第2話 ようこそマウンテンペアーの町へ!
ノアールの案内で町に着いた俺は、口をパッカン開けて茫然としていた。
町の名前こそ聞き覚えがある名前だったのだが、俺が封印される前にはなかったはずの無駄にデカい塀が町をぐるりと囲んでいた。
「ここがマウンテンペアーの町です。にしてもマスターの格好はかなり汚いですから、門番が入れてくれるかどうかわかりませんよ」
「ものは試しだし、服も町の中でしか買えないし、金もないし。あ、やべどうしよう町の中入っても意味無くね?」
「いや、むしろ『盗賊に身包み全部剥がされて、彷徨ったあげく……』と泣きながら訴えれば町に入れますし、お金貸してくれるかもしれませんよ」
「ノアールあったまいい!」
ということで俺の演技能力が試される時が来た。
門番による人物荷物検査。俺は身分証がないどころかかなり汚いので、かーなーり怪しい。
「次! って、おいおい、ボロボロだな兄ちゃんどうした?」
「こ、この町に来る途中で、と、盗賊に襲われてっ、持ってたお金も、何もかも持ってがれでっひっく、俺もうどうしたらいいがわがんなぐでぇええええっうえええええっ」
「あーあー泣くな泣くな! 男だろ! そこから這い上がってこそ男があがるってもんよ! ちょっと待ってろ!!」
中年の門番が一度町の中に引っ込み、ひっくひっくと泣く俺の背中を擦ってくれる若い門番が「大変だったね……ここはいい町だから、あ、こんどうちに来なよ。僕の実家宿屋でさ!」と店の宣伝をしてきた。ぬかりねぇな。
ちなみにノアールは「マスター。演技じゃなくてガチ泣きでは?」と訝しんでるが、あぁ、そうだよ。ガチ泣きだよ! まじで魔物怖かったんだからな!! 闇の力を持つ前の、テンションが吹っ切れる前の普通の田舎少年R君なんだからな!! トロールを見た時は少しちびったからな!!
「おー待たせたな、んじゃ兄ちゃんここに名前書いてくれ。そしたら町の中に入れるぞ。一応盗賊に襲われたってことだから討伐と紛失届もだすか?」
「うっくっ、いえ、もう返ってこない気がするので諦めます……あの、この町にギルドはありますか?」
「あるぞ! 金のない兄ちゃんに紹介しようと思っててな。兄ちゃんは登録カードも紛失しているから、諦めて新登録し直した方が初期装備代が手に入るぞ! そうしたら金の面では当面安心するはずだ」
「それは助かります……」と鼻をすすり、名前を書く欄に『ライル』と『使い魔ノアール』と書く。
「ライル! マウンテンペアーの町にようこそ! にしてもライルは使い魔がいる癖に盗賊に負けるってのは……うーん、警邏を増やすべきだな。マール! ライルをギルドまで案内してやれ!!」
「あとこれがギルドの紹介状な」と紹介状をいただき、至れり尽くせりで仕事へと戻って行った中年門番にありがとうを言いそこねた。とりあえず拝んどこ。
「はー神かよあのおっちゃん。あ、名前聞き忘れたわ」
「あぁ、あの人はカロルさんっていうんだ。一応この町の領主だよ」
「……領主が門番」
「動いてた方が性に合うんだって。僕はマール、さっきも言ったけど今日の宿が無ければうちの宿屋に泊めてあげるよ。その前にギルドで登録しちゃおっか」
「はーい」と涙は何処へやら、ケロッとした顔の俺に「切り替えが早いね」と笑うマール。おっとあぶねぇ、暫くは悲壮感タップリに演技しとくべきか……と唸っていれば「もう遅いですよマスター普通に行きましょう普通に」とノアールに言われたので、まっ普通に行くか。
「俺ライルっていいます。こっちの鳥はノアール。マールさん、ギルドと宿までの案内よろしくお願いします」
「マールでいいよ。そういえばライルは何処の町からきたの?」
「あーえーっと」
出身地の名前を言おうとしたが、まだ故郷はあるのだろうか。
魔王の出身地として滅ぼされてたらどうしよう……と迷っているとノアールが「王都イーストキャピタルから来ました」と返す。ナイスだノアール! 王都ならばとてつもない人口を誇っている。たった一人の男を隠すには持って来いの場所だぜ!
「王都かー結構遠くからきたね。迷わなかった?」
「めっちゃ迷子になって、挙句の果ての」
「盗賊かー。盗賊は最近増えてるし、魔物も増えてるし物騒だよね。でもかわりにギルドで受けれる依頼も増えてるし、冒険者にとってはいいのかもね」
「そんなもんですか」
「そんなもんだよ。あ、ほらアレがギルド・マウンテンペアー支部。一応魔王が封印されし山の樹海っていう、Sランクの魔物がわんさかでる山の麓にある町だからね。ギルドも結構大きいよ。まぁ本部よりは劣るだろうけど」
劣るだろうけど。とか残念がるマールに対し、俺はまた口をあんぐり開けた。いや、デカすぎだろ。一瞬どこの城かと思ったわ、いや城というよりも要塞って感じ? てかこれよりすごい王都のギルドってどんな建物なんだよ。
あれか? 町が地下に引っ込んだり上に出たりする? それとも空中に浮く城とか? なにそれかっこいい!
「マスター。マスターが考えているギルド支部は流石にないです」
「せめて空中に浮かぶ城は……」
「ないです」
「夢がない!」とボソボソとノアールと話していれば「早く入るよー」とマールに急かされギルドの中に慌てて入った。また迷子になるからちゃんとついて行かないとな!
ギルドの中に入ると広さだけでなく、他種族も多く目立っていた。
ちなみに俺は人間、所謂ヒューマンとかいわれるやつ。あとはそこの真面目そうな耳が長い眼鏡のお姉さんはエルフ、背の小さい髭もじゃのおっちゃんはドワーフ、猫耳が生えているのは獣人かな。大雑把に分けると四種族だが、もっとわけるとかなり細分化されるし、覚えきれないので割愛割愛。この辺の情報は俺の記憶と同じようで安心だ。
そんな人ごみの中を掻き分けて到着したのが、ギルド登録の窓口。ここからはマールではなく俺がやらなきゃいけない。
魔王になる前、ギルド登録しようとしたことがあったが、ガキ大将が邪魔をしてきてできなかった。
うん、むかつくわーでもあいつもう生きてねぇよなー、ならしょうがねぇよなー……そういえば今大陸歴何年だろう。
マールはその辺に座って待っているということで、受付のエルフのお姉さんから貰った用紙に必要事項を書き込んでいく。
「ノアール、今大陸歴何年?」
「現在大陸歴三千十七年です。ちなみに葉月の十四日目です」
「あ、ありがとう」
「いえいえ」と俺が大陸歴を聞くことを不思議がることなく答えるノアールに俺が不思議になりながら、年齢を十六歳と書く。さっきガラスに映った自分が魔王になる前の姿だったから、まぁそのくらいでいいかなと。
「マスターは約千年睡眠なさっていたのですね」
「……ノアール様、何故それを知っているのでしょうか」
「よくわかりませんが、契約時にマスターの情報が大量に入ってきましたので」
「あとで釈明していいですか」
「えぇ、聞きましょう」
鳥胸をモフと前に張るノアール様に若干の恐怖を抱きつつ、門番、ではなく領主カロルからもらった紹介状と受付用紙をエルフのお姉さんに渡せば「はい、受け付けました。ギルドカードは紛失しないようご注意ください。再発行は王都でしかできませんので。あ、魔法の属性は測っていきますか?」と言われ、「今日は疲れたのでやめときます」と逃げた。
Dランクと書かれた最下位ランクのギルドカードと初期装備を購入出来るであろうお金をもらい、武器屋や防具屋、宿屋の場所の説明を受けて登録は完了。
待たせているマールのところへ戻ると、戦士のお姉さんや僧侶のお姉さんや巨乳のお姉さんに囲まれていて「優し気な糸目イケメンはモテる、くそが!」と心のノートに書き込んだ。くっそ俺も巨乳のお姉さんに囲まれたい……あ、いや、なくてもいい、巨乳ちょっとこわいかも。また封印されそうでこわいかも。
「あ、ライル! 登録できた?」
「…………できた」
「今マスターは巨乳と貧乳で葛藤しているようです」
「やめてっばらすのやめて!!」
「僕は好きな人ならどっちでもいいかなぁ……」
「あああああああ発言までイケメンだあああああ浄化されるううううう」
「マール様、宿屋はどちらでしょうか?」
「こっちだよ。ところでノアール、僕動物好きでさ、その、あの、つ、翼を触らせてもらえないかな?」
「どうぞ。最近とても艶やかになりまして、褒めて欲しかったところなのです」
「ほ、ほんとだ。艶々で健康状態も最高ランクだよ。いいマスターに会えたんだね」
「えぇ、そうです。マスターはとても良い方です」
「……ねぇ、俺を置いて行かないで。迷子になる」
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