看板娘
こうしてお話ししながら歩くうちに目的地へと辿り着いた。……道中、「ケイ様よ!」「ケイ様ー!」「ギル様もいらっしゃるわ!」なーんていう黄色い声のBGM付きでしたが。この街でのオルトゥスメンバーの認知度はかなり高いらしい。
ちなみに、1番参ったやりとりはこれだ。
「ケイ様、ギル様! その可愛い子は?」
「ああ、この子はメグちゃん。ボクらの子だよ」
「「「!!?」」」
その後の悲鳴は凄いものだった。鼓膜破れるレベルだったね、うん。まさかそんな!? というものから、お似合いすぎる、というもの、中には腐的要素で悶えている人も数人いたのを私は感じ取ったぞ。性別的には男女なのに腐要素が入るなんて業が深い……
ちなみにケイさんの「ボクらの子」発言はからかい目的などではなくいたって真面目で、「
でもこの騒動のおかげで、街で私という存在が認知され、オルトゥスという後ろ盾を得ていると知られる事で身の安全が少し保証されたみたいだ。ギルさんが疲れた顔でそう教えてくれた。……ギルさんの(精神的な)犠牲の上に得た立場、大切にします。
「さあ、着いたよ。ボクオススメのお店『ラグラン
ぱーどぅん? い、今、なんと……? 聞き間違いでなければあの看板に書いてある星マークを「キラリン」と読みませんでしたか……? ケイさんはニコニコしながら中にいるらしい店主さんを呼びに行った。
「……ギルしゃん」
「なんだ?」
「あれ……キラリンって読むでしゅか?」
「……そうだ」
そうなんだ……うん。何も言わないでおこう。微妙な空気が流れる中ギルさんと2人で待っていると、奥からケイさんが戻って来るのが見えた。そしてケイさんの後ろからも人影が。人、影が……お、大きい。
「あらぁ! あらあらあら、いらっしゃぁい。よぉこそぉ、ラグラン
ケイさんの背後からクネクネとした動きをしながら野太い声でそう言ったのは、黄色と黒の斑模様の長い髪を結い上げ、長い尻尾を軽やかに振った大柄な男性? だった。えっと、いわゆるニューハーフという属性かな?
「んまぁっ! ほんっとうに可愛いのねぇ! アタシ、頑張っちゃうわ! どんな服をお求めかしらぁ?」
なんと言うか、チカチカする人である。耳や尻尾、髪の模様を見るに虎の亜人かな? っていうのはわかる。そしてこの配色も生まれつきなのだろう。そんな大柄な男(?)の人が全身色鮮やかで煌びやかなドレスのような服を纏って着飾っているものだから、余計に派手なのだ。でも不思議と似合っている。さすがは服飾店の店主さんと言うべきか。
あ、いけない。挨拶しなきゃね!
「はじめまちて、メグでしゅ! この間は、ネグリジェとこのワンピース、あとエプロンもありがとうでしゅ。とっても着心地が良いんでしゅー!」
ちゃんと服の感想も言わないとね! もちろんお世辞などではなく本音だ。良い生地を使っているみたいで、本当に着心地が素晴らしいのです。
「あら、やだぁ、すっごく良い子ねん! アタシはラグランジェ。ランちゃんって呼んでくれると嬉しいわ。メグちゃんの服は子ども用だし、余った生地で作れちゃうから格安に出来るのよ。んふふ、見た目も性格もこぉんな可愛い子なら、今日もたっくさんサービスしちゃうわよぉ?」
店主さん改めランちゃんは上機嫌でクネクネしながらウインクした。バチン、と音がしそうなウインクだ。睫毛が長くてメイクもバッチリなニューハーフのウインクの破壊力たるや。良く見ると普通に美形さんなのに気付く……勿体無いとは思わないんだよね。そのくらいこの姿がしっくりくるというか。
「ラグランジェ、早速服を選ぼうと思うんだけど、いいかな?」
「もっちろんよぉっ!」
かくして、リアル着せ替え人形遊びが始まるのだった……!
