魔王でした!

藤白春

第1話 我は魔王なり!


 我は魔王。

 闇より生まれし最強の存在。

 闇ははじまり、闇はおわりである。


 我は魔王なり。すべてを無に、すべてをほふる存在。


 後から生まれし光という名の希望を、闇の力によって打ち払い、全てを無に変えよう!


 我は最強である。我は神でもあるのだ!!



 さぁ、世界よ。我に屈せよ。我は神なり!!






*



 ドシャッ! とベットから何かが落ちる音がして、自分の首を身体が変な方へ曲がっていることに気づくまでの時間、ざっと一分半。

 ノロノロ起き上り、首を元の位置に戻し、ベットの上に座り直し、手で顔を覆った。 


「ああああああああああああああああああああああああくっそはずいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ何が我だよっ馬鹿なの馬鹿だよ!! 神とか阿呆か!! 神様ならもっとすげぇよ!! 流石にすべてを創生したのは神様だよ俺じゃないよ!?」


 何で昔の黒歴史な夢をみるかなあああああああああああっとベットの上をたうち回る俺は、何を隠そう魔王である。

 といっても本当に闇が最初にできてかーらーの、光あれ! という存在からできたものではなく、ちゃんと人間である。ちょっと昔テンションが高いときがありまして、ほら、若気の至りってあるじゃないですか。あれですよあれ。

 その時に闇の眷属となるがいい! とか言われて闇の力にのまれたが、俺と闇の相性がどうも抜群によかったらしくて自我を失うこともなく(ある意味失ってたけど)、闇の強大な力を手に入れた田舎者少年R君は調子に乗ったまま世界を滅ぼそうとしたのですよ。

 元々住んでた村のガキ大将にいじめられていた影響もあり、世界なんてくそくらえ状態もあったと思うんです。今思えばタイミングとタイミングと、タイミングが悪かったの!!


 まぁそんなこんなで、闇の力を手に入れた俺は力を使って魔物たちの頂点に君臨し、魔物たちを使ってジワジワ世界滅亡計画Aプランを発動させたのです。ちなみにBプランは俺が速攻で町やら城を燃やしにいく、マッハで世界滅亡七日間計画でした。


 が、世界には太陽と月、昼と夜。が存在しているように、闇に対抗する光も存在しているわけで。


 俺が闇の力を手にした時に、光の力を手にした奴もいた。

 それが勇者様ですよ。可愛い女の子巨乳勇者でしたね。悪かったな俺は普通の顔だよ、下も普通だよ!! うるせぇ使う用事も見せる場面もねぇからいいんだよ!!



 とまぁ、勇者が魔王を打ち滅ぼす。


 というのが安定のストーリーであり、俺は巨乳の勇者と死闘を繰り広げた結果、負けて封印されたわけです。えぇ、封印です。流石の勇者も三日間戦い続けたせいで魔力も体力も残ってなかったんでしょうね、勇者様は封印するので精一杯だったらしく、俺は封印されました。


 その後の世界は、魔王という統率者がいなくなったので魔物は倒しやすくなり、平和が戻ってきた。勇者万歳! と聞いたので現在の世界はいたって平和そのものです。





 で、封印されたはずの魔王が何でベットから落ちているんだって?


 まぁ色々、紆余曲折ありまして。

 昨日やっとついた宿屋で爆睡してたのに、首が痛い。あと心も痛い……もう恥ずかしいったらありゃしない。


 そりゃ俺もはじめはびっくりしたよ。

 なんか目が醒めたら高い山の上の祭壇ぽい所にいて、目の前にはビクビク震える、なよなよした男が一人。


「で、で、伝説は本当だったったんだ!! ま、魔王よ! ぼ、ぼくにちからをっ闇の力をわけあたえたまポギャッッ!?」


 突然大声で言うもんだから、寝起きの頭に響いてさ、「闇の力を!」と喚く弱々しい男に頭突き喰らわせて、下山。


 記憶の中の世界と若干違うな。と山の裾にあたる樹海の中をトボトボ歩いていれば、目の前に死にかけた鳥が。

 ちょうど腹はぐるぐると空腹を訴えている。封印されてどれくらいたっているのか知らないが、まずは腹の高鳴りをみたそうか。と、弱っている鳥に近づけば。


「あ、あ、たべないでくださいっ!」

「……鳥がしゃべった!?」


 話す鳥は流石に、何か人道的に食べる気にならねぇわ。と、その辺から薬草やら添え木やらをとってきて、着ているボロボロの服を包帯代わりに手当をしてやる。弱っているから長くは持たねぇかもなぁと思いながら、鳥も自分の寿命に気づいていたのだろう。手当の礼を言いながらも諦めたような顔をしていた(といっても表情はわからないが)


「そういえば話す鳥なんて初めてみたけど、そういう種族なのか?」

「……いえ、私は元々普通のカラスでしたが、ある方と使い魔契約を結び、自我と力を得ました。……しかし、私は主の求める力にはなれず」

「棄てられたってわけか……」


 胸糞悪い話だな……生き物の面倒は最後まで見るのが飼い主の役目だろう。

 しかも何でこんな辺鄙なところに……樹海ってさ、ある程度のレベルがないと来れない、居られない場所なわけですよ。正直俺もちょいちょい魔物に襲われて、逃げて、道に迷ってを繰り返してたんだよね。

 だから意思疎通のできる鳥を失うのはまた道に迷うだけで、正直避けたいんだよなぁ……うーん、使い魔契約か。いけるかな。


「なぁ、鳥、じゃなくてカラスさん?」

「以前は番号で呼ばれておりましたが、今はその番号すらない身。お好きにお呼びください」

「ば、番号……その話は後で聞くとして、使い魔契約、もう一度するつもりはないか?」


 使い魔契約は魔物や動物に対し力を与え、かわりに命令をきく。絶対的な主従関係。

 一度失敗しているならば受けたくないだろうが、死にかけた今の状態に俺の力(といってもあるのかないのか不明だけど)を分け与えれば、回復して死なずに済むだろう。


「……何故私のような死にかけた弱い鳥を使い魔にしようと思うのですか」

「あー、正直言うとさ、俺今迷子でさ、鳥だったら空からみれるし案内出来るじゃん? それに俺の事嫌になったら解除もちゃんとしてやるよ、気に入ってくれたら面倒も最後までみる。といっても使い魔契約できる魔力が俺にあるのかも不明なんだけどな。かといって何もせずただ目の前で死んでいくのをみたくないってのもあるし、まぁ色々打算的なものがあるわけですよ」


 「どう?」と首を傾げて鳥に聞けば、「どうせ死ぬのですから、最後に道案内くらいして差し上げましょう」と俺の前に頭を下げた。

 ん? これは契約を結ぶってことでいいのかな? と迷っていれば「早くしないと私死にますけど」と疲れた声で言うので「わかった。でもできるかは分かんねぇぞ」と前フリはしておく。


 少しだけでも魔力が残っていると嬉しいな、なんて考えながら鳥を中心とした魔法陣を描いていく。

 描きながら鳥が「なんですかこの陣は……みたことがない」と言っていたので、やっぱり百年くらいは封印されてたのかなー。

 ってもこの術は呪法だしなー魔法は使えるか怪しいし、前の契約者の方が強いと契約は無効になるから魔王とか呼ばれる前に覚えてた、いじめっ子を呪うために勉強していた呪いの方にするけど、どうなるかなー。ちゃんと発動するかなー?

 とか考えつつ、書き終わったところで手のひらに傷をつけ血を魔法陣に落とす。手指で印を結び、となえはじめた。



「ほんじゃーいくぞー」



われ血縁ちにえにしじゅをなんじにかす従属したがえ!≫




 黒い光の魔法陣が浮かび上がり、高速で回転していき空に上っていく。「「え、え!?」」と俺を鳥が驚いていれば、猛スピードで落ちて来た魔法陣が鳥に直撃し、発光。

 お、おい、闇の力(?)の癖に光るんじゃないよ。びっくりだよ! というか鳥は!? 焼き鳥になってないよな!? 

 恐る恐る、鳥の様子をみれば、折れて傷ついていた翼は元に戻り、「え、あ、なんか、力が、すごい」と呟いているので大丈夫そうだ。よかったよかった。


「よしよし、焼き鳥になってたら夕飯にするところだったわ」

「マスターに食べられるのならば本望です」

「いや、食べないからね? 冗談だからね?」

「それよりもご命令を、町までご案内すればよろしいですか?」

「うん、町までよろしくお願いしたいです」


 「かしこまりました」と一度高く飛び、町の方角を確かめると低空飛行で道案内を始める鳥。

 折角だから名前を付けよう、それに下手に飛び続けると疲れるだろ? と鳥を肩に乗せて「名前、うーん、カラスだし、真っ黒だからノアールとかどう?」と聞けば「マスターの思うがままに。番号よりはるかにましですありがとうございます」といいんだか悪いんだか。


 でもまぁ声は嬉しそうだから「ノアール」という名前に決定でいいかな。というのが俺とノアールの出会い。


 

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