第22話 休憩中?
お台場と一口に言っても結構広い。
ビジネスビルやマンションなどしかない区画以外の、観光エリアだけでもかなりの面積があるが、涼をもとめてレインボーブリッチ近くの海辺の木陰でくつろいでいたミーネ、キッカ、アナの三人。彼女たちが向かうのは、商業施設の立ち並ぶメイン通りも越えた反対側の海。青梅の駅の先である。
で、歩いてみるとそれなりに遠い。
最初は酔っ払った勢いで、意気揚々と砂浜を歩き始めた彼女たちであったが、巨大ショピングモールに到達するあたりで力尽き休憩する。
なにしろ、
「暑い……」
真夏かと言う熱気にバテ気味なのであった。
「まだ6月はじめなのに……」
「でも、この時期、晴れると結構暑いよね……日差しは真夏よりも強いくらいだし」
「ふえー。大丈夫かな今日……」
「日陰とかあるんですかね?」
「どこに? パーティ会場に?」
「はい」
「んん。今の会場はほとんどないかな。一応テントとか出てその下なら、日陰少しできるけど、あまりあいてないかも……」
「逃げれないってことことですかぁ……」
ジリジリと自分たちを焼く太陽を細目で睨みながら、不安そうな顔になるキッカであった。
「まあ。そうね。スピーカーや出店の影に入るのも手だけど、それもあんまりスペースないから……争奪戦かもね。真昼は影も短いし……昔晴海でやってた時はもう少し日陰あったんだけど」
アナの今日の日陰事情を聞いて、悲壮な顔つきになるキッカ。今日来たことを後悔しているかのような顔。
「……アナさんは大丈夫なんですか?」
「なにが? 日陰ないこと? 日にずっと照らされていること?」
「はい」
首肯するミーネ。
「大丈夫かというか……大丈夫かどうかなんて忘れてしまうわよパーティが始まっちゃったら」
「そうでしょうか?」
「アナさんだけなんじゃない? そんなの」
「お酒飲んでるし……すると結構暑さ気にならなくなるなるし……」
「あ、それは少しわかるかも」
飲兵衛キッカは野外で飲んでるとこ想像したらなんとなく納得感あったようだ。
「それに気分があがっているから、踊ってると暑さもあまり気にならなくなるのよね……大学への通学途中とかに暑いと死にそうな気分になるけど……子供の時遠足に向かうときは少々日照り強いくらいじゃ全く気にならなかったでしょ」
「アナさん……それは遠足だったからか、子供だったからか、どっちで暑さが気にならなかったのかいまいち判然としないですよ」
北国出身で、この中で一番暑さに弱いと思われるミーネが、すでにグロッキー気味の表情で言う。いや一番シラフだから一番冷静に暑さを認識しているだけなのかもしれないが。
「ふふ……」
しかし、アナは不敵に笑い、
「もちろん子供の心に遠足より楽しい場所……それは……」
「あ、わかったよ!」
「そうねキッカさん、一緒に!」
「うん……」
「「祭だあああああああああああ!」」
とまあ……恥ずかしいくらいの大声が観光客で賑わう広場に響きわたる。
かなり歩いて酒がさめてたのかと思いきや、実はかえって体にまわって良い気分のキッカとアナの二人なのであった。ずいぶんと顔が赤いのは日に焼けてしまったのだと思って気にしていなかったミーネであった。失敗であった。
「………………」
思わずうつむくミーネ。
遠くからも、何事かといった顔でこちらを向いている人もいる。
周囲の注目を受けているーーというか悪目立ちの自分たちに気づいて、思わず顔をそむけて他人のふりをしたくなるミーネであったが、
「どしたの?」
「……?」
心底今の瞬間を楽しんでそうな純粋無垢な二人のひとみに見つめられると、なんか恥ずかしく思ってる自分が偽善者のような気がしてきて、
「よし!」
「「……?」」
立ち上がり、大きく深呼吸したミーネは、
「楽しむぞおおおおおおおおおおおおおおお!」
残りの二人に負けないほどの大声で、今日のパーティへの想いを叫ぶ。
これが本日ミーネの中で、何かプツンと切れた瞬間であった。あとから思えば……これがパーティモンスター水音ミーネの誕生の時であったとなるのだが、それはまた別の話。
ミーネの勢いに乗って立ち上がったキッカとアナ。三人で見つめ合い、みんなの目がキラキラしすぎているのがおかしくて、三人ともちょっと吹き出して、
「さあ、それじゃ行こうか」
「「はい!」」
笑い顔から一転、キリッとなった顔つきで、アナが言い、残りの二人も気合も十分、期待も満々。
「魂と体を開放しに!」
ついにBody&Soul Live in 2018に参戦の三人なのであった。
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