黎明エクスプローラ

@sannkousyo

黎明エクスプローラ

僕の夢はね宇宙を歩いて散歩することさ。それ以外何もないよ」と彼はいう。もっとも彼は女性なのだがそれは些細な問題というやつだろう。

 この世界、何千光年離れた星でさえもあっという間にワープできる――量子もつれ(
エンタングルメント)それも知る必要はないが――というのにたかが宇宙の散歩なんて変わっているだろう? 微細なところに希望を見出すのだ、それが彼の特徴(美意識?)のようだ。

「どこだっていいんだ。宇宙ステーションまででも、月面都市まででも。カシオペヤ座に腰掛けるなんてロマンチックじゃない?」

 彼女は椅子に縛られていたのではなかっただろうか?(この時代ではギリシヤ神話なんて文字通り存在してたかすら神話ものだ)そうだとしたら重ねて残念だ。


「散歩道は透明がいいな。下が見えなかったらせっかくの展望が台無しでしょう? 疲れたら一休みしながら星を見るの、分光計で.スペクトルを見るの。」

「余計に肩が凝ってしまう。天全体を見たほうが休まる」

 彼は頬を軽く膨らませて否定の意を表した。一様に見える宇宙よりも個々の星を見るほうを良しとしたようだ。

「気体を封入したアンプルを持っていくのもいいかもね.それでスキップをしながら光路を描くの。」

「光は君が目的地に着くより速いだろうね。残念だけど。」

「時間だけで物事の善し悪しを測るのは良くないわ。杓子定規っていうの。寿命が伸びてるのにそれでもヒトが速さしか求めないのは何故かしら。」


 三日後、彼は天に向って歩き始めた。初速は肝心とか言ってナウルのサイロに細工をしてそこからスタートしたらしい。井戸の底から離れるおまじないというものだ。


今、彼はどこに居るのだろう。彼の居場所を捉える光は一体何年前のものだろうか?

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