遠征の準備


「さっ、メグちゃんこっちへ来てちょうだい。試着して細かいところを合わせるから!」


 遠い目で現実逃避していた私をランちゃんがズルズルと店内奥にあるフィッティングルームへと連れ去った。1人にするのはどうかと思ったのだろう、ケイさんが一緒に付いてきてくれる。流石にお着替えをギルさんの前でするっていうのも、ねぇ? お腹ポンポコの幼児体型だけどね!


「ほら、これよ! 動きやすいようにショートパンツタイプにしたわ。脚が露出し過ぎると安全面に難があるから、ニーハイソックスにブーツの組み合わせ。ブーツも編み上げのように見えるけど、足を入れたらフィットするような魔術がかけられているわ。え? なんで編み上げかって? 可愛いからに決まってるでしょぉ?」


 フィッティングルームへ着くなり私の戦闘服を披露したかと思うと、ランちゃんは聞いてもいないのにあれこれ説明し始めた。基本は淡いピンクも混じった迷彩柄ですごく可愛い。ニーハイソックスは濃いグリーンで、ブーツはもっと濃いグリーン。なんと帽子まで服とお揃いで用意したんだそうだ。

 早速服を着てみると、これが驚きの着心地の良さ! 羽のように軽いのに守られているような安心感があるのがすごく不思議。まるで魔力で包まれているみたい。温度調節機能が付いてるから極端に暑かったり寒かったりしない限り、暑くも寒くもないんだって。


「よし。微調整もこれでオッケーよ! ブレスレットは着けてるわね? じゃあ、服ごと包み込むように魔力を放出してみてちょうだい」

「メグちゃんの魔力を服に覚えさせるためだよ。ブレスレットもそうだったでしょ? これをする事で成長に合わせて服もサイズが勝手に変わってくれるんだよ」


 なんというオーバーテクノロジー! もう何がきても驚かないつもりだったけど、まんまと驚いちゃったよ!

 気を取り直して魔力を流すと……


「ふえっ!?」


 今着てたはずの戦闘服がブレスレットに収納されていった!? おかげで今の私は下着姿である。キャー! じゃない、どういう事?


「ふふっ。ちゃあんと機能したみたいね! じゃあ一度、今日着てた服を着てちょうだい。この服も予想通り似合うわよねぇ」


 嬉しそうなランちゃんだけどごめん、私は何がなんだかわかってないよ? でも言われるがままに元の着物風ワンピースにいそいそと着替える。説明プリーズ!


「さて、ここからがポイントよ。さっき着た戦闘服を思い出しながらブレスレットに魔力を少し流してみて?」


 やはり詳しい説明もなくそう指示される。首を傾げていたら、説明するより早いから、と催促されてしまった。ふむ、実際やってみたほうが早いって事ね。それなら言われた通りに、と。


「ふぉぉぉぉ!」

「やったわぁ! 問題なく成功ねん! これでこの服はメグちゃん専用の戦闘服よぉ! その時どんな格好をしていても、ブレスレットさえ着けていればいつでも一瞬で着替えられるわ」


 これはすごい! イメージしながら魔力を流しただけでさっきの戦闘服に早着替え出来ちゃった! ちなみに、収納をイメージして魔力を流せばそれまで着てた服にすぐ戻るんだって。うわぁ便利。しかもギルさんの服みたいに、一度収納されたら毎回洗浄魔術が自動的に発動されるからいつでも清潔なんだとか。ば、万能か!


「流石はラグランジェだね。メグちゃんの可愛らしさを引き立てつつ、目立たないような模様が絶妙だよ。さ、今か今かと待ってるギルナンディオたちにお披露目してこよう」


 今度はランちゃんに負けず劣らず良い笑顔なケイさんに引きずられるように店外へ。あーれー。


「さっ、変身よぉメグちゃん!」


 店外へ戻るとギルさんとメアリーラさんが出迎えてくれた。そこでランちゃんのこのセリフである。なんだ変身って。魔法少女か!


「えーっと、取りあえず戦闘服になってみましゅね」


 早速さっきと同じようにブレスレットに魔力を流すと、何故か私の周りがキラキラ輝きだした。何事かと顔を上げると、ランちゃんが何やら魔術を行使している……!?


「演出のためだけの光魔術……相変わらず魔力の無駄遣いなのですよ! でもグッジョブなのです!」

「んふっ、そうでしょう? こちとらいかに可愛くするかに命かけてんのよぉ、ちっとも無駄遣いじゃないわ! 必要経費よぉ!」


 まさかの、ランちゃんによる光魔術でした! まさかリアル魔法少女やることになるとは思わなかったけど確かに可愛い演出だと感心しちゃったよね。メアリーラさんが感涙して震えてるよ。そんなに!?


「……ふむ。似合っているな。自動洗浄、温度調節、衝撃吸収も服にしては十分な強度で備わっている」


 でもそんな演出については完全スルーで、ギルさんは私の戦闘服について冷静に分析していた。おぉう、なぜか私が恥ずかしいんですけど!?


「ふふっ、メグちゃん。とっても可愛かったよ? ギルナンディオは魔術が込められた服や道具はつい分析する癖がついてるだけさ。気にしなくていいんだよ」

「んもぉっ、今回もギルさんの気は引けなかったわねん」

「素晴らしい出来だと思っている」

「そぉじゃないのよぉっ! でもま、嬉しいけどぉ」


 少しだけ頰を膨らませて拗ねるランちゃんの図は、少々視界の暴力気味だったけど、嬉しそうに頰を緩ませた姿はちょっぴり可愛いく見えた。元々美人さんだからね!


「戦闘服を無事受け取ったところで、ラグランジェに新たな依頼をお願いしたいんだけど、いいかな?」

「んまぁ、いいわよ! 今おかげさまで注文が殺到してるから少し時間がかかるけれど」


 注文が殺到してるんだ……忙しい中頼んじゃって申し訳ないなぁなんて思っていると、ランちゃんがウインクしてきた。


「注文してくれるのはありがたいことなんだから、どんどんしていいのよぉ? ちょっぴり時間もらっちゃうだけ」


 そんなに顔に出やすいのかしら、私。またしても考えを読まれてしまった! ショーちゃんに考えを読まれるまでもないとは由々しき事態だ。


「受け取りは今回の遠征が終わった後になるだろうから、ゆっくりで構わないよ」

「お仕事終わったごほーびなんでしゅ!」

「そういうことなら問題ないわ。ゆっくり丁寧に仕上げるわねん!」


 忙しいのに快く引き受けたランちゃん素敵! まぁそれがお仕事なわけだし、忙しいのは嬉しい悲鳴ってやつかもしれないけどね!

 オッケーをもらえたのでメアリーラさんと共に思わず歓声をあげてしまった。どんなぬいぐるみにするかは、実はもう決めているのだ! うふふ、出来上がりが楽しみ。

 早速注文をするべく色がどうの、大きさがどうの、生地はどうのとみんなででキャイキャイ話し合った。それもいい、あれもいいと女子のぬいぐるみ談義の盛り上がること! ケイさんも、ランちゃんも、女子だよ。異論は認めない。まぁケイさんは盛り上がる私たちを眺めるのを楽しんでた節があるけども。ランちゃんは乙女だからね!


 こうして長い時間をかけること数時間。ようやく話がまとまった時にはもう日が沈みかけていた。お腹が空いたと思ったよ。ぐぅ。えっと、ギルさん……待たせてごめんね!!

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