陰謀w 5

 市川駅前広場


「風が気持ち〜ですね」


 その彼女の存在は、周り行く人々の注目の的となっていた。


 そよ風でなびく綺麗な長い髪、淡い栗色の優しそうな瞳、プクッとした唇などを見つめている、のではなく。


 彼女の立派な大きいお尻だった。


「おしりーのおしりにみんな釘付けなのです!」


「ちょっ、先輩!! 声が大きいですよ!」


 サイズが合っていない白衣を着た女性、胡桃沢くるみざわめいの大きな声の発言に、嬉野うれしの莉之しりのお尻を見ていた人達はそっぽを向き、その場を速歩で去って行った。


 市川駅前にある広場。この場所はバス、タクシー、一般車の交通機能の利便性が高く、さらにイベントや待ち合わせ場所、休憩場所の利用用に広場となっている。


 嬉野は先程乗っていたバンを市川駅内にある駐車場に停め、思い人である胡桃沢と共に、樹木のクスノキがいくつも植えられているエリアに居た。


 ある人物と会う為に。


「おしり〜待ち合わせ場所は此処ここで会ってるのですか?」


「はい先輩! まぁまだ集合時間までちょっとありますし、大丈夫だと思いますよ」


「そうなのですか〜……ん?」


 胡桃沢は右の方向に首だけ90°曲げ、一点の方向を見つめる。


「どうしましたか先輩?」


「臭うのです」


「はい?」


 嬉野は胡桃沢が見た方向に目を向ける。


 するとそこには一人の人物が視界に写る。


「先輩、もしかしてあの人ですかね? 先輩?」


「……」


 胡桃沢は嬉野の言葉を無視したわけではない。


 ガラス越しにある、高い玩具おもちゃを眺め続ける子どものように。


 胡桃沢の視界には、その人物の姿しか目に入っていなかった。


 否、正確に言えば、その人物の周りにいる『黒いもの達』の存在を。


 嬉野と胡桃沢の目の前には、一人の青年が、一本のクスノキに腰掛けていた。


 青年、と言うよりかは、美青年という表現が似合っており、誰が見てもイケメンと思う程の顔立ちだった。


 ただ、彼女達はそれよりも、美青年の 周りにいる『 黒いもの』に対して目移りしていた。

 彼女達は青年が待ち合わせ人であるかを確認する為、恐る恐るそ近づき、ある程度の距離まで来た所で止まり、嬉野が話し掛ける。


「あの……もしかして……『ANT』あんとの人ですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る