第16話 戦闘終了のお知らせ。
マールが俺に「≪ヒールキュアリカバリー≫」と回復の上級呪文を使ってくれたおかげで、痛みは速攻消えた。
よし、俺も回復呪文覚えよう!! と起き上って腕をぐるぐるまわす。
「マール助かった。ありがとう」
「いや、僕はミノタウロスの殺気に気を取られて援護できなかったからね。ごめんよ」
「流石のマールも予想外だったってことか」
「本当にごめん、予想外過ぎて頭が回らなかったよ……」
「私もミノタウロスに圧倒されて、何もできませんでした。すみません」
しょぼん。と地面に座り込みうな垂れるエグさんの肩に手を置き、「なら最後の仕上げ頼みます」という。
そう、これは俺にはできないことだ。
「最後の仕上げ、ですか?」
「うん。氷ごとミノタウロスを殴り倒してほしい。俺は物理攻撃が苦手だし、ノアールもマールもあの大きさは壊せないよ。これはエグさんにしかできないことだ」
「出来ますよね?」と問えば「は、はい!!」といい返事が返ってきた。いい返事です!
「ライルさんのために、がんばりますね!!」
と、俺の手を両手で握りしめるエグさん。
あぁ、当たってるよ胸に、巨大なお胸に当たってますが、てか女戦士ってなんでみんな際どい装備なの。もう少し鎧で固めようよ!!
ノアールさん助けて。マールでも可。と視線を二人にチラチラ送れば、ノアールが溜息を吐いて
「エグさん、そのくらいにしてやってください。マスターは女性が苦手なのです」
「え、……あぁっすみません!!」
「ごめんなさい!!」と顔を真っ赤にさせるエグさんに「い、いえ」と申し訳なくなって苦笑いすれば、「若いねぇ」とマールが言った。うるさいぞイケメン変態。
「でも、ライルさん、女性が苦手とは一体……」
「あーその話はあとで。マール、エグさんの拳に強化魔法かけてくれ」
「了解」
エグさんが「女性が苦手、なら、私が……」と何か言っているがよく聞こえなかったから、いいとして。マールがどんな今日か魔法をエグさんにかけるのか、少しワクワクしながらみていた。
「それじゃエグさん。強化魔法かけるから準備してね」
「は、はい! よろしくお願いします!!」
エグさんが氷漬けとなったミノタウロスの前に仁王立ちし、両腕を構えた。
「じゃあ行くよ。≪エンハンスドネロ≫」
マールが手をかざし魔法を唱えると、エグさんの拳が青い魔力の光に包まれた。なるほど、水属性の強化か。
エグさんの格闘技は、魔力を纏わせて強化をしたものだから、強化の仕方としては良い選択だな。流石変態レベル七十三。まぁ魔力を身体に纏わせなくても、普通の奴なら速攻で倒されるほどスピードとパワーを持っているがな。
だが、相手は巨大なミノタウロスの氷漬け。普通の魔物が相手の魔力の纏わせ方じゃ倒せない。じゃあどうするか?
さらなる強化をしてしまえばいい。という方法が一つ。
だが、これには使用者の魔力の量や経験値にもよる。エグさんはすでに全力をだしているため、この方法は無し。
もう一つの手は、後衛に援護してもらい、強化の魔法をかけてもらうという方法だ。
火属性は攻撃力が上がり、
水属性は魔法攻撃が上がる。
土属性は防御力が上がり、
風属性はスピード、回避力などが上がる。
マールがエグさんにかけたのは水属性の上級強化魔法。≪エンハンスド≫が強化や向上という意味を持つ言葉の魔法だな。現代魔法にも言の葉魔法は使用されている。が、区切って言うことはない。
長文を一言として唱える方が魔法として強いからなんだろうが、何故区切って言わないんだろうか。区切っても意味合いとしては強化になる筈なんだが、うーんわからん。
エグさんや、マールの後ろで首を傾げる俺に気づいたのはノアールだけ。
そんな首を傾げる俺をよそに、「す、すごい魔力密度……行けます!!」とエグさんが右腕を後ろに引き
「≪ビートアップバースト≫!!」
勢いよく、殴った。
瞬間、大きく砕け散る氷とミノタウロス。
ドサドサッと地面に落ちていく砕けた氷ミノタウロスに、呆気に取られる。
おぉ、ここまで威力が上がるのか。すげぇな。魔力密度とかエグさんが言ってたから、ただ上級魔法を発動させたわけじゃなさそうだ。あとでマールに聞こうっと。
それにエグさんが使った殴る魔法は火属性の上級魔法だ。流石Aランクしか入れないペディ戦士団所属だけのことはある。可愛い顔して強いとか格好いいぞ。
ちなみに凍っていたのでミノタウロスの出血は少ない。グロテスクが苦手な俺にはラッキーですね!
