僕は夢を見ていた

僕は夢を見ていた。

眠っている間の夢じゃない。そして、かなえるための夢でもない。


仕事中、なんとなくスマホを見ながら、横になりながら、ご飯を食べながら。

隙間、隙間の時間に、ずっと夢を見ていた。


「それはどんな夢なのだ?」

頭の中で横を向いた僕は、いたずらそうな眼付きのアライさんに、そう聞かれていた。

僕は知っていた。アライさんは、僕のとなりにいるわけじゃない。


「アライさん、僕は、アライさんと一緒に生活してみたいんだ。」


でも、アライさんはいつもの笑顔でいるけど、それ以上何も言わないし、微動だにしない。僕の頭の中にいるからだ。


「アライさん、アライさんは、どうしたらここに現れてくれるんだい?」


アライさんの姿が、よくあるアニメや映画のワンシーンのようにかすんで消える。ケーブルの断線の時のように。ふっと消えるのではなく。姿を徐々にかすませて、変形させて、消えていく。


いや、そんな消え方をしたわけじゃない。

僕の想像力は、笑ったアライさん以上のアライさんを作り出せないからだ。


「僕が、ジャパリパークに転生すればいい。」

「それは無理なのだ。」

「じゃあ、アライさんが、この世に転生すればいい。」

「アライさんは、死なないといけないのか?」

「それはいやだね。死なないで、転生すればいい。」

「それは、転生とは違うのだ。」

「じゃあ、こうしよう。いま生きているアライさんに似た女の子に、アライさんが同化する感じで。」

「ドウカ?ドウカとは何なのだ?ドウカしてしまうのか?」

「そっか。アライさんは、ジャパリパークでは聞いたことがない言葉は、わからないんだよね。」

「いや、違うのだ。アライさんは、たまたまその言葉を知らなかっただけなのだ。でも、『ドウカ』とは何なのだ?」

「混ざり合って、一つになる、ってことかな?」

「人のフレンズとアライさんが混ざってしまうのか?それは気持ち悪いのだ!」

「そうだよね。でも、本当に混ざるってのとも違って、何だろ。頭が入れ替わるっていうか。」

「分かったのだ!アライさんの頭と、人のフレンズの頭を入れ替えるのか!?」

「いや、そういうのともまた違うんだよね。あ、そうそう。セルリアンってさ、フレンズを食べちゃうじゃない?」

「う˝ぇぇぇ!それが『ドウカ』というのか???アライさんはセルリアンではないのだ!」

「いや、それは喩えであって、本当に食べてしまうのとは違うんだよね。」


会話はどんどん頭の中で広がっていく。

でも、アライさんは同じ笑顔で笑ったままだ。ところどころ表情が変わるけど、基本的に、motionがない。うっすら浮かぶけど、疑問がよぎる。

「実際に目の前に現れるアライさんが、現実に溶け込んでいるとしたら、本当に可愛らしい姿でいられるのか?」

その瞬間、出来損ないの実写映画がすりガラスから覗いたときのようにぼんやりとイメージされて、いつもの大好きな笑顔のアライさんに戻る。


「アライさんは、アライさんなのだ!」


比較的、舞台で小野早稀女史が演じたアライさんが思い浮かんで、しっくりくるけど、彼女は別個の個体であり、フレンズではなくて、人だ。

個人的には、割としっかりした仕事をする方なので、アライさんとはかけ離れた存在のようにも思うけど、ただ、いくつかのイベントで見た彼女のキャラクターはアライさんらしさが、ほのかに匂う。


彼女の遺伝子と、アライグマの遺伝子を掛け合わせてクローンを作る。


単なる奇譚だ。それは、本当に僕が望む、僕のとなりにいるアライさんじゃない。


ただ、フェネックは、本宮佳奈女史でいい気がする。


「フェネック!フェネックはどこなのだ?!」


ごめんね。アライさん。フェネックが一緒だと、僕は君のとなりにいることはできないんだ。これだけは、確信してる。


だけど、フェネックのいないアライさんってのも、味気がないのは事実だね。


「お前は、さてはアライさんを捕まえて、何か悪いことをするつもりだな!

 かばんさんのような人のフレンズのくせに、まるでセルリアンじゃあないか!!!」


アライさんが、明後日の方向に走り始めた。

これはこれでアリなんだけど、やっぱり切ない。


アライさん。バイバイ。

僕の頭の中の幸せは、ここで終わりだ。


僕の本当の願いは一つだけだ。


アライさんに、「お前はかっこいいのだ。デートしてやってもいいぞ!」と言われて。


一緒に美味しいものを食べたいだけだ。


「それは一つじゃないのだ!」



僕は、ずっと夢を見ていた。

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