第8話 嫌な予感。
ぼーっと体育座りで水の塊、というよりゴブリンの塊を眺めていれば、「カァ」と声がして「ライルー! ってうわ、なにこれゴブリン!?」と騒ぐ声。
俺の肩にノアールが乗り「ではマールさん、どうにかしてください」と適当にマールに投げるノアール強い。
「これ、マジックバックに入るかな……というか入れたくない」
「ですよねー」
「よし、縮小させよう。せめて手のひらサイズまで」
「できるのか?」
「やってみないことには。≪タイトナロープレス≫」
お。風属性の上級魔法。まともに見たのは久々だなーてか『プレス』だけでも使えそう。
なんて考えつつ、目の前のゴブリン玉は圧縮されていき、簡単に持てそうな手のひらサイズまでに小さくなった。が、これは見た目の話であり、重さは変わっていない。ということで重いのを俺とマール二人がかりでなんとか持ち上げ、無理矢理マジックバックの中にいれた。よし。これで簡単に運べるぞ! マールが!
「ライル、かなり重かったけど、何匹分のゴブリンだったの?」
「あー、確か三十五匹。その中の一匹はボスゴブリン」
「……ちょっとギルドマスターにまで話を通さないといけない問題だね」
「ですよねー」
「それにしてもよくゴブリンを倒せたね?」と不思議がるマールに対し「ノアール様は最強ですからー」とノアールに全部投げた。
一瞬「むっ」とした顔をしたノアールだったが、変態マールは「流石ノアールちゃん、最強で可愛いとかもう……!」と悶えているのをみて諦めたようだ。
うーむ、最近ノアールの表情がわかりやすいというか、人間臭くなってきたな、気のせいか?
マールと一緒に門の中に戻った俺とノアールは、そのままギルドに直行。
元Bランクの冒険者マールが、受付にいるエルフのお姉さんに話しかけると、エルフのお姉さんは真面目な顔で水晶を使いどこかに話し始める。
「へー、水晶を媒体にして遠くにいる人と話す魔法か。昔は無かったな」
「一応魔法の進歩はしているんですね。しかしあの水晶一つで家が買えますので、一般には普及してません」
「超高級魔法じゃないですかーやだー俺には無理ー」
「話す人もいないのでしょう」
「辛くなるからやめて」
「どうせ友達なんていませんよー! 昔もいませんでしたよー!」と半泣きでノアールと喧嘩をおっぱじめていれば、話がついたのだろう。マールに「二人ともこっち!」と受付の奥に誘導された。
廊下を暫く歩くと、一際豪勢な扉が現れた。
なんでこう、大物がいるよ! っていう扉をこんなわかりやすくしたがるかな? いや気持ちはわかるよ?
俺もさ、魔王城建築したときは「この部屋向こうに魔王が! っていう演出したいからなんかすっげぇ大きくて神々しくも恐怖感のある大扉にして!」とか部下の魔物に言ったけど。防犯を考えるなら普通の扉にしてどれがボス部屋か、全部開けさせる方式のほうがHPもMPも削れるよね。
「あ、ライル。その扉じゃなくこっちこっち。そっちは物置だよ」
「まさかの物置!!」
マールが指さした扉はいたって普通の扉だった。
あぁ、恥ずかしい。ノアールなんて俺の考えを読んだのか「マスターらしいお考えですね」ってほんと恥ずかしいからやめてください、過去の惨劇なんです……。
顔を手で覆いながら部屋の中に入ると、門番じゃなくて領主のカロルさんと戦士風な格好のエルフのお姉さんが。
エルフのお姉さんがギルドのマスターか? と思えばマールが横から「カロルさんはギルドマスターも兼任しているんだ」と言ってきた。
カロルさん最強なの? 疲れないの? 忙しくないの!?
