陰謀w 7
市川駅前広場
その光景はあまりにも異質なものだった。
通りがかる人々の何人かはこちらをキョロキョロと見てはくるが、
「ん?……あぁそうですよ、もしかして
「そ、そうです! ……あの〜……」
嬉野の問いかけに優しい笑みで返す彼。
紳士的で、優しそうな雰囲気を醸し出す彼だが、嬉野と胡桃沢は別の印象を抱いていた。
黒い。
それが彼に対して抱いた、二人の最もな印象だった。
クスノキで日を遮り、影になっているからというわけではない。
黒い髪、黒縁メガネ、黒いシャツ、黒い革手袋、黒いスキニーパンツ、黒い革靴。
白目、肌以外、全てが黒に染まっていた。
しかしそんな彼よりも、最も『黒いもの』が周りに何十匹も存在していた。
「ハハッ、ちょっとこの子たちとお話ししていまして、いつもこの時間は、この場所でみんなとお話ししているんですよ。まぁ最初はかなり目立って皆から注目を浴びる毎日でしたけど、今じゃすっかり日常化してしまいましたね」
彼の腰掛けたクスノキの枝や、芝生の上、彼の肩、腕にただ静かに、その『黒いもの』は主の合図を待っていた。
「すみません、申し訳ないのですが、このままの体制で自己紹介させてもらいますね、なんせこの通り今ちょっと動けなくて」
自己紹介という言葉に彼女達はやっと『 黒いもの』から彼に目を移した。
「では改めて嬉野さん、胡桃沢さん、初めまして。『ANT』第2幹部、
榊の紹介を合図に、榊の周りいた烏達の目は、嬉野と胡桃沢の方に向く。
「凄い! 凄いのです! これぜ〜んぶ榊さんのお友達なんですか!?」
胡桃沢は興奮を抑えきれず、榊の腕に乗っている一匹の烏の方に歩を進み、まじまじとキラキラした瞳でその烏の目の前まで迫った。
「榊さん榊さん! 触って見てもいいですか?」
「はい、いいですよ。この子は撫でられるのが好きですから」
「せ、先輩? あの……あまりその……触らない方がいいんじゃ?」
「ハハッ、大丈夫ですよ。この子達はそんな野良の烏達とは違って綺麗好きなんです。ゴミ場とかを漁ったりしないですし、私が毎日手入れもしていますので、ご安心下さい」
「あ、そうなんですか?」
嬉野は安心して胸を撫で下ろしと同時に、烏程度の生き物にそこまでするのかと疑問を感じた。
「そうなのです! この子達は『人間』を食べているのですから、この子達はごみを漁る必要がないのです!」
「え?」
胡桃沢の発言に、嬉野の心臓が凍りつく。
胡桃沢にはこの烏達からある臭いを感じ取っていた。
己の快楽の為に、多くの人々を殺し、多くの人々を解体した胡桃沢だかこそ、榊の周りにいる烏達から僅かながら漂う臭いを見逃さなかった。
生ゴミが腐ったような臭い、そんなのは比にならない、死臭の臭いである。
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