第36話
「……来たか」
重い鉄の扉を開けて廃倉庫へと足を踏み入れた指針刃に『邪神の本』の声がすぐに聞こえてきた。
刃はそちらに視線を向ける。
そこには、以前見かけたわかばの同級生である増田の姿があった。奴が『邪神の本』に積極的に協力していた人物なのか――この状況で現れるということは間違いなくそうなのだろう。刃にとって増田は一度見かけただけの他人にすぎないが、わかばにしてみればそうではない。この街で起こっていた事件、そして自分を闇の底に突き落とそうとしていたのが仲のいい同級生だった――という事実はあまりにもショッキングだろう。
刃は倉庫の中を歩いていき、二十メートルほど離れたところで足を止めた。
加奈子の姿は見えない。『邪神の本』の力でこちらには見えないようにしているのだろう。廃工場にはものがなにもなく、人間を隠せそうな場所は見当たらない。自身に対する認識能力を阻害する力を応用すれば、それくらいできてもおかしくないはずだ。
「なんだ。姿を隠してないのか。余裕だな」
刃は軽い挑発をしてみる。
いま立っているのが増田であると認識できるということは、現在こちらの認知能力に干渉なされていないということだ。
ただ余裕なだけなのか、なんらかの狙いがあってのことかはいまの時点では判断できなかった。
刃は緊張を外に出さないようにしつつ、さらに警戒を強める。
「あいにく、これからやることは姿を隠していてはできなくてね。私の力もなにかと不都合があるのだよ。きみと同じく」
刃の挑発に対しても、『邪神の本』は相変わらず堂々とした態度を崩さず、余裕に満ち溢れていることを一切隠しもしていない。
こちらを嘲るような笑みを浮かべるその姿は古代の王のようだ。
それは実に腹立たしい。
心から殺してやりたいと思う。
だが――
事実として、いまの状況は『邪神の本』にしてみれば圧倒的に優位だ。やつが加奈子という人質を抱えている以上、それが揺らぐことはまず起こり得ない。
結局、あれから刃はこの状況を打開できる方法は思いつかなかった。
……当然だ。
加奈子が『邪神の本』に攫われてから一時間足らずではこの圧倒的に不利な状況を打開できる策など生まれるはずもなかった。追い詰められたからといって、敗北したに等しい状況を打開できるひらめきが生まれるなど、そんな都合のいいことはまず起こり得ない。そもそもこうなってしまうことはもっとも避けるべきだったのだ。である以上、この状況になってしまった時点で敗北したも同然と言っていい。
「もう一度確認させろ。人質は無事か?」
刃は一切の感情を出さないように努めながらそれを告げた。
いま自分が最初にすべきなのはそれだ。加奈子が無事であることだけは確認しなければならない。
「ああ」
『邪神の本』がそういうと、どこかから気を失った加奈子の姿が出現した。彼女の姿は先ほどビデオ通話で見たときとまったく変わっていなかった。それを見て刃は少しだけ安心できた。柱にもたれさせて、その身体には毛布がかけられている。
刃は毛布をかけられて壁にもたれている加奈子に注視した。
加奈子はまだ生きている。
電話では確証はつけられなかったが、肉眼で実際に見たのであれば、いま目の前にある人体が生きているのか死んでいるのかの区別は簡単だ。意識を失っている以外、明らかにおかしなところは見られない。生きているように見せかけた死体ではないことは確かだ。あれは間違いなく生きている。
どうやら、『邪神の本』はいまのところ、自分の要求を飲むのなら、加奈子無事に返すというのを守るつもりのようだ。
とはいっても、『邪神の本』を信用するべきではない。
『邪神の本』が提示した要求をこちらが飲んでから、急に心変わりすることは充分あり得るだろう。
――どうするべきか。
本当に――なにもできないのだろうか。
その現実に直面して、じわりじわりと砂糖水のようのべたついた嫌な汗が身体に滲んでいくのがはっきりとわかった。
もうこうなってしまっては、『邪神の本』の要求を飲む以外、加奈子を無事に返す方法は現時点では皆無といっていい。
それに――
もう一つ気がかりなことがある。
最初に『邪神の本』と遭遇したときの――いや、いま自分の目の前にいる人物のことだ。
あの夜、あまりにも身勝手で子供じみた論理を振りかざしていたあの男――『邪神の本』の協力者の増田である。
現在は大人しくしているようだが、これから奴がなにか茶々を入れてこないとは思えない。
あれだけ自分勝手なことを恥ずかしげもなく言いまくる奴だ。『邪神の本』はともかくとして、あの手の輩がこちらの要求をしっかり守ってくれるとはどうしても思えない。
それに、『邪神の本』は奴のそういった言動をどうにかしようとするつもりはまったくないはずだ。『邪神の本』が奴の暴走を止めてくれるなどという甘すぎる幻想は捨て去っておくべきだろう。
あのときの増田の言動を思い出して、ふつふつと怒りが湧いてきた。
自分にはなにをしてもいいと許されている、というようなどこまでも勘違いしきった自分本位な思想。
大学でわかばと楽しそうに歓談していた増田の本性が実はあれだったのかと思うと、刃は激しい怒りを抱かずにはいられない。
刃は増田の姿を注視する。
……なんだ。
ふとそこで、なにかが引っかかっていることに刃は気づいた。
なにかおかしい。
いま自分の目の前にいるあの男について、重大ななにかを見落としている――ような気がしてならない。
どういうことだ?
この違和感の正体は一体なんなのだろう。
何故そんなことを思うのか、その心当たりはまったくないというのに。
「ところで、ずいぶんと疲れているようだが大丈夫かね? 私のもてなしにはそこまで満足してくれたというわけかな? それなら言ってくれれば、茶でも用意しておいたのに。これが日本人の謙遜というやつなのかね?」
「……まあな」
刃は適当に相づちを打つ。
どうにかして、いまの自分が増田に関して見落としているものがなんなのか特定しなくてはならない――というような直感が働いた。
どうせ他にできることなどなにもないのだ。
加奈子を助けるための手がかりになるかもしれない。
なら――
目の前の青年に視線を向ける。
……やはりおかしい。
「なかなか悪くないもてなしだったが、いかんせん品位が足りなかったのは否めないな。それに大抵のことはできるくせにずいぶんとやっつけ仕事だった。あんた神なんだろ? 神ならもっとできるんじゃないのか?」
刃は適当な言葉を返した。
こうも意味のないことを言えるのは自分でも意外に思う。
目の前にいる青年に明らかにおかしいという部分は見られない。
年相応の普通の青年である。
では、このどうしようもない違和感の正体はなんなのだろう。
「それは手厳しい指摘だ。次回から改善するとしよう」
増田は人外の気配を一切隠しもせずに悠然と言葉を発する。
いま刃が感じている違和感は『邪神の本』が持っている異質さとは違う。
違わないのなら、このようなものを抱くはずがない。
この違和感はいまこのとき、この青年の姿を見て初めて感じられたものだ。
いや――違う。正確に言うならば、以前大学の学食で彼と顔を合わせたときに同じものを感じている。
である以上、いま目の前にいる増田という青年にはそれを感じざるを得ない『なにか』があるはずなのだ。
「ま、残念ながらきみに次回はないが」
悲しい事実だがね、と『邪神の本』は嘆息する。
「薄情だな。リピーターを大事にするのがマーケティングの基本だろ。新規獲得だけでやっていけるのは勢いが出てきた最初だけだぜ」
適当なことを言って時間を稼いで、この違和感を暴くのはいい。だが『邪神の本』にそれを悟られないように慎重にいかなくては……。果たして、どこまでやれるものか。
違う。
この状況を打開したいのなら。
『邪神の本』の要求を呑まずに加奈子を救おうとするならば。
この違和感の正体を暴かなければならないのだ。
幸い、『邪神の本』は話を聞くのもするのも大好きのようである。
そして、いまは人質となった加奈子を押さえているという、『邪神の本』には圧倒的な有利な状況だ。勝利を確信しているに違いない。その様子は『邪神の本』の様子を見れば明らかである。
だからこそあれほどまでに余裕を見せていられるのだ。刃に話を引き延ばされたところで、加奈子を押さえている限りその状況はまず揺らがないし、覆りもしない。この状況からの逆転ホームランは望めないだろう。
だが――
そこに隙がある。
付け入る隙というものは、いまのように圧倒的に有利な状況にこそ生まれやすい。
圧倒的に有利な状況は、慢心を生むものだから。
勝利の確信は持ってしまうと、たとえそれがごく小さなものであろうとも見過ごすようになる。
『邪神の本』はその慢心を隠そうとすらしていない。
それは神として――あるいは王としての矜持のように感じられる。
やれるものならやってみろと言っているようだ。
どこまでも挑発的に。
少なくとも、いまはまだ慢心をしてくれている。
ならば、この違和感の正体を突き止められるのはいましかない。
「ふむ、貴重な意見として今後の参考のために記憶にとどめておくとしよう」
とはいっても、圧倒的有利な状況に持ち込んだことで勝利の確信を抱き、それで慢心していても『邪神の本』は油断しているわけではないことを忘れるな。あれだけの狡猾さを持つ『邪神の本』が寝首を掻かれることをまったく想定してないわけがない。狡猾であればこそ、邪悪であればこそ、他者が自分に対して抱く悪意には敏感だ。
まわりに視線を向ける。
廃工場だけあって、視界に入るものの中に使えそうなものはなにもない。十五メートル上の天井まで吹き抜けになっている空間が広がっているだけだった。その中にあるものは刃を含めた三人の姿だけ。
……三人?
