桜色の風船
カゲトモ
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「っはぁ」
夕方から降り出した雨は時計の針が十二時を回った頃にようやく弱くなっていた。今ではもうただ地面が濡れているだけだ。
まぁ出来ればもっと早く止んでほしかったけど。俺の店は商店街の続きにあるとしても、アーケードの外だから雨が降ったりすると客足が減ることが多い。だから今夜もあまり芳しくないわけで。いや、木曜の夜はもともと少ないから仕方ないのかも。だって明日もみんな仕事だしね。
「っしょ」
ずぶ濡れになっている看板を乾いたタオルで拭ってやる。おうおう可哀相に、ただ濡れて光っているだけなんて。お前も沢山のお客様の顔を見たいよなぁ、なんて。
「あれ?」
粗方拭き終えて立ち上がると、少ない街灯の下に一つの人影が。大丈夫、足はある。そして見覚えも。
「カリンちゃん?」
夕方、話題に出ていた子だ。偶然同じキャバクラで働くユリアちゃんに会っていたから。ユリアちゃんの話しでは、今夜でカリンちゃんは店を辞めるって言っていた。
「あ、スカイさん、こんばんは」
「お疲れ。今夜で店、卒業するんだってね」
確かに彼女の両手には沢山の重そうな荷物があった。
「ふふ、はい。今夜で卒業です」
そう言って静かに微笑む彼女は、キャバ嬢と言うよりは普通のお嬢さんだ。
「でも、どうしてスカイさんが知ってらっしゃるんですか?」
「夕方にユリアちゃんに会ったんだよ」
「あぁそれで」
どこか嬉しそうに彼女は瞳を閉じる。彼女の手には見たことのある大きな紙袋があった。
「それの中身って風船?」
「え? ふふ、そうです。ユリアからの」
やっぱりね。ゴールデンレトリバーが入りそうなおっきな紙袋だもん。
「ユリアちゃん、楽しそうだったよ。カリンちゃんに楽しい思い出で一杯にして行ってほしいって」
ユリアちゃんは超天然だけど、こういうところは人一倍気にかけてくれる。大好きだからこそ、自分の寂しさよりも相手の事を一番に考えて行動するのが彼女らしい。
「はい、でも正直大きくてちょっと困りましたけどね」
でも大きくて困っても、持って帰って来たんでしょ?
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