三
第13話「国王の視察」
「ティナ、この魔石で、もつ?」
言葉足らずなアーヴィスがティナに問うているのは『
「うーん、ギリギリ持つかどうかですわね。私なら大事を取って新しい魔石を使いますけれども―――ねえ、ヘルミナ、貴方はどう思うかしら、アーヴィスの指導員さんでしょう」
自分なら、という答えは出せても本質的な正解には自信が持てなかったティナがヘルミナに振る。
「そうね、治療院のプリーストとしての立場で言えば、その魔石は微弱な魔力で事足りる初級治癒術で使い切らせて、7号あたりの足りるかどうかの治癒術には新しい魔石を持ってくるっていうのが正解になるわね。特に魔石の節約にうるさいエベンスも失敗して魔石を無駄に使うことはないように教えろって言われているしね。でも本質的には―――」
そう言いかけてヘルミナは近くにいたローデンを一瞥する。
「そうだな、元冒険者の立場として言わせてもらえれば、その魔石残量でディダを成功させる魔力コントロールを身に付けることも大切だな。冒険には無限に魔石を持って行くことはできないし、すぐに調達できるとも限らない。それに魔力コントロールを身に付けて少ない魔力で治癒術を成功させることが結果的に魔石の節約できる将来に繋がるってワケさ。それが本質」
「そういう事よ。ちなみに私やローデン、ジルならディダ程度であればその魔石でも余裕だけれども―――」
今度は反対のティナに目を向けるヘルミナ。
「はいはい、そうですよっ。どうせ私には無理です、降参しますっ!って言えば良いんでしょうっ」
「つまりアレだな。端的に言うと魔石を一番無駄遣いしているのは未熟なプリーストってことさ、アーヴィス」
ちょうど通りかかって途中から会話を聞いていたジルが割って入って発言したその軽口にティナは顔を真っ赤にして抗議する。
「未熟じゃありませんっ!発展途上なだけですっ!そもそも比較するなら
ティナが言い終わる前に、室外から院内の騒がしい声が聞こえて来て、皆の意識がそちらに集中していた。
「ん?どうした、何かあったのか」
ジルがそう問いかけながら皆の方に視線を戻すと、ティナが目を輝かせてドアの方へ顔を向けていた。
「お父様っ!!―――じゃなかった、国王様っ!!―――でもなかった、ただのちょっと偉い役人さんっ!!」
「ほっほっほっ、エリーゼ……じゃいかんのぅ、ティナじゃったか、頑張っておるかの?」
数人の護衛と共に今にも口から魂が出そうなエベンスを引き連れてやってきた、初老の男性がわざとらしい変装をしているが、その正体が国王なのだと周知されていることはこの二人以外の皆の顔つき見ると聞くまでもないだろう。
「おい、おいっ!!エベンス。いきなりだな」
顔をペチペチを叩いて正気を取り戻させるエベンスに小声で話しかけると、彼は深いため息をついた。
「今年に入ってもう3度目だ……いきなりなのは今更だろう」
実のところエベンスが正体が第二王女エリーゼ姫と噂されるティナをこの解毒チーム配属させたのは彼の名案であり唯一の奇策といっても過言ではない。それは、もしティナに何かあれば国の役人であるエベンスに責任があり、そもそもその素性がバレバレな彼女を他の部署に回したら仕事に影響がでるのは必須で、責任問題においても接し方においても、同じマスター・プリーストであり名声名高いローデン、ヘルミナをチーム内に率いる魔王討伐の立役者である英雄ジルのチームアンチドートでしか問題を回避できなかったに違わない。
そしてティナが皆と同等の立場で接しさせることが出来る空気を作れたのも結果的にだがジルの人望と『チームに上下関係はない』というこだわりの強さの賜物だった。
「おおっ、英雄っ!どうじゃ、この子は? 英雄の目から見ても良くやれておるかの?」
既に何度も視察に来ているこの初老男性は、勝手知ったるなんとやらで院内を好き勝手に歩き回っており、いつものようにジルを見つけては同じ質問をしていた。
「ですので何度も言っているように、、、彼女は普通に同僚や後輩から慕われ、失敗にもめげず、向上心は見事なものです。患者からの評判も上々です」
「もうジルったら! そんなに褒めて頂いては赤面の至りですわっ!!」
肩をバシバシと叩くティナと『ほっほっほ』とご満悦な笑みの初老に挟まれたジルはエベンスに同情の意を隠せなかった。しかも彼女と彼の話はエベンスにとっては最も耳の痛い内容に推移していき、ジルの目にはエベンスの苦難がヒリヒリと痛みが伴うかのように伝わってくる。
「そうじゃエベンス。そちの節約節約という苦言が十分な治療の提供を阻害しておると、幾度なく耳にするのじゃがのう」
「そうですわエベンス。貴方の小言がプリーストの成長を妨げているとも言えるのですのよっ」
「いえ、ですので、当院は国営ですから……他にも限られた予算で苦労しながら運営されている施設も多い中で、 中々赤字を補てんするだけの特別予算を申請するわけにもいかず……」
「じゃから、それがそちの仕事じゃろうて」
「そうですわ、解毒は命に関わる大切な仕事ですのよっ」
「……」
何を言ってもダメだと黙りこくったエベンスの顏には『命に関わる仕事なんぞ他にもいくらでもあるわい』と色濃く書かれていたが、これ以上藪から蛇を出したくなかった彼は結局無言を貫くことを選んだ。
「まあ、ご寄付という形でどこかのお金持ちの方に援助してもらえれば、その問題も簡単に解決するでしょうけれどね」
ヘルミナのそれを聞いた初老の男性が『むっ、それは妙案』と言いながら髭を撫でているのを見て、エベンスは今年一番の会心の笑みをヘルミナへと向けていた。
「良いのよエベンス。ウチの故郷の治療院で専門チームを作るときも同じような問題が出るでしょうからね」
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