浮かぶ気持ちの成分は

カゲトモ

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「およ、スカイさん」

 出勤途中に店に向かって歩いていると後ろから声を掛けられた。今日は買い出しに行ってから来たから大荷物なのに。と、振り返ってこっちが驚いた。

「わ、ユリアちゃん、それ重くないの」

 そこにいたのは俺よりも大荷物な女の子だった。軽くゴールデンレトリバー一匹が入りそうなくらい大きな紙袋を両手に持っている。両手で、ではなく、両手に、だ。

「これ、大きいだけでめっちゃ軽いんで大丈夫です」

 ユリアちゃんはそう言って両手の紙袋をダンベルよろしく持ち上げてみせる。

「ちょ、無理しないで」

 タダでさえほそっこいんだから。骨折れたらどうするの。

「いや、本当に、これ中身風船なんで」

「風船?」

「あの、プカプカ浮くほうのやつ。なんだっけ? ほりふむ? がす?」

「ヘリウムガスね。吸ったら声替わるやつ」

 昔よくやったわぁ。

「え、そうなんですか! 浮かぶ風船って声替わる空気入ってるんだ!」

 まぁざっくり言うとそうだけれども。うーん、ユリアちゃん相変わらずだな。

 ユリアちゃんは飲食店街にあるキャバクラの嬢の一人。ギャル系なのに超天然っての売りだ。やらせじゃなくて、本人がド真面目に話しているんだからこれが面白い訳で。

「それで、その風船どうするの? なんだか凄く大きいけど」

 なんたってゴールデンレトリバー二匹分だしね。紙袋パンパンだし。

「これですか? 送別会のやつです」

「送別会?」

「カリンが今日で辞めちゃうから」

「え、カリンちゃん辞めちゃうの?」

 カリンちゃんはユリアちゃんと同じキャバクラの嬢で現役の女子大生だったような。夜のバイトをしながら学校へ行っていた苦学生だったはず。

「どうして辞めちゃうの?」

「なんか試験? が受かったとかで、引っ越しするんだって言ってました」

「どこか遠くへ行くの?」

「そうみたいですよ」

「どこへ?」

 流れで訊いてみたものの、ユリアちゃんは視線を上にあげて小首を傾げる。あれ? 忘れちゃった?

「なんか、山、のほう?」

 めっちゃアバウトじゃん。

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