第13話 ボッチ拗らせてます。
ノアールと作戦を練ったあと(と、言っても『言の葉魔法』は使わない。ということだけだが)ギルドカードの確認をしよう。と言う話になった。
そういえば一ヶ月くらい見てなかったなと、ノアールに言えば「ちょくちょく見ているのかと思っていましたが、私がマスターを大きく見過ぎていましたね、失礼しました。今後一週間に一回、確認する機会を設けましょう」と厭味をいわれた辛い。
だってそう簡単に上がるもんじゃないだろ、と思ってみてなかったんだよ! と半泣きになりながら、紛失防止で首から下げているギルドカードをみる。
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・ライル
Lv:21(仮)
HP:80(仮)
MP:600(仮)
種族:ヒューマン(人間)
属性:光・闇
特技:魔王覚醒(封印)
呪法使い(初級)
言の葉使い(中級)
特徴:魔王
世界を巻き込んだ思春期を越えし者
ランク:C
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「お、Cランクになってる。ゴブリンが結構きたか?」
「多分そうでしょうね。ですがゴブリンは受付を通さなかったので、マジックバックはお預け状態と言うことでしょう。貰ってきますね」
そう言って俺のギルドカードを持って受付へ飛んでいったノアールを待つこと数分、革で出来たマジックバックを持って戻ってきた。ついでにマールも着いて来た。でたよ変態。
「マスターお待ちかねのマジックバックです。そしてマールさんです」
「おめでとうライル、Cランクだって? レベルは?」
「二十一らしいよ」
「……ちょっとまって、ライル一ヶ月前はレベル幾つだったの?」
「レベル一だけど?」
「あーうーんと、レベル一っていう完全に初心者だったという点に驚くべきなのか、一ヶ月で二十一まで一気に上げたことに驚くべきか……」
「まぁ、色々あってレベル一だったって思ってくれるとノアールをもふれるぞ」
「よし、もふる」
「私をだしにするのはやめてくださいマスター」
ぷんすかと怒っているのがわかりやすいくらいに膨らむノアールに「ごめんごめん」と嘴の下を撫でてやりながら「んでマールは仕事じゃなかったのか?」と変態マールに話しかける。
今日は門番の仕事で、朝見送った記憶があるぞ。サボりか?
「出勤した後にカロルさんに呼び出されて、ライルとパーティ組んで欲しいと頼まれたんだ」
「そいやそんなこと言ってたな」
「カロルさんはライルに期待してるんだと思うよ。それにノアールちゃんだけ前に出るは僕が許さない」
「後半が本音だろ。まぁ助かるからいいけど。マールってレベルいくつなんだ?」
「レベル七十三だよ」
「めっちゃつよい……」
ついでに年齢を聞いたら二十八歳と言われた。まって、マールと俺そんな一回り(俺の本来の年齢は棚の上に置いておく)も年齢違うの? 童顔かよこいつ……糸目イケメンがぁ……。
「マールさん……」
「今まで通りにしてくれると助かるなぁ、僕ちょっと親戚のおばさんが凄い人でさ。その所為でレベル上げさせられただけだから。お蔭で友達作り損ねちゃったんだけどね……」
「ハッ、もしかしてそのせいで、動物変態へと変態……」
なるほど。マールも苦労しているんだな。俺ほどではないが。いや、俺は基準にしてはいけない。魔王なんて経験何人もしてたら世界滅んでるわ。何回も滅んでるわ。世界が可哀想なことになってるわ……。
というかそんな強烈なおばさんか、みたいような、みたくないような……。
「あー実を言うと俺も色々あって友達がいなくてさ、よかったら俺と友達になってくれるか?」
「よろこんで。というか勝手に友達だと思ってたよ」
「ごめん、俺はただの変態だと思ってた」
「申し訳御座いません。私もです」
「ひどい! ノアールちゃんに罵られるのは最高かな!」
「やっぱり変態だ!!」
「変態じゃなくて、好きなものを好き! と言っているだけだよ!!」と力説し始めたマールはいいことを言っているような気がするが、変態は変態であって、マールの場合良い変態であって……変態変態いいすぎてわけがわからんなった! とノアールに助けを求めれば、ぷい。とそっぽを向かれた。ノアールさん?
「ノアールどうした? 腹減ったか?」
「いいえ、何でもありません。お腹も空いてはいません」
「ならどうした? あ、変態が近くにいるのが嫌か? 宿屋に一旦戻るか?」
「いいえ、マールさんは関係ありません」
ツン。と何でもないと目を閉じて俺と目を合わさないノアールに、どうしようかと俺は困った顔になる。
俺なんかしたかな。正直魔王の時は配下に命令していただけであまり話はしてない。その前はいわずもがなだ。正直人や、動物の機微なんて全く分からないというか、いじめで使われ、魔王として使う側だったから知る機会が無かった。
……どうしよう。今ノアールがいなくなると困るが、無理矢理従わせるのには俺の趣味じゃない。
「……ノアール、俺が嫌になったか?」
「っ違います!!」
「そうではありません!!」とカァカァ鳴くが、それ以外考えつかないんだよな、俺の頭じゃ。
バサバサと翼を羽ばたかせるノアールに、だんだんと申し訳なくなってきた。
契約破棄した方がノアールの為なんじゃないだろうか、Cランクになんてついているような使い魔じゃないしな。いくら魔王でも。と、昔みたいに背中を丸め、欝々と考え始めた時だった。
「うーん、ライル。こういう時こそ友達の出番じゃない?」
「僕に相談とかしてみない?」と言われ、俺は首を傾げた。何故相談する必要性が? これは俺とノアールの問題であり、マールは関係ない。と首を傾げれば、完全に一人ぼっちを拗らせてるねぇと苦笑された。
「じゃあ友達として僕は言うよ。君たちは会話をしている様で、会話をしていない。心が通じ合ってるからそれでよかったのかもしれなけれど、今回はちょっとだけ『言葉』が足りないかな」
「言葉……俺やっぱりノアールになんか言ったか? それなら謝るし、これ以上言葉で傷つけることが増えるようであるなら使い魔の契約は破棄して……」
「嫌ですっ!!」
「破棄は嫌です!! 見捨てないでください!! お願いします、貴方の側に居させてくださいっ使い魔でいいですっそれ以上を求めた私が馬鹿でしたっ阿呆でしたっ申し訳御座いませんっ!! お願いです、捨てないでっ」と黒いが、時折赤く光る瞳から涙が流れた。
ますますわからない。
ノアールは何で泣いているんだ。
俺が捨てるはずがないことはわかっているくせに。
でも、泣いている。こういう時はどうしたらいいんだ?
