毎回バグのないゲームに転生できると思うな

ちびまるフォイ

ぜんぜん楽しめない俺TUEEEEE...

「あーーあ、転生したいなぁ。

 βテストに参加したゲームの中に急に閉じ込められて

 でも持ち前の才能でめっちゃ褒めちぎられてぇなぁ」


などと、開発前のゲームをデバッグプレイしながらため息。

疲れているのかうとうとして目をつむった。


次に目を覚ましたのはつい先ほどプレイしていたゲームの世界だった。


「うおおお!! やった! ゲームの世界に入れたぞ!!」


デバッグプレイ時なので、デバッグメニューも充実。

所持金マックス、ステータス最大値、欲しい武器も取り寄せて、ワープもお手の物。

まさに求めていたセカンドライフだった。


「よーーし!! クソみたいな現実から離れて

 無双しまくれるゲームの世界でリア充ライフを送るぞ――!」


意気揚々と最初の村に訪れた。

村の中で一番かわいい子が声をかけてきた。


「 テストシナリオ:201_A 」


「あれ? ここシナリオ抜けてるじゃん」


ゲームの開発時には大きく「αテスト」と「βテスト」がある。

βテストでは一般ユーザーにプレイさせることもあるので95%はできている。

αテスト版はというと……。


「 テストシナリオ:201_B 」


ヒロインは涙ながらに何か訴えてきている。

でも、セリフデータ入ってないからわからない。


「まぁ、こういうことはだいたいボスに困ってるとかだろ!」


持ち前の経験則でなんとかボスのいるダンジョンに到着。

着いてからはデバッグ機能さまさまで、出てくる敵をばっさばっさとねじ伏せた。


「 テストシナリオ:002_C ! 」


ヒロインは目をうっとりさせ、手を体の前で祈るように組んでいる。

きっとなんらか俺に惚れている的なセリフを言っているんだろう。


「あ、味気ねぇ……」


「 テストシナリオ:003_01 ♥ 」


あれほど恋い焦がれていた「異性から褒めちぎられる」展開なのに嬉しくない。

さっさとボスを倒して、仕事を終えようとしたそのとき。


「うっ!! か、体が動かない!!」


フリーズ。

魔法ではなくゲーム側のフリーズ。


「くそ、このボスめっちゃ凝って作ってたからそれでか……!!」


めっちゃ賢いAIをのせたり、

めっちゃ広いフィールドを読ませたり、

めっちゃ雑魚を大量に沸かせたりすると処理が追いつかなくなり止まる。


「で、デバッグワーープ!!」


――必殺コマンドを使った。






「 テストシナリオ:201_A 」


村一番の美人が話しかけた。


「ああ、ここからか……」


デバッグワープは強制的に進行不能から抜け出す奥義。

"デバッグワープ"と唱えると発動できる。

ただし、一番最近のセーブポイントまでなのでやり直しになる。


「いや、いまどき世界を救う冒険なんて古い!!

