第9話 探索します




 ペディさんを威嚇するノアールを連れて門の外に出る。すると後ろから馬に乗って大所帯でやってきたペディさんたちに「カァカァ!」と再び威嚇し始めるノアール。


「どうどう、落ち着けよノアール。流石にあれに喧嘩吹っ掛けても普通に負けるから、色んな意味で負けるから」

「マスターならいけます!」

「むりだっつーの!!」


 横切っていくAランク軍団を見送り、軍団の後ろでしんがりをつとめていたペディさんには「お手並み拝見だよ、カラス!」と言われ「そっちこそ首を洗って待ってなさい!!」と啖呵を切ったノアールよ、やめてください。マスターは胃が痛いです……。


 そんなこんなで本気をだしたノアールが巨大化し、空中から結界の綻びを探すことにした。


「マスターもマスターです! 馬鹿にされていることに気づかないのですか!?」

「いや別に、本当のことだし。あぁいうのは相手してるとこっちが疲れるからほっときゃいいんだよ」

「むう、意外と大人な反応ですね」

「馬鹿にされるのにゃ慣れっこだからなぁ……あ、ノアール大門より東側に飛んでください」

「慣れてはいけないものに慣れてますね。東側ですね。かしこまりました」


 東側へと旋回するが、まぁ真っ暗だよね。しかもノアールはカラスだ、鳥目だよね、見えないよね。ってことで。


「≪ライト・スリー≫」


 呪文を唱えると魔法陣から光が一個現れて、そこから三つに分裂。お、分裂か。分裂だと小さいな。ということは呪文の順番を変えてみるか。


「んじゃ≪スリー・ライト≫」


 一つの魔法陣から三つの光が出て来た。おう、むっずいな。言葉の順番についても、もう少し練らないと……あと忘れっぽいから何かに書いて置かねぇとなぁ。


「マスター、また一人で考え事ですか。私に言うことは?」

「言葉の魔法の順番についてもっと研究したいです」

「良い考えです。ところで何故東側を重点的に?」

「あぁ、太陽って東から昇って西に沈むだろ? ってことは月も東から昇るわけだ」

「闇は東からくるということですか?」

「そういうこと。魔王の時に気づいたんだけどな。魔物は闇に紛れて来る。あと俺が何故か東側に居やすかったのもある。だから結界が壊れてるなら東側かなーとか思いまして。確証は無いけどな。とりあえず今の時間はちょうど日没してすぐだ、魔物も活発化しはじめてる。気を引き締めろよ。特にノアールは鳥目だからな、見えなかったらすぐ言ってくれよ?」

「わかりました。しかし光と闇は本当に似ているようですね」

「光が無かったら影は出来ないしな。光だけ存在するってのも、まぁありだとは思うが」

「眩しいだけですね。寝れませんよ」

「……寝れないのは嫌だな」


 「やはりどっちもあった方がいいですね」というノアールに、俺は「そだな」と答える。

 この鳥、俺が気にしていることをサラリと返してくる。俺のことをずっと前から知っている風なのだが、会ってそんな日数は経っていない。あとで果物でも貢いでおこう。あと穀物か? でもゴブリンが食べたいっていっていたから肉の方が……。


「マスター何か見えましたか?」

「あ。……ごめん、みてなかった」

「意味が無いじゃないですか! 私には見えずらいのでマスターがちゃんとしてくださらないと! あのエルフの女戦士に負けますよ!?」

「いや、勝負してないから……っと、ちょっとまった。ノアール! 明かりを飛ばすからその場所に急降下!!」

「かしこまりました。捕まっていて下さい!!」


 明かりの一つを杖で一気に打ち飛ばす。ノアールの急降下に備えて羽を掴む。うっ、何この落ちる感覚。胃の中身どころか内臓系まで全部でそう、おえっ……。

 だが吐いている場合じゃないと、自分を奮い立たせ(口まで上がってきた、苦すっぱい)、肉眼で人と魔物を捕捉。人間が二人、ビーストが三体、隊列は縦。いける!


「≪アクア・ショック≫」


 水の衝撃波が魔法陣からはなたれる。

 うまいこと当たったようで、ビースト三体は倒れたようだ。よしよし、三体ともバラバラに点在してたら使えなかったからな。


「流石ですマスター。ビーストはBランク向けの魔物です」

「ありがとー。それよりも二人いたんだけど無事か?」


 一応『ライト』でビーストの意識をこっちに向けてから『アクア・ショック』を使ったんだけど、巻き込まれた? と心配になってキョロキョロ辺りを見渡していたら、ドンっ! と膝裏あたりに攻撃が。まって、膝裏を攻撃されると耐えきれる自信がっ。

 膝から崩れ落ちそうになるのをなんとか耐えて、頬を引き攣らせながらソレをみれば。大きな目を輝かせ、満面の笑みを浮かべた女の子が。


「お兄ちゃんすごい!! こわいの倒しちゃった!!」

「お、おう。ありがとう」

「あぁぁすみませんっ! すみませんっ!!」


 謝りながら出てきたのは、おさげ三つ編みに丸眼鏡をかけた戦士の格好をした女の人。

 この子のお姉さんか? なんでまたこんな場所に。


「危ない所を助けていただきありがとうございました。私ペディ戦士団に所属しておりますエグといいます。この子は妹のマリンです」

「マリンです! あ! カラスさん、でかい!!」


 「でかい!!」とノアールの周りではしゃぐマリンに対し「あああすみませんっ!」と頭を下げまくるエグさん。妹に振り回されている姉の図だな。大変そうで……。


「俺はライルと言います。このカラスはノアール。しかしエグさんはなんでまたこんな時間に門の外へ?」

「……お恥ずかしながら、私が任務に出る際に、マリンがぐずりまして。それでもギルドに預けてきたつもりだったのですが、マジックバックの中に……」

「マジックバックって、人はいれるんだ……」

「無理矢理入れるのは違法ですよ!? ただいつの間にかマリンが入っていまして。しかも気づいたのが門の外にでてからだったのです。なので私は任務から外れマリンと一緒に帰還しようとしていたところ……まさかビーストがいるなんて。一人でならまだ対処が出来たのですが、マリンがいたので」

「守りながら戦うのって難しいですからね、ご無事でなによりです」


 「本当にありがとうございました!」とペコペコ頭を下げるエグに「いえいえ」と言い、はしゃぐマリンを捕まえると、ノアールが「早くそいつをどうにかしてくれ」という目で見られた。

 ノアールさん、子どもは苦手なのね……。


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