杉三異世界編 瀧
増田朋美
序
富士駅
タクシーを降りてくる杉三と、蘭。
駅前交番の前を通りかかる。
声「だからいったでしょ、ところ番地も何もわからなければ、どこに住んでいるのかなんて教えられないの!」
声「でも、ここに来れば、杉三さんの家がどこにあるのか、教えてくれると聞きました。だから、お願いします!教えてください!」
杉三「聞き覚えのある声だ。」
声「だけど杉三さんと言う名前は、この界隈には山ほどあるし、郵便番号も住所も何もわからなければ、どこの杉三さんなのかも、こっちはわからないの!」
といって、一人の女性が飛び出してくるのと同時に、交番の扉はピシャン!と閉まってしまう。
杉三「みわさんじゃないか!」
女性も、杉三を覚えていたらしい。
女性「杉三さん!覚えていてくれたんですか!」
蘭「ほ、ほんとにみわさんだ。」
女性「蘭さんまで!覚えていてくださったんですね!」
杉三「覚えてるよ!僕はバカだから、忘れ物も多いけど、覚えるものもあるからね。」
蘭「杉ちゃん、それどういう意味だ。」
杉三「どうしたの!僕らにまた、用事ができたの!」
みわ「そうなのです!今回はあらゆる人に、杉三さんのお宅のあるところを聞いて回ったのですけれども、皆さんしらないので。交番というところへ行けば教えてくれるといわれて、こちらに来てみたんですが、逆に叱られてしまいました。」
蘭「たしかに、家のありかなんて、いまはなかなか聞きにいく人は、いませんからね。」
交番の扉が乱暴に開く。
警察官「感動的な再開は、他のところでやってくれ!うるさくてたまらない!」
杉三「わかったよ。すぐ家へ連れて帰ります。また、カレーを作ってあげますよ!」
みわ「ありがとう。カレーなんて、松の国では食べられないものですから。」
杉三「じゃあ、タクシーにのって帰ろうか。蘭、手配して。」
蘭「また夢を見ているのかなあ。」
と、体を叩くと、また痛かった。
杉三「早くして!」
蘭「わかったよ。」
と、タクシー会社にスマートフォンを出して電話を掛ける。
みわ「タクシーとはなんでしょう?」
杉三「お金を払って、家まで連れて帰ってくれる鉄の猪。」
みわ「鉄の猪に乗れるのですか?」
杉三「うん。歩けない僕らには、格好の乗り物だ。ここから僕のうちまで車いすでいったら、1日はかかっちゃう。」
蘭「みわさんの世界にはないんですか?」
みわ「ええ、ありません。」
蘭「車輪を用意したのなら、作ればよいのでは?」
杉三「蘭、大事なこと忘れるな。この人たちは、発展しない民族なんだぞ。」
蘭「そうか、それがこの人たちと話していると、たまらないところだなあ。」
タクシーが到着する。
杉三「運転手さん、今日はさんにんのるね。」
運転手「杉ちゃん、子供さんのせるなら早く言ってくれよ。ジュニアシート、用意するからさ。」
杉三「いらないよ。みわさんは大人だよ。」
運転手「でも、そのくらいの身長なら使ってもらわなきゃいかん。小人症の人なのかな?」
杉三「違うよ、もともとこれくらいの、」
蘭「いえ、シート、用意してください。」
運転手「そうだよなあ、ちょっと待ってくれ。」
と、トランクを開けてジュニアシートをとりだし、助手席に設置する。
運転手「はい、お三方、乗ってください。」
杉三と蘭は運転手に手伝ってもらってタクシーにのる。みわもこわごわ、助手席に乗る。
運転手「どちらまで?」
杉三「新浜の、ショッピングセンターの近くに。」
蘭「あ、みちは僕が言いますから。」
運転手「とりあえず新浜ね。はい、いきますよ。」
と、エンジンをかけ、タクシーは走り出す。
みわ「驚きました。こんなにはやく走るものなのですか。」
杉三「蒸気自動車よりも速いか。」
蘭「当たり前だよ。」
みわ「ちょっと怖いくらいですわ。」
杉三「まあ、初めてガソリン車に乗ったんだからそう感じるかもね。」
運転手「小さいかたは、どこかの、外国からきたかたですか。」
蘭「まあ、そういうことです。」
運転手「生まれて初めて自動車にのったの?」
みわ「え、ええ。」
運転手「へえ、じゃあ、日本も初めてかな。観光も楽しんでね。」
みわ「はい。」
蘭「あ、ショッピングセンターすぎたら、池本病院の方へ向かってください。」
運転手「あいよ。」
そうこうしているうちに、杉三の家の前につく。
運転手「はい、ここね。」
と、タクシーをとめてドアを開け、杉三と蘭を下ろす。みわも運転手に手伝ってもらい、タクシーを降りる。
蘭「どうもありがとうございます。」
と、運転手に五千円を手渡し、お釣りをうけとる。
運転手「はい、毎度あり。また利用してね。」
蘭「わかりました。」
と、走り去るタクシー。その間に杉三とみわは、どんどん中へはいっていく。
蘭「全く、こう言うことは、いつも僕の役目だよな。」
と、車イスを動かし、杉三の家にはいる。
中では、早々と、人参を切っている音。
声「で、てんは元気してる?」
声「それが、暫く伏したままです。」
蘭「また何かに巻き込まれていくのだろうか。」
玄関から食堂に向かう蘭。
台所で杉三が、カレーを作っている。みわは、椅子にすわっている。
みわ「蘭さん、おねがいがあるのですが。」
蘭「はい?」
みわ「前にお会いした、皆さんをまたよんでくれませんか。」
蘭「またなんで?」
みわ「たくさんの方の意見がほしいからです。」
蘭「何で僕が。」
杉三「だって電話の操作ができるの、蘭だけじゃん。」
蘭「確かにそうだよな。」
杉三「ほら、電話してよ。」
みわ「私からもお願いします。」
と、深々と頭を下げる。
蘭「わかったよ。」
と、しぶしぶスマートフォンをだし、番号を回す。
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