「ほら、わからないなら相談してみてよ。友達の僕に」
「……相談してわかるのか?」
「うーん、分からない時は一緒に答えを探すよ。でも今回は僕が正解を知ってるから」
「多分僕が正解を知っているよ」というマールに、聞いてもいいのか戸惑ってしまう。
友達ってそういうもんなのか? 何でも相談していいものなのか? あとで何かしろとか言われるんじゃないか? 大体人間ってそうだろ? 俺をいじめてきたやつはみんなそうだった。部下の魔物も対価である魔力を欲して動いていた。
というかマールはなんで、ノアールが泣いている理由を知っているんだ?
「友達って対価なしか?」
「当たり前だよ。あ、でも仲直りしたら三人でご飯でも食べに行こうよ。おすすめの食堂があるんだ」
「ね? 言うとすっきりするよ」そういうマールに、あとで何かを求めてきたら、答えが間違っていたらぶっ殺す。
あのいじめっ子たちにはできなかった仕返しを。と殺意をふつふつ沸かせながら、期待もせずに問うた。
「ノアールは何故、泣いているんだ? 俺がノアールを捨てることはないが、ノアールが俺を嫌うことはあるだろう。俺はさっきの会話の中でノアールの癇に障ることを言ったようだが、俺にはそれがわからなかった。だからそれを教えてくれ、マール。お前にはそれがわかったんだろう?」
「うん、教えるよ。ノアールちゃんはね、『俺には今まで友達がいなかった』という言葉が嫌だったんだと思うんだ」
「何故?」
「何故って、ノアールちゃんはずっとライル、マスターの事を友達だと思ってたからだと思うけど。流石にそこは本人に聞いた方がいいと思うよ?」
ふっ。と湧き上がっていた殺意が消えた。
「なんだよ。ノアール、お前馬鹿だろ」
「はい、馬鹿でした。使い魔如きが驕ってしまい申し訳御座いません」
「そうだな。俺も傲慢だったな。俺とノアールは『家族』だと思っていたが、お前は俺と友達感覚だったのか、その方がいいのか?」
ノアールが勢いよく下げていた頭を上げる。翼を大きく開いてバッサバッサと羽ばたきながら
「かぞく、家族ですか!? いいんですか私如きがマスターの家族で? いいんですか友達以上で!!」
「私如きがとかやめろ、てかお前より俺の方が弱いのに何言ってんの。俺とお前は家族だよ。本当は使い魔という扱いがいやなんだが、あの時はお前を助けるために契約しただけだし。嫌なら使い魔契約も解除するし、友達になるけど……」
「家族でお願いします!! 解除は駄目です色々面倒になるので! 使い魔で家族としてお願いします!!」
「お、おう、わかった」
バッサバッサと動きが凄いノアールを宥め、「家族、家族ですか……ふふふっ」とモソモソ言うノアール様を撫でる。
うん、ノアールは家族だ。姉みたいなもんだなと勝手に思っていたのだが、使い魔として契約したという状況が邪魔をしていたのと、言葉が俺には足りなかったらしい。言の葉使いが聞いて呆れるな。
てかノアール、意外と繊細だなお前。いや、人の事、鳥の事は言えないか。しょうもないこと、でもないが、一瞬力が沸き上がってしまった。バレていないといいが。
「解決したね。よかったよ」
「悪いなマール、助かった」
「いえいえ。ライルが友達発言した時のノアールちゃんの顔と魔力が凄かったからね。周りみてみなよ」
マールに見ろ。と言われて周りをみれば、レベル九十の魔力に圧されたのか気を失ったり、恐怖でガタガタと身体を震わせている人たちで溢れかえっていた。俺の魔力はバレて無さそうだな、ラッキー! そしてごめんなさいだわ。
「うーん、ノアールは冷静な方だと思っていたんだが。惨劇が起こったな」
「私の感情は滅多なことが無い限り動きませんよ」
「その滅多なことがマスターなんだね。はぁ、ノアールちゃんいいね、ツンデレ……」
「ところで使い魔契約はそのままで本当にいいのか? 従属だから俺の命令は強制になるんだぞ? 命令なんてしないけどさ」
「はい、そのままにしていてください。繋がりがあった方が私としては嬉しいですし、高レベルの使い魔がいるという箔がマスターにつくなら、なんなりとご利用を」
「いいならいいけどー。嫌なことがあったら今度からはちゃんと言えよ? 俺、他人には相当鈍いからな。いじめっ子の機微には敏感だが」
「そのいじめ野郎をぶっ殺しましょう」
「俺に似てくるんじゃありませんっ」
「言葉遣いが荒いノアールちゃんも素敵だよ!」
ハァハァ。息を荒げノアールをみるマールに「友達って結局なんだ?」と謎が再浮上した頃、ペディ戦士団から派遣されたという、三つ編みおさげで眼鏡をかけた女性が現れた。
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