「エグさんやりましたね!」
「マールもすげぇな!」とミノタウロス撃破に喜んでいる俺に対し
「いや、ミノタウロスを凍らせる人の方がすごいよ」
「マールさんの強化魔法も、ライルさんの攻撃魔法も、二人ともすごいですね」
二人とも反応が異なっていて喜んでいるのか、いないのか。何にしても二人ともすごいと思うがな。と、ノアールを見れば「マスターの方が強いです」と膨らんでいた。いや、俺このパーティの中で一番弱いからね?
「ミノタウロスはこのままにしておけないから、ライルまだ魔力ある?」
「あるけど?」
「じゃあ、ゴブリンの時に使ってた水の魔法出してくれないかな」
「あーうーん、……俺の魔法、あんまり詮索しないでくれよ?」
「考えとくよ」と笑顔のイケメンに「絶対質問攻めにされるな」と溜息を吐けば「いつまでも隠しておけませんからね」とノアール様の許可も出た。魔王だってこと隠しておければいいから、まぁいいか。
「んじゃ二人とも離れて……いくぞ≪アクア・スフィア≫」
杖から青い色の魔法陣が飛び、魔法陣から水の球体が現れる。うん、使い慣れてきたせいか球体も綺麗な形を保っているな。一応成長はしてるようだ。魔王だけどな!!
「やっぱり、ライルの魔法呪文は一語形態じゃないね。呪文を区切っても発動する。しかも初級のアクアを制御して上級魔法のように使いこなすなんて……おばさんがみたら喜びそう」
「めんどいから他言無用で。ほら、この中にミノタウロス入れてくんだろ? だったら先にマジックバックを地面に置かないと持ちあがらねぇぞ」
「あ、私のマジックバック使ってください! マリンが入った時に中身整理したので入りやすいかと!!」
「いやここはマールのを使う。絶対マールのをつかう!!」
「エグさん。この氷のブロックもう少し小さくなりますか? 私が持ち上げられる重量を超えてしまっていまして。出来ればもう一回り小さく砕いてくだい」
「はい、いいですよ! ノアールさんは働きものですね!」
「マスターの為ですから」
「ライルさんのためですか……よし、私もライルさんのために頑張ります!!」
「ライバルですね?」
「はい、ライバルです!!」
俺がマールとどっちのマジックバックに入れるか。という言い合いしているうちに、ノアールとエグさんが意気投合していた。何があった。
二人(匹)ともニコニコしながら「さぁ仕事です!」と見えない火花を散らしている様な……。
「ノアールちゃん対エグさんかー、ライルも隅に置けないね」
「何がだよ、隙あり!!」
「あっ僕のマジックバックが!!」
「マールのマジックバックは犠牲となったのだ。中身全部出してから入れるぞ、って鞄の中から鳥の羽根やら、角やら毛が出て来たんだが……」
「僕の宝物がっ!!」
マジックバックをひっくり返して出て来たものが地面に落ちないようキャッチしたマールに「ご、ごめん」と謝り、俺のマジックバックに半泣きのマールの荷物を詰め、マールのマジックバックを水の球体の下に置いた。マールからは鼻をすする音がする。いや、ほんとすまん。
「まじでごめん」
「……いいよ、気持ち悪いでしょ。こういうの」
「いや別に。好きなもんを好き! って言えるマールは凄いと思うぞ。それに好きなものを集めるのは俺もやるしな」
「……ライルはいい奴だね」
「そか? あ、お詫びにクルミやるよ。ノアールに食べさせれば喜ぶぞ」
「え、いいの!? 本当にいいの!?」
「お、おう。多分クルミを食べさせる時、肩には乗ってくれると思う。多分」
「あぁっありがとう! 神よ!!」
「ありがとう!!」と俺に祈りを捧げ始めた。やめろ、お前が祈ってるのは魔王だ。神様に失礼だぞ!!
うれし泣きにチェンジしたらしいマールの祈りやめさせようと、格闘していれば
「マスター! 何遊んでいるんですか!!」
「そうです! 早く片付けて報酬をもらいに行きましょう!!」
と、女性陣から苦情が飛んできた。申し訳御座いません!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます