第12話 残党狩り




「お前らに昨日の残党狩りを依頼したい」

「いや、俺Dランクなんで。その依頼は無理ですよ」





 次の日の朝、俺とノアールが朝飯を食べていると、マールが「カロルさんが呼んでたよー。ギルドにきてだって」と伝言を伝えて「ノアールちゃんは今日も可愛いねぇ……はぁいってきます」と門番の仕事に向かって行った。 

 最後の本音を言わなければただのイケメンだというのに、残念にもほどがある。


 そういうことでノアールと共にギルドに向かえば、ギルドマスターの部屋に通されて、カロルさん直々の依頼だ。

 ギルマスなら冒険者の資質を見極めてられると思ったが、俺の見込み違いか?


「お前の倒したゴブリンをみた結果だ。水の中で圧縮されたゴブリン、傷は土属性による魔法攻撃によるものだった。ライルの魔法属性は珍しいからと報告に上がっていたぞ、確か光と闇だったな? なのに何故土属性の魔法を簡単に操れる? お前、何者だ?」


 ギロリ、睨みつけられ背筋が凍った。

 


 敵意の籠った視線、大きな威圧感、圧迫されて這いつくばりそうになるほどだ、これがギルドマスター。



 魔王になる前の俺ならば「ごごごめんなさいっ!」と速攻逃げ出していたか、その場でちびっていただろう。

 だが、残念な経験を積んでしまった現在の俺には、敵意や殺意はあまり効かないようだ。うん、いらん事知った。とりあえず何て言って逃げようかな。

 

「あー評価してもらえるのは嬉しいんですが、俺が使ったのは初級魔法ですよ。それにノアールは上級魔法が使えるほどの使い魔ですから、コンビネーションでなんとか倒しました。それにゴブリンに圧縮をかけたのはマールです。残念ながら俺は弱いですよ」

「コンビネーションねぇ……、ノアールはレベルいくつだ?」

「私はレベル九十です。思い出したくもない前の主のせいで、とてつもない経験を積まされました。なのでかなり強いですよ、私は」

「レベル九十の使い魔か! そりゃライルが援護しながら戦えばゴブリンも余裕か!」


 「俺のレベルと大差ないぞ!」と豪快に笑うカロルさんに、心の中で大きく息を吐いた。

 乗り切った。俺が弱いのには間違いはないが、如何せん、魔王だからな、一応。ノアールを見れば「私にお任せを」と鳥胸を張っていた。頼りになります姐さん!


「ならば、ライルと使い魔ノアールに依頼したい。マールとペディ戦士団と共に残党狩りをしてきてくれ。報酬は百万E、悪くない話だと思うが?」

「随分高い報酬ですね……」

「ははっそれだけお前らには期待しているし、早急にお願いしたいっていうことだ。町の周りに上級、中級の魔物がいると初心者の冒険者にゃきつい。それに門番の数も増やさにゃならん。ライルは謙遜しているが、お前は強いぞ。レベル九十の使い魔がいるんだからな。自信を持て!」


 「で、依頼は受けるよな?」とムキムキの金髪筋肉な中年のおっさんが上目遣いとか、多分俺じゃない所に需要がありますよ。とか思いつつ、「わかりましたよ、受けます」と色々諦めた。



 ギルマスの部屋から出た俺は、超高速歩き走りでギルド内のフリースペースという名の休憩場所に向かい、壁際の席に座って大きく息を吐き出した。


「あ゛ー生きた心地しなかった、こわかった、まじこわかった」

「はいはい、マスターがんばりましたね。えらいえらい」

「ノアール、棒読みで褒めるのやめて」

「なんやかんや言いながらも、あの敵意に耐えたマスターはお強いですよ。ギルドマスターもそう思っている筈です」

「え、なんで」

「Dランク如きが耐えれる敵意ではなかった。ということです。かといって逃げていたら私がマスターを見切りますが」

「やだーどっちもバットエンドー」

「なんですそれは?」

「昔流行った小説に書いてた。何にしても依頼は受けちゃったし、ノアール頑張ってね」

「なんで私なんですか」

「だってお前が強いから俺も強い認定。おっけー?」


 「おっけーじゃないです」とブツブツ言うノアールだが、あまり俺の魔法は他人に見せられないと分かっているのだろう。すぐに切り替えて「マスターは初級魔法のみで。言の葉は使わないでください。私たちの戦略を練りましょう。それから変態と脳筋女と合流です」となんとまぁ口の悪いノアールに「おっけーでーす」と返事を返した。






     *     *     *





 

