sideサウラディーテ3 前編
「よぉし! 準備は万端ね!」
みんなが旅立ってから、私たちギルド組は急いで準備を始めたわ。居残りギルド員をかき集めての作業。そして何より大切な事柄についてはミスも許されないから確認作業は私自ら駆け回ってやったわよ。
「サウラ、街の避難は大丈夫だったろう?」
「ああ、ルド。大丈夫だったわ。貴方の確認なら間違いないのはわかるけど、確認作業っていうのは何度したっていいものなのよ。万が一なんて考えたくないもの」
「そうだな。その意見には同意するよ」
そう。最も重要なのは街の人たちの安全。この街は私たち特級ギルドによって治安が良く、生活に不便なく過ごせる代わりに、いざという時に命の危機にさらされる可能性がある。この街に住む人たちはそれを了承した者でないと住む権利を得られないから、理解はあるんだけど……
「あらかじめ襲撃が来るのがわかってるんだもの。街の方まで被害はおよばないとは思うけど……もしもの備えは絶対に必要だわ」
私はこの街が好き。街に住む人たちが好き。だから、みんなに被害が出来るだけないように最善を尽くすのは当然の事よ。建物の被害も最小限に抑えたいから簡易の結界魔道具を街の至る所に設置もしたの。何のための予算よ。こういう時に使わなくっちゃ!
「これで襲撃なんてこなかったりしたら、骨折り損ですねー」
いつの間にか隣に立ち、会話に参加して来たのはオーウェン。焦げ茶の短い髪がサラリと揺れた。
「それはそれでいいのよ。避難訓練って事で」
「けどよー、何もなかったじゃん! って文句言うヤツが絶対いるよなー?」
オーウェンの後ろからヒョコっと顔を出して淡い茶色の髪をガシガシかきながら、弟のワイアットが横から入ってきた。うーん。珍しい双子だってのに似てないわぁ、この2人。あ、でも瞳の色は同じ緑よね。ワイアットの方が薄いけど。
「あのね、文句を言う人っていうのはどんな状況でも文句を捻り出して言うものなのよ」
「そうだね。そういう輩は文句を言わなきゃ心の平穏が保てないんだよ。ある意味病気なのさ」
ルドの言う事は間違いじゃないわ。何に対してもいちゃもんつける人って、不安な気持ちを文句にして誰かに吐き出しているに過ぎないと思うのよね。そう思えば何を言われても大らかな心でいられるわ。不安なのねー? ボクちゃん、よしよしって。
「なるほど。勉強になりますねー!」
納得したようにオーウェンが頷くから少し悪戯心に火がついたわ。
「そうよ。誰かさんみたいに、好きな子の気を引きたいからって不特定多数の女の子と遊ぶってのも似たようなものじゃないかしら?」
「あははっ! それって兄貴の事じゃん!? なー、なー、いつ告白すんの? なー!?」
「うるさいっ!」
僅かに頬を染めて、からってくるワイアットに拳骨を食らわしてるから、一応自覚はあるのね。全く。いつになったら直接アプローチするのかしら? そんなんじゃメアリーラちゃんだって逃げちゃうんだから!
「っと。そろそろお喋りはおしまいのようだよ。避難訓練が始まりそうだ」
ルドが街中に張り巡らせた糸に反応があったみたい。いよいよ、敵が攻めてくる。
「久しぶりの実戦だから緊張するなぁー」
「嘘つけ兄貴。ワクワクしてるくせに!」
うんうん、いい感じの緊張感持ってるわね。頼もしいわ。この2人はまだまだ未熟な部分も多いけど、いずれオルトゥスの重要な戦力になる子たち。せっかくだから経験値を稼ぐといいわ!
「! 伏せろ!!」
突如ルドが叫ぶ。私たちは反射的にその場に伏せた。と同時に激しい爆発音と熱を感じる。うぅっ、熱い!
「人攫いギルドよ! 子供を取り戻しに来た!」
砂塵が晴れたその先に立つのは
やっぱりあの熱は奴の仕業だったのね。守護魔術を通してなおあの威力。侮れないわ。あと相変わらず目つきが悪い!
そして奴の言葉。なるほど、そう来たか。私たちがメグちゃんを攫った悪人って設定なのね。全く、以前エピンクには論破してやったというのにそれで押し通すつもりって事かしら。
「身に覚えがないわ。証拠も提示せずに突然の破壊行動。迎撃されても文句ないわね?」
「小人ごときが代表とは、このギルドも大した事ないんだな。証拠の提示? うちのボスがそう言ってるんだ。それ以上の証拠はいらないはずだが」
オレンジ色の瞳をギラつかせて静かに語るラジエルド。ボス至上主義、それを通り越して盲信者だわね。1番関わりたくない相手だわ。こういう相手って、話しても無駄なのよね。鬼っていうのは強い者ほど偉いって考えだからボスであるシェルメルホルンを崇めるのはわかるけど……度を超えると性質の悪い宗教団体に成り下がるって事ね。覚えておこう。
「話しても無駄なようね」
「無駄だな。どけ」
「しまっ……!!」
一瞬だった。瞬きすら出来なかったわ。ラジエルドが手を振り上げたのだけは辛うじて判別出来た。油断したつもりはなかったの。でも私は元々トラップ以外はまともに戦えない非戦闘員。戦闘のプロの前には一般人にも劣るわ。……戦闘前のお話しすら出来ない相手なのだと、失念していたわね。私、死んだかも。そう思った。
鳴り響く轟音と感じる熱。……ん? どこも痛くないわ?
「……大丈夫スか。サウラさん」
「れ、レキぃぃぃっ!!」
私はいつの間にかレキの腕の中に抱えられていたわ。あの一瞬で私を安全な場所まで運ぶなんて! いつまでも子どもだと思ってたけど、頼もしくなっちゃってぇっ! このっ、このぉっ!!
「ちょ、離せ……! ばっ……! 当たってるから!!」
あら、ごめんなさい。何が当たってたか? ご想像にお任せするわ。そこんとこはまだお子ちゃまね。
「助かったわ。ありがとう、レキ! 頼もしくなったわね!」
「べ、別にこのくらい……それに、僕の任務だから当然だっ……」
任務? レキの? そう思って少し離れた位置に避難していたルドを見やる。少し苦笑を浮かべながらルドはこう言ったわ。
「重症の怪我人がいない限りはサウラの護衛を、と。余計なお世話だったか?」
「そんな事ないわ! ありがとう、ルド! レキもね!」
レキは私と一緒で非戦闘員だけど、
「ふん。一度攻撃を避けたくらいでおめでたいやつらだ。……消えろ」
っと、私だって油断ばかりじゃないのよ。当然、次の攻撃は私たちには当たらない。それが分かってるからこその余裕なのよ?
ラジエルドが手を振り、先程も放ったであろう蒼い炎の槍を飛ばしたその時。赤い影が飛び交って全ての炎の槍を消し飛ばす。
「お前の! 相手は! オレだ!」
私たちやギルドを背にして立つ、小柄ながらも心強い背中。今の私からは見えないけれど、その金色の瞳は今ギラギラと輝いてるのでしょうね?
「強ぇヤツと戦った方が、お前も楽しいだろ? なぁ、ラジエルド?」
「強いヤツ、ね。お前がそうだとでもいうのか? 最弱の鬼と名高い
信じてるわよ! ジュマ!
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