第15話 やるときはやります
弱い魔物は顔が真っ赤なエグさんに一発KOされて、俺とノアールとマールは特にやる事もなく。進んでいくこと数十分後、目的地に到着した。
おやつの時間だな。と太陽をみて時間と方角を確認して、右左上下確認。山の入り口、樹海手前というだけあって岩なんかがゴロゴロしているが、魔物はいないな。
「いませんね魔物」
「そうだね……逆にここまでいないと、何かこわいものがあるよね」
「うん、何かこわい」
「一応奥ものぞいてみる?」というマールに賛成し、≪ライト≫で明かりを出して、洞窟の中へ。
洞窟と言っても、出口は見えているのでそんなに深くはない。
洞窟の向こう側、出口から結界が切り替わるので、そちらには行かないようにする。
ちなみに俺は一ヶ月前此処を通っていない。山をぐるっと回って下山したのだ。
だって此処を通ったら人と会って面倒かなって思ったし、ノアールもそう言ってたし。かわりに遠回りだったけどな!
「ノアール」
キョロキョロと洞窟内を確認する二人に見つつ、ノアールを呼ぶとすぐに来てくれた。嘴の下を撫で、クルミを「食べるか?」と食べさせながら、小声で伝える。
「気配はする。だがあっちは隠れているから正直めんどい。放置したい」
「ですが町が襲われたら私たちの所為にされますよ」
「ならどうやって二人に気づかせる?」
「マールさんの索敵を使えばよいのでは?」
「あらノアールさん、最高の考えを思いついてくださるわ! 俺から言うか?」
「いえ、動物の勘と言うことにして私が誘導します」
「わかった。お願いする」
何事もなかったかのようにクルミをもう一つ食べたノアールは、一度地面に降りぴょんぴょんと跳ねながら辺りを見渡す。
なんか可愛いな、動物のさりげない仕草って可愛いよな。今日可愛いばっか言ってるな俺。
ぴょんぴょん跳ね、一度飛翔し洞窟内を旋回したあと、また地面に降り立ちぴょんぴょん跳ねては、首を傾げるノアールに気づいたのだろう。というかマールのことだ。ノアールが変な動きをすれば速攻反応するのはわかっていた。変態だもんな。
「ノアールちゃん、なにか見つけた?」
「いえ、みつけたわけではありませんが。何か嫌な感じがしまして」
「動物は人間よりも危機管理能力に優れていますから、もしかしたら……」
「そうだね、じゃあ索敵してみる?」
エグさんが無意識にいい仕事をしてくれたおかげで、誘導できた。ただ索敵で何が出てくるかなーわかんないなーとか思いつつも、マールが土と風属性の上級魔法である索敵≪サーチ≫を使った。二つの属性が合わさった魔法は言葉が短くても上級に匹敵するそうな。難しいんだね魔法って!
「ライル後ろ!!」
マールが叫んで、「ん?」と振り向けば
ドスンッと地面が揺れた。フーフーと荒い鼻息に、敵意。いや、殺気か。
頭から生える大きな角に、大きな耳、大きな鼻についた輪。首から下は人間の身体と同じだが、足元は偶蹄類のひづめだ。獣人ではないのか? と論争が起きたことがあったが、獣人の場合は頭と尻尾だけが偶蹄類へと変化する。また、
こいつの場合は頭と足元、まぁ下半身が偶蹄類のそれになっているから、獣人ではない。
ということはこれはなんだ? という問題ですが、はい正解は
「ミノタウロスだっ! ライル回避して!!」
「攻撃がくる!!」というマールの言葉と共に巨大な斧が振りかぶられた。
マジかよ。これ避けれるの!? と頭では思うが、身体は勝手に動いてくれて、俺の身長の数十倍もあるミノタウロスの股下を滑り避けることに成功した。
やっばい、知らない振りしとけばよかった!! とか思っていたら、尻尾で吹っ飛ばされた痛い。
だがお蔭でノアールと合流できた。さてどうしよう、逃げるか?