 農業とかたまにダンジョン行くくらいののんびりスローライフを過ごそう!!」


覇道に満ちた冒険はあきらめて、平和な生活をいそしむことに。

デバッグコマンドさえあれば農業であっても失敗はない。


「さて、と。それじゃちょっとクラフトすっかな。

 そしてそのまま一流の職人としてもてはやされたりとかして……ふふふ」


やっぱり捨てきれない出世欲を引きずりながら道具倉庫へ。

うっかり足を滑らせてしまった。


「危ない危ない。もう少しで転ぶところ……あれ? あれれ!?」


体が壁の中に埋まってしまって動けない。


ゲーム上に置かれる箱などののほとんどは容量節約のため中身は空っぽ。

間違って中に入らないように外側を「当たり判定」というバリアでコーティングしている。


しかし、それが何かの拍子に突き抜ける場合がある。


「うわぁぁぁん!! 抜けないぃぃ!!」


一度めり込んでしまえば、今度は当たり判定に挟まれて出れなくなる。

ムリに出ようとすれば……。


「うわぁぁぁぁ! 落ちるーーー!!!」


いつまでも落ち続け、ついには真っ暗な闇の中へと落下し続ける。


「で、デバッグワーープ!!!」


 ・

 ・

 ・


村1番の美人が話しかけた。


「 テストシナリオ:201_A 」


「ああ、その言葉を聞けて本当に安心する……。

 あのまま永久に落ちるんじゃないかと思った……」


地面の当たり判定が施されていない場所に入ると、

地面を突き抜けて自由落下を続ける。


空や地面のテクスチャがペタペタ貼られていない闇まで落ち続けていた。


「怖い怖い怖い……ダメだ、なにがきっかけでバグるかわかんない。

 こんなゲームの世界じゃおちおち無双なんてしてられないよ!!」


村の人のCPUが木の中にめり込んでいたり、

モンスターのテクスチャが壊れて目玉が飛び出していたり

もはやカオス極まりない。


「もう限界だ!! こんなバグだらけの世界で冒険なんてできるか!」


どうすればここから出ることができるのか。その方法を必死に探した。

モンスターが空中高く跳ね上がったりするのを見ていると考えもまとまらない。


こんなバグ天国で一体どうすれば戻れるのか。


「いや、待てよ? 逆にバカでかいバグを起こして、俺を連れ戻してもらおう!!」


閃いたのは自ら毒を飲み干すようなアイデアだった。



建物の境目やオブジェクトの隙間で

当たり判定が甘くなっている部分を見つけては壁抜けをし、

シナリオ進行上いけないはずの場所にいったり、入手できない伝説の装備を先取りした。


「これを売るのかい?」


「はい、売ります」


「〼〼〼〼 なら 1000ゴールドだ」


その足で伝説の武器を売る。

数が減らないのをいいことに大量に売りまくる。


さらに、戦闘中にポーズを押したり、意味なく道具袋を整理したり。

モンスターを召喚して処理を重くしたりと、フラグを壊し処理を遅らせ意図しない挙動を繰り返した。


そしてついにその時が訪れた。


「わっ!?」


一瞬で目の前が真っ暗になって何も見えなくなった。

最初こそ驚いたが、理解できると大いに喜んだ。


「やったー!! ついにS級バグを見つけ出した!!! これで修正される!!」


バグにもいくつかタイプがあり、

大して問題のない見た目だけのバグから、進行不能のバグ。

極めつけは「強制終了」のS級バグ。こればかりは何よりも最優先される。


「ふふふ、これだけのバグを起こせば、間違いなく修正される。

 そのときに俺がこの世界にいることも気付かれるはずだ」


バグを信号弾のように使う作戦。

あとは修正のおりに気付かれるだけだが……。


「あ、あれ?」


いつまで経っても何もない。

修正に時間がかかっているとしても、なんらか俺にコンタクトは合ってもいいような。


「ま、まさか……強烈なバグすぎて、開発諦めたんじゃ……」


思えばこれまでもこのゲームはバグ祭りだった。

納期にせかされてチェックをしないまま開発を進んだツケが回ってる。

考えたくないが、見切りをつけたという可能性も――。


「おおーーい!! 誰か! ここから出してくれーー!!」









目を覚ますと、自分の机に寝そべっていた。


「……はっ!? ここは!?」


画面にはデバッグしていたゲーム画面が表示されている。

元の世界に戻ったらしい。


「驚いたよ、ゲームが進行不能になって調べていると

 君がゲームの中に入っているからね」


「プログラマーさん!」


「とにかく、戻ってこれて良かった」


ああ、やっと戻ってこれた。

気になるのは視界の端に表示されているデバッグコマンド。


「あの、これ見えますか?」


「なにが? 見えないけど」


デバッグコマンドは自分にしか見えないらしい。

ゲーム世界からの帰還したことで、俺だけが手に入れたようだ。


試しに所持金をマックスにしてみると、ネット銀行の残高がカンストした。


「うおおお! やった! こんなお土産があるなんて!!」


バグゲーの世界で無双するより、現実世界での豪遊の方がずっといい。

学力だの身体能力だのステータスを最大に上げて、

俺に手に入れられないはずの彼女や最新型の道具一式を手に入れた。


「デバッグしててよかったーー!!」


「それで、ゲームの世界に入ってどうだった?

 なにか問題は見つかったかい?」


「ええ、それはもう……」


思い出しただけでも苦労が走馬灯のように流れた。


「バグだらけで、"デバッグワープ"を使いまくりでした」




デバッグワープが発動した。



 ・

 ・

 ・



「 テストシナリオ:201_A 」


村一番の美人が話しかけてきた。

ふたたび俺はバグの監獄に閉じ込められた。

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