sideユージン2 中編


 遅い。物足りない。そんな感想が出て来てしまう。おかしいな、俺は元々平和ボケで有名な日本人だというのに。確かにこの世界に来たばかりの時は魔物であっても殺すのを躊躇っていたけどな。だが、戦争の真っ只中で迷ってなんかいられず、いつのまにか慣れちまった。言葉遣いなんかも荒くなっちまってる自覚もある。こりゃ環には聞かせられねぇな。

 はい、また3匹っと。数秒で10匹ほどの魔物を葬り去りながらそんな事を考える余裕さえあった。


「相変わらず反則ですよね、その武器」

「ほんとー。ボクも使いたいよ」

「すまねぇな。だがこれは俺専用なんだ」


 わかってますよ、と軽口を叩きながらシュリエは風や水の自然魔術をぶっ放している。どの口が反則だと言うんだ。


「んー、でも頭領ドンはそんな武器使わなくても十分強いのに」

「俺ももう歳なんだから楽させてくれよ」


 歳だからこそ身体を動かした方がいいと思うけどなー、とにこやかに話しながらケイは舞うように立ち回り、白い鞭をしならせる。ほんと、こいつは静かに美しく戦うよな。鞭には毒の魔力も込めてるっつーから厄介。さすがは蛇だ。伊達じゃない。


「手っ取り早く多くの敵を倒すにはちょうど良いんだよ、銃ってのは。それに、魔物は極力触りたくない」

「それには全面的に同意しますね」

「まぁ、確かにこの状態の魔物は特に精神を抉る魔力を放出してるからね」


 そう、俺が使っているのは連射出来るタイプの拳銃。とはいえ、込めているのは弾ではなく魔力だから、前の世界にあったものとは少し違う。完全に俺の想像力だけで作った俺専用の武器だ。

 つまり、銃自体も魔力で具現化したものに過ぎない。だから俺が触れていないとすぐに消えちまうんだ。でもこれがかなり使い勝手がいい。ちなみに車も同じ原理で作り出している。


「お、お前らは何者だ!?」


 とまぁ派手に3人で暴れてりゃすぐ気付くわな。むしろ遅かった程だが。ネーモの奴らが俺たちに気付き始めたようだ。


「まぁなんだ、お構いなく?」

「通りすがりの者です」

「あっ、ほら余所見してたから建物内に入って行っちゃったよ? 魔物」


 適当に答えながら魔力を飛ばして魔物を建物内へとさり気なく誘導していく。白々しいケイの発言には少し吹き出しそうになった。自分たちで壊すより壊してもらった方が楽だしな。ただ、ネーモにいる人材という名の奴隷たちの方へは行かないよう、細心の注意を払う事は忘れない。


「討伐手伝うから邪魔するぜー」

「なっ、ま、待て……っ!」

「どいてください、邪魔ですよ」

「お邪魔しまーす」


 やや混乱気味の男を押しのけてズカズカとギルド内に乗り込む。嘘は言ってねぇぞ。ちゃんと魔物を退治しながらだし。建物に注意を払ってねぇだけで。


「ボクの後についてきてよ。もう内部は把握してるからさ」

「お、楽させてもらおうか」

「んー、ダメだよ頭領ドン。ちゃんと進行方向の掃除は手伝ってね」


 魔物を蹴散らしながらの先導かと思ったのにそりゃ残念だ。全く倒さないわけじゃないけどな。1人で楽するなよ、と暗に言われた気がする。生きた蛇のようにしなる鞭が的確に魔物の急所を狙い打ちしてるし、一掃するのも無理な話じゃないだろ?


頭領ドンは怠け癖がありますからね。あ、ほら、回り込んで来ましたよ。魔物とギルド員」

「おいこら、シュリエ。お前が風で奴らの進む道を導いてんじゃねぇか」


 何か問題が? と笑顔で言われた。ここは黙っておくのが正解だろうな。まったくおっかねぇ!


 さて、ついにネーモのギルド員も俺たちの敵に回り始めた。ようやくか。やはりこのギルドは連携や考察、その他諸々の教育が行き届いてない。ウチのギルドだったら建物内に不審者が入ってきた時点でトラップの餌食だというのに。むしろ建物に近付いた時点で目を付けられるからな。用心深い? 備えあれば憂いなし、だ。


「止まれ!」

「うぉっと」


 おお、やっと骨のある奴が登場か? コイツらは見覚えがあるぞ。確か見たのは戦争の時だ。強さには一目置いていたんだが、いかんせん思考が危険な奴と野蛮人だったからスカウトは見送った2人。そしたらなぜ自分たちが呼ばれないんだと逆恨みされたんだよな。……あの恨みがましい目付きを見るに、未だに根に持ってやがるな。名前は……あー、忘れたけど。


「なんでオルトゥスの奴らがここにいるのか知らないが、作戦に参加出来なかった鬱憤を晴らすのにちょうど良いなぁ!」

「おや、作戦ですか?」

「ふんっ、教えてやらねぇけどなぁ!」


 ニヤニヤしながら勝ち誇った笑みを浮かべる2人。馬鹿すぎて逆に愛着湧きそうなレベルだ。俺らが知らずに来たと思ってんだろうなぁ。良かったなぁ。なんで俺らがここに来たのかもう少し考えような?


「教えてほしいとは思ってもいませんけど」

「てめぇ……スカした顔しやがって……!」


 加えて沸点が低い。やはりスカウトしなくて正解だったな。


「表へ出ろや!」

「嫌ですよ。大体、今がそれどころではない状況だとご存知でしょう? 早く魔物退治したらどうです?」

「あはは、無理だよシュリエレツィーノ。この人たちの頭でわかるわけないだろう?」

「……本気でやろうってのか」


 お、2人の纏う雰囲気が変わったな。そのオーラはやっぱり強者のそれなんだがなー。あっさり挑発にのるとこからしてもトータル的にダメなヤツらだ。


「男か女かわかんねー2人に負けんじゃねぇぞ」

「当たり前だ」


 うっ、しまったな。そりゃ地雷だお前ら。ほーら、見ろ。俺は今2人の後ろ姿しか見てねぇから作られた笑顔のオプションは見れないが、ただならぬ冷気が漂っている。正面にいるお前らはさぞ恐ろしかろう。一瞬固まってるのを見逃さなかったからな?


「ほ、本当の事言っただけだろうがぁ!? 男なら男らしく拳でやりやがれ!!」

「……だ、そうですが。構いませんか? 頭領ドン

「……はぁ、好きにしろ」


 振り返らずにそう言ったシュリエにため息を吐きながら許可を出す。つまり魔術で建物破壊は望めないった事だな。


「じゃ、ボクはこっちの小さい人が相手でいいのかな?」

「誰がチビだこの野郎ぉっ!」

「チビだなんて言ってないし、ボクは野郎でもないんだけどな」


 どうやらシュリエもケイもやる気満々のようだし、俺は地味に魔物を誘導しながらのんびり観戦と洒落込みますか。


 建物内の狭い廊下にて、オルトゥス、ネーモという2つの特級ギルドの主戦力であろう2組の戦いが、今始まった。

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