 ライルが廊下を早歩きしている頃、ギルドマスターの部屋には数名の冒険者たちが報告をするべく訪れていた。人数は二人。Sランクの称号を持つ、実力ある冒険者である。


 冒険者たちはある程度の強さになるとパーティを組むことがある。


 パーティの内容は大体が前衛、後衛に分かれており、前衛が戦士や格闘家などの攻撃に特化したものが務め、後衛は魔法使いや僧侶が務めるというのが定型である。


 ペディ戦士団はパーティの大型版と言っていいだろう。

 上級レベルの魔物になるとパーティを組んで倒すことが一般的である。というか、パーティを組まないと倒せない魔物がいるということでもあるのだ。


「ギルドマスター、用事とはなんだ」

「マウンテンペアーの町で、名のあるパーティであり、俺の友人でもあるロッソが率いる『ロッソパーティ』に依頼したい。王都へ、火急にこの手紙を教会に届け、護衛をしてきてくれ」

「それはいいが、護衛とは? 教会は通さなくていいのか?」

「教会は通しての結果だ。現在結界を作る魔法石が破損しており、なんとか教会の長が現状を維持している状況だ。だが、長くは持たない。そのため魔法石を修復できる『巫女』を連れてきてほしい。この話はお前たちだけにしてくれよ。町全体には昨日結界は修復したと伝えてあるしな。混乱は避けたい」

「……大役だな」

「あぁ、大役だ。久々に腕が鳴るだろう、友よ」

「まぁな」


 バキバキと音を鳴らしながら首の筋肉を緩めるロッソに、その妻であり後衛を担当するシーニー。ギルドマスターであるカロルが現役の時代に共に戦った二人だ。仕事はきっちりとしてくれるに違いない。それに情報も漏れることは無いだろうという判断で、カロルはロッソとシーニーにこの依頼をした。


「巫女のレベルはどの程度必要ですの?」

「詳しくは手紙に書いてあるが、お前らなら言ってもいいか。レベル九十越えだぞ。巫女長を連れてこいよ、長な」


 「長な」とカロルが言った瞬間、シーニーの得意とする水属性の魔法、氷結が発動した。

 「ぎゃっ! 何すんだシーニー!」と軽く避けたカロルに対し、「何言ってやがるのでしょうかこの脳筋ギルドマスターは、巫女の長なんて連れて来れる筈ないじゃないですか!!」怒鳴りながらカロルに向かって魔法を放つが、当たらないため部屋中が氷漬けである。

 ちなみに夫のロッソは既に氷漬けになっていた。

 

「しょうがねぇだろ! 長くらいじゃ直せねぇって教会の爺が言ってたんだぞ! 俺だってびっくりしたが、実際に見てこりゃやべぇと思ったんだ! だからお前らに頼んでんだよ!!」

「何でそんな状況に陥るまで気づかなかったんですか!?」

「あれは大体ギルマスが変わるごとくらいでしか確認しない。それだけの強度と魔力があるもんだ。簡単に壊れたりするもんじゃねぇんだよ!」

「……そういえばそんな噂をきいたことがありますわ。結界の部屋に入ること自体難しい筈ですし……わかりました。この依頼受けましょう。何故破損したかの調査は始めてくださいね」

「とっくに始めてるよ」

「あら、カロルがギルドマスターとしてちゃんと仕事していらっしゃるなんて。明日は雪かしら?」

「明日は雪でいいから早くロッソと王都へ向かってくれ。事は一刻を争う頼んだ。よろしく頼む」


 カロルが頭を下げると「ギルドマスターが簡単に頭下げないでくださいな」とシーニーの小言がとんだ。


「元カロル戦士団所属、現ロッソパーティ、Sランクのシーニーとロッソが依頼を受けるのです。大船に乗ったつもりで待っていてくださいな」


 「では、行ってまいります」とシーニーはぐったりとしつつも、右手をあげ親指を立てるロッソを引きずって、二人はギルドマスターの部屋から出て行った。


 さて、波は一旦去って行った。とカロルは溜息を吐く。

 結界の問題はこれで待つばかりとなった。あとは残党狩りと称した魔物狩りがうまくいくことを祈るしかない。最終的には俺も出ることになる可能性もあるだろう。とカロルはパキポキ指を鳴らす。



 だが、成長途中の良い冒険者達がいる。

 ペディ戦士団や、幼い頃から知っているマールもだが、あいつ、ライルは何か面白いものを感じる。使い魔がレベル九十を越えていることもだが、ライルにはなにかあるだろう。何かはわからないが。



 その「なにか」の部分である、ライルが『カロルの敵意に反応を示さず「俺は弱い」と言っているのが不思議だ』という点について、カロル本人は理解をしていない。だからシーニーに脳筋と言われているのだが。カロル自身はそれすらも気づいていないだろう。


 すべて勘で行動している脳筋ギルドマスターである。

 

「さてと、とりあえずこの氷溶かさねぇとなぁ……」 



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