その言葉を思いついた瞬間、心臓に熱せられた鉄の杭を刺し込まれるような衝撃が走って、息が止まりそうになった。
それほど強い衝撃を受けるほど、その言葉が気になって仕方なかった。
……どうなっている。
これはどういうことだ?
なにかがおかしい。
刃の中にはその違和感に対する苛立ちよりも不可解さのほうが気になる。
三人。
そんなもの――別段、特別な言葉などではないはずだ。
――なのに。
気になって仕方がない『三人』という言葉。
どうしてそんなものが気になっているのだろう。
まったくわけがわからない。
――しかし。
いま自分はどうしようもないほど致命的な間違いを犯しているような気がしてならない――そんな確信めいたものを刃は抱いている。
あと少しでつかめそうなのに、指の爪一枚ぶんどうしても届かない。
そこにあるものは一体なんだ。
気になったからには、そこにはなにかおかしな部分があるはずだ。
……使うべきか?
ごくり、と『邪神の本』に気づかれないように一度息を呑み込んだ。
刃の切り札とも言える感覚拡張。
これを使えば、一体なにがこの違和感を生み出しているのか特定できる可能性は高い。
だが――
――どうする?
果たして、いまこの状態で使って大丈夫なのだろうか。
いまもなお自分の身体にヘドロのようにまとわりついている疲労感。緊張と焦燥で幾分か忘れているが、それは消えたわけではない。いまの刃は自分が思っている以上に消耗しているはずだ。
わかばを見つけるために二度使用して、とてつもなく体力を消費するものであることは改めて確認させられた。
あのときと同じ感覚で使うのは間違いなく危険である。
もしも動けなくなってしまったらそれこそ終わってしまう。
ただ一つもなすことなく、指針刃という愚か者はこの世から永遠に消え去るだろう。
やはりやるべきではないか――
――待て
いまの状況は――いましたいことは街のどこにいるとも知れなかったわかばを見つけるときとは明らかに違う。
行うべきは目の前の青年が発している違和感の特定だ。
砂漠の中にある一粒の砂金を見つけるようなことをするわけではない。
狙うべき対象はもう自分の目の前にいる。
であるならば――
わかばを見つけるときのように自身の限界まで行う必要はまったくないはずだ。
ある程度力を落として、目の前にいる青年に対してそれらを集中させればいい。
対象を限定して行えば、体力の消耗も抑えられるはずだ。
これならば、三度目を使用しても動けるだけの――それを行ったあと『邪神の本』と戦闘をできるだけの体力を残しておけるのではないか。
……試してみる価値はある。
いや、違う。
そもそも試してみるという段階は加奈子が攫われてしまった時点で過ぎているのだ。
であるならば、もう状況の打開のためにはこれを行う以外ほかに残されていない。
勝てる見込みが電子のように小さくても、やらなければどうしようもできないのだ。
やるしか、ない。
「それにしても、どうしたのかな? 今日はやけに饒舌ではないか。今朝はあれだけつれなかったというのに。私としては嬉しい限りではあるが――なにがあったのかな?」
『邪神の本』を宿した青年の双眸に人ならざる光が燈る。その視線はあらゆるものを呪う魔剣のような禍々しさを持っていた。常人であれば、それだけで発狂し、昏倒してもおかしくないだろう。『邪神の本』はそれだけの邪悪な重圧をその目から放っている。
「人間ってのはコロコロ変わるもんなんだよ。昨日うまいって食ったラーメンを今日になったらまずいって言ったりな。お前が今後、人間社会で生きていくために参考にしたらどうだ? 悪くないかもしれないぜ」
刃は相も変わらず一切意味のない適当な出まかせを発していた。よくもまあこのような出まかせが次から次へと出るものだ。人間と言うのは追い詰められると、普段はろくに回らない口も回るようになるらしい。
刃は口では適当で意味のない出まかせを発しながら、少しずつ、感覚のブロックを外していく。
先ほどに比べればまだいくぶんかましであったが、それでも大瀑布のごとき圧倒的な量の情報が一気に刃の中へと入りこんでくる。
押し潰されそうだ。
