますよ」
そう言ってシュリエさんは柔らかく微笑んだ。ああ、癒しの微笑み。
私の魂がお父さんの実の娘だという事実は、あの場にいたギルドの主要メンバープラス数名と、魔王さんとクロンさんが同じタイミングで知ることとなった。でも、ギルド内の他のメンバーや他所の人には秘密だ。ちなみに、私が「おとーしゃん」呼びしている事に関しては、
そこまでしてなぜ秘密にするかといえば、私の身の危険を減らすためである。元々狙われやすいのにこれ以上は、って話。まぁ誰にも手出しはさせないけどな、と黒い笑みを浮かべた保護者多数がいたから大丈夫だと思うけどね。最強の盾が何枚もあるので安心感が半端ないです。
何より嬉しいのは、以前シュリエさんが言ってくれた通り、その事実を知った人も前と変わらず接してくれているという事だ。変わらず甘やかしてくれるし、味方でいてくれる。
「でも、見守ってくれる家族がたくしゃん増えたから、もっともっと幸せなんでしゅ」
私がそう言うと、シュリエさんはおもむろに私を抱き上げて至近距離で蕩けるような笑顔を見せてくれた。くっ、この破壊力! 本当に蕩けるーっ!
「ええ。私たちも、可愛らしい家族が増えてとても幸せですよ」
うふふ、と微笑み合うエルフ2人。絵面的にはシュリエさんと私が1番親子かもしれないなんてふと思う。というかここへきて私、父親が何人いるのよって話である。
料理が運ばれた事でお酒も出回り、いよいよ宴会が始まりそうだ。お父さんが立ち上がってグラスを持ったところで、みんなが近くのグラスを持つ。私のグラスはもちろんジュースだ。匂いからして桃ジュース。この世界の桃はなんていうのかな?
「よし。まぁなんだ。みんなお疲れさん! 長ったらしい話は省略だ! しっかり食って飲んで楽しめよ! 乾杯!」
何とも適当な音頭だなぁ。でも、早く食事を楽しみたかったのはみんな同じだったみたいで、いいぞ! さすが
みんなの楽しそうな顔。大喜びでジョッキを片手に3つずつ持つジュマくんや、手当たり次第に夜のお誘いをすべくフェロモンを撒き散らすミコさんに軽くひいたりもしたけれど。
「私も、楽しむでしゅ!」
コクリと桃ジュースを飲み込んで、一度シュリエさんたちの元を離れた私は、小走りでギルさんの元へと向かったのだった。
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