「マスター大丈夫ですか!」
「一応風で壁作ったけど、とっさにはまだ無理だな折れたぞ。……どうする、逃げるか?」
「マールさんやエグさんは逃げないかと」
「勝てると思うか?」
「ミノタウロスはSランクでも少々手こずると聞いています。ランクは足りないですが、レベルは高いお二人です。片方が死ぬか、大怪我をしてやっと倒すか、勝つのは難しいでしょう。あとは二人を説得し全員で逃げて町がミノタウロスに襲われるかという選択肢もありますが」
「全部バットエンドじゃん……」
「いかがします?」
「……死なない方向に軌道修正したいです」
「ではいい訳でも考えて置きましょう」
「私が隙を作りますので、あとはご自由に」ってノアールも放任主義だなぁ。と思いつつ、痛みに歯を食いしばり、杖を構えた。
さて、たまには本気(今の)を出そう。
「マール! エグさん! そいつから出来るだけ離れろ!!」
俺の声に反応し、一度戸惑った二人。そんな二人に対して、ノアールはミノタウロスの眼前に突っ込み、嘴が目に当たった。あいつだけでも倒せんじゃない? と思いながら、「っわかった!」「わかりました!!」と壁際に二人が避けたのを確認して、俺は魔法を発動させる。
「≪アース・グラビティ≫」
土色の魔法陣が杖から飛び、ミノタウロスの巨体が地面にめり込んだ。
うへへへっ重いだろ? 重いだろ! しかもその対象が重ければ重いほど、かかる力は増加する。どの言葉がいいか、悩みに悩んで作った魔法だぞ心して味わえ!!
と脳内で叫んでいたが。絶妙に対抗してるなこいつ。ミノタウロスにはうってつけの魔法だと思っていたのだけどな……何とか動こうと必死になっているな。
マジかよ流石Sランクも手こずる魔物ってやつか。
ならば!
「≪アイス・フリーズ≫」
杖の先から青い光の魔法陣が飛び出て、身動きが取れないミノタウロスに直撃した。
『氷よ凍れ』と念を入れてアイス(氷)にさらに『凍れ』と言い足してみたが、うまくいったようだ。
結果、ミノタウロスの動きは止まり、カチンコチンの巨大氷へと変わった。ついでに洞窟内まで寒くなってきている。思ってたより威力が上がっているな、それとも凍った結果氷になるという意味で相乗効果が出たのだろうか。
最初にかけた魔法はもういいか。と解除する。
うん、ミノタウロスの氷像ってところか。俺、芸術家にでもなれるかな。まぁ冗談だが。
「マスター、やりましたね」
飛んできたノアールに腕を差し出す。
「というか、やり過ぎましたね」
「俺もそれちょっと思った」
だって、マールとエグさんが、口を開けたままなんだもの……。
腕に乗ったノアールが溜息を吐きつつ肩まで登ってくる。痛い痛い、今の俺全身打撲なんだから丁重に扱ってくれ。
呆けている二人の前で「おーい」と手を振れば「はっ!」と二人同時に我に返った。そして俺にむかって
「ちょ、ライル何あれ!? 凍ってるの? あのミノタウロスが!?」
「ミノタウロスってSランクでも手こずる魔物ですよ!? なのに一瞬で動きを封じて凍らせるなんて、どんな魔法を使ったんですか!?」
ぎゃーぎゃー騒ぐ二人に、俺は右腕をスッとあげ、待て。というポーズをする。
「色々聞きたいことはあると思うけど、まずミノタウロスをこのまま凍らせておくか、壊して倒すかしなきゃいけない。あと、俺、あばらが何本か折れてるからヒールしてください。痛いです」
バッタンと痛みに負けて倒れれば、ノアールは飛んで倒れた俺の足の上に乗りなおし「かっこよくないですねぇ……」と小言を言う。
うるせぇ、痛いもんは痛いんだよ! 息をするのもしんどいの!!
倒れた俺にまた騒ぎ始めた二人は、ノアールの「マールさん、早く回復呪文を。マスターが死んでしまいます」という言葉で冷静になったらしい。
もっとはやく落ちついてくれると嬉しかったです、痛いです。胴体がじんじんびりびりします。
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