「……大丈夫か、メグ」
「あ、あいぃ……」
体感で2時間くらい経過した気がする。超絶テンションの高いランちゃんと終始嬉しそうなケイさんに誰が逆らえようか。いや、まあ可愛い服を着るのは楽しいけど、限度ってものがあるよね。おかげで私の体力は底をつき、現在ギルさんに抱えられております。ふぅ、やっぱりギルさん抱っこが1番落ち着くなぁ。
「お前ら……やり過ぎだぞ」
「うん、反省してる。ごめんよ、メグちゃん」
「そうねぇ、あんまりにも可愛いからつい夢中になっちゃったわぁ。メグちゃん、ごめんなさいね」
ケイさんやランちゃんが申し訳なさそうに謝罪してきた。やり過ぎた自覚はあるらしい。
「ううん、だいじょぶでしゅ。可愛いお洋服、たくさんで楽しかったでしゅから。でも……その、こんなにたくさん、いいんでしゅか?」
そう、目の前には山のように積み上げられた洋服の山。もちろんきちんと畳まれているけど、だからこそこの山は圧巻である。
「んー、ボクが贈りたいんだ。……ダメかな?」
「アタシや従業員も、メグちゃんのサイズや姿を見てすっごいインスピレーションが溢れてきちゃって。是非着て欲しいと思って張り切って作っちゃったのよ。アタシたちからも贈り物と思って受け取って欲しいわ」
うっ、そう言われたら断れないじゃないか! うーん、でもタダで貰うのは気がひけるよ。ケイさんとは出世払いって話をしたけど、それにしてもこの量はなぁ。
「何か、私に出来るお手伝いないでしゅか……? こんなにたくさん貰うなんて、やっぱりちょっと悪い気がするでしゅ」
「んー、メグちゃんは本当に良い子だなぁ」
「そうねぇ。でも気持ちは分かるから尊重してあげたいわね」
ランちゃんはそう言うと人差し指を口元に当てて、んーっと少し考える様子を見せた。無駄にセクシーである。それから何か思いついたかのようにパッと表情を明るくした。
「そうだわ! 時々でいいから、メグちゃん。ウチで看板娘してみない?」
「「「看板娘?」」」
その提案に思わず3人で声を揃えて聞き返してしまった。
「そうよぉ! 今日渡した洋服を日替わりで着て、お店の前でお客さんを出迎えて欲しいの。可愛いメグちゃんを見てお客さんが来るし、服を売り込むことも出来るもの!」
もちろん、服の代金分働いた後は給金も出すわよ、とランちゃんは乗り気だ。え、そんなんでいいの? でも確かにこの服はどれもこれも可愛いし、見た目だけなら可愛い見た目な今の私なんかまさに看板娘にピッタリかもしれない。
「それはダメだ」
「んー、ダメだね」
私が少し乗り気になっていたら、保護者2人からは却下のお返事が。やっぱさっき話してたように、危ないからかな。
「メグをギルドの外でなど働かせられない」
「うん。可愛過ぎて危険だからね。それとも、オルトゥスから護衛も雇うかい?」
「うっ、それは無理だわぁ……」
良い案だと思ったんだけど残念ねぇ、と頰に手を当ててため息をつくランちゃん。うう、保護者の必要な軟弱幼女でごめんなさい!
「でも、看板娘っていうのは良いかもしれないね。可愛いメグちゃんには適任だとボクも思うよ」
ガックリと肩を落とすランちゃんに、ケイさんがそう告げた。この人は人のフォローが上手だなぁ。
「だからさ、メグちゃんはここのお店じゃなくて、オルトゥスの看板娘になれば良いんじゃないかな」
「オルトゥしゅの……?」
ギルドの看板娘? 首を傾げているとランちゃんが再び嬉しそうに声をあげた。
「んまぁ! それって良いじゃなぁい! そこでついでにお店の宣伝してくれないかしら?」
「そうだね。毎日違う服を着てギルドに来る人を出迎えれば、ラグランジェの店の宣伝も出来るし。どうかな、メグちゃん」
「ふむ。ギルド内なら、誰かしら必ずいるから問題ないな」
なんと、意外なところで私の仕事が決まりそうになっている! 私に出来る仕事ならどんな事でもやろうと思っていたから、私は元気にやりましゅ! と返事をした。でも、ここで話がまとまった所で出来る訳もないので、ギルドに戻った時にサウラさんに確認しなきゃいけない。
そんなわけでこの話は1度持ち帰り、保留となった。
お仕事、決まると良いな!
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