「ようライル久しぶりだな! 小奇麗になったじゃねぇか!」
「おかげさまで……そのさいは大変お世話になりまして」
「あーあーそういうのはいいから! こっちはペディ。このマウンテンペアーの町に拠点をおいているAランク冒険者だ」
「ペディだ。ふぅん、お前よりも使い魔の方が強いな。どうやって使役している? カラスは雑食だからな、負ければお前が食われる筈だが?」
「の、ノアールちゃん? ぼくを食べても美味しくないよ!」
「マスターには食欲よりも興味が強いので安心してください。それよりもAランクのペディ様といえば、Aランクの集団を作り、この町の外の警邏をしているとお聞きしました。が、本当にお仕事をなさっているのでしょうか?」
「あぁん? 私たちが仕事をさぼっているっていいたいのかい?」
「私達は初心者エリアにいたにも関わらず、ゴブリンが現れました。ゴブリンはBランク相当の冒険者ならば特に問題はありませんが。問題は初心者エリアにでたということです。お仕事なさってないからこんな事態になったのでは?」
ノアールとペディさんの睨み合う。あーバチバチ見えない筈の火花が散っている様な気がするー。
あーもう何がノアールを喧嘩腰にさせたのかわからないが、ペディさんが仕事をさぼるような人には見えないのでマールに助けを求めようと、したけど「はぁ、マスターが馬鹿にされて怒っているんだね……いい子だねノアールちゃん……」とうっとりしている。
俺はそれをみなかったことにし、カロルさんに話しかけた。
「カロルさん、これゴブリンを統率していたやつの装飾品です。一応ゴブリンたちは回収してマールに預けてあるのであとで確認してください」
「おう、わかった。それにしてもライル、よく無事だったな。ゴブリンときいてひやりとしたぜ。で? 本当に初心者エリアにでたんだな?」
「はい。俺はまだDランクなので無理はしないようノアールに見張ってもらいつつだったんですが、びっくりしましたよ。しかも統率、ボスつきだったので動きが無秩序じゃありませんし」
「ギルマス! 私たちは仕事をきちんとしているぞ!」
「うそおっしゃい!!」
「カァカァ!」とペディさんをつつき始めたノアールを宥めて、無理矢理捕まえる。おーおー暴れるな! 翼が顔に当たって痛い! お前が怒っていると話が進まん落ち着け!!
「ペディが仕事をしていないとは俺も思っちゃいねぇよ。だがゴブリン発生は気になる。最近新人冒険者たちが大怪我をして帰ってくるという報告が多くてな。もしかすると初心者エリアの魔物が強くなっているのかも知れねぇぞ」
「やっぱりそうですか……あ、この町の結界は何枚張られているんですか?」
「お、ライルよく知ってるな!」とカロルさんは俺を褒めるが、ペディさんとマールは首を傾げたままだ。あれ、一般常識だと思ってたんだけど違うのか? ちなみにノアールは「ふふん、流石私のマスターです」と言って腕の中で大人しくなった。
「えっと、町には多くの場合三枚結界が張られています。一枚目が町の中心から数十キロ先、二枚目が中心から数キロ、そして三枚目が町と外の境目に。この町の場合、塀に三枚目か四枚目の結界魔法がかかってますよね?」
「おう、一応樹海の麓。封印された魔王がいるらしい山のある町だからな。念には念をで数百年前に塀ができたってわけだ。ちなみにこの町の結界も三枚だ。塀から五キロ付近までは初心者が無理をしないように、強い魔物は入って来れないようになってるはずなんだが……」
「……結界のどこかが壊れている、が。一番最初に調べるところですかね」
最悪のパターンは魔物が結界を壊しているだが、町に近づくにつれて結界は強くなっていく仕様だ。それを壊せる魔物というのは……Aランクの冒険者でも手こずるだろうなー。てか魔物が強くなってるならば、真面目に魔王復活の影響を調べにゃならんぞ。
「うむ、ライルの言う通りだ。マール! 結界の中心に綻びが無いか確認しろ。ペディは仲間たちと一番遠くの結界から順に壊された所がないか確認してきてくれ。ライルは初心者だが、ノアールがいるから戦力にするぞ。無理のない程度でいい、初心者エリアを区切っている結界を確認してきてくれ。急を要するかもしれん、申し訳ないが夜明けまでにはギルドに帰還してほしい。頼めるか?」
と、ギルドマスターで、領主で、門番で不審者な俺を心よーく迎え入れてくれたカロルさんが頭を下げてまで頼んできたことを、無下にするほど魔王は腐っちゃいませんよ。と軽く「わかりました」と了承した。
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