身体の中に荒れ狂う濁流のように押し寄せてくる質量のない情報によって、やっと冷めてきていた身体が再び熱を帯び始める。それに応じるかのように身体はどんどんと重くなっていく。やっと乾き始めた服が再び汗によって濡れ始めた。
でも――
これなら――大丈夫だ。
これならば、まだ。
圧倒的な情報の渦にもまれながらも、その確信は持つことができた。
『邪神の本』にはこちらの変化を気取られてはならない。
大量の情報を処理するとともに、なんとか平静を保っていなければ――
なにしろ、いまの段階ではこれ以外、逆転できる手段は一切ないのだから。
「ほう、そういうものか。勉強になった。やはり人間というのは面白いな。ところで一つ訊きたいのだが――」
「きみはいまなにをしているのだろう?」
この世すべての悪意にを束ねても、余りあるほどの悪意に満ちた笑みを浮かべて『邪神の本』は言う。
その言葉を聞いた刃に動揺を感じざるを得なかった。
だが――
なにをどうしたとしても、その動揺を知られるわけにはいかない。
「なにかって、そりゃするだろ。なにしろこっちは命がかかってるんだ。さっき次はないとか言われてビビってるんだ。察せよ」
目の前にいる青年と『邪神の本』にその感覚を持てるだけで動員し、違和感がなにか探っていく。
「ほう。きみでも命は惜しいというわけか?」
『邪神の本』はこちらがなにかしていることには気づいたらしいが、阻止しようという気はまったくないらしい。まだ慢心してくれている。やはり加奈子という人質がいることで、圧倒的に有利な立場が揺らぐことはないからだろう。
「当たり前だろ。死ぬ覚悟はしていても、死ぬのが怖くないやつなんているもんか。いるとしたらそいつはまともじゃない。確実にどっかイカレてる」
目の前にいる青年は彼本人と、『邪神の本』と二つの意識が入っているはずだ。
さらに深く、増田に向かって感覚を向ける。
荒くなる息をなんとか抑え、身体中を支配する熱と痛みと倦怠感を必死に堪えながら、広がろうとする感覚を一点へと集中させた。
さらに深く、もっと深く、目の前の青年が持つ違和感を――
特定――する。
――これは
やっとその違和感の正体を掘り当てた。
三人、いる。
増田が『邪神の本』を所有し、その意識を内部に宿しているのなら二人のはずだ。明らかに余分なもう一人は一体どこから――
もっと深くへ――
これは――
――違う。
厳密にいえば、増田の中に三人がいるわけじゃない。
そうか。
そういうことだったのか。
それでやっと、先ほどからずっと抱いていた違和感の正体が明かされた。
一人の人間に対し、外部から二つ接続されている――
ということは――
目の前にいる増田は、その外部にいる『一人と一柱』から操られているだけだ。
それが『邪神の本』と、以前話したあのアホ男なのだ。
この繋がっている部分を辿っていけば――
「……貴様」
『邪神の本』はいままで湛えていた悪意と余裕に満ちた笑みが消えていた。その代わりに現れたのは緊迫した怒りの表情。
「どうした? なんか余裕なさそうだけど。腹でも壊したか? 拾い食いはするなってママから言われたことないの?」
奴らが繋げている場所はどこだ?
そこに『邪神の本』がある。
それさえ突き止められたのなら――
あともう少しで場所をつかめる――というところで。
目の前にいる青年から繋がっていた『なにか』は消えてしまい、その場所の特定は不可能になってしまった。
それと同時に、増田からは先ほどまで発散させていた人外の気配が忽然と消え、彼は糸が切れた人形のように倒れた。それを見た刃は反射的に感覚拡張をストップし、それと同時に地面を蹴りこみ、素早く移動して彼の身体を受け止める。
目立った外傷はないが、あの状況から考えると、この青年は恐らく結構な期間、『邪神の本』と所有者の手足になっていたはずだ。目には見えない後遺症が残っている可能性は高いだろう。放っておくわけにはいかない。気を失った増田を壁にもたれさせる。
刃は特別警備部門の医療班に直通ダイヤルをかけ、いまの場所とそこに要救助が二名いることを告げた。
なんとか窮地を脱することができた。
だが――
――早くいかなければ。
『邪神の本』という悪意を排除するために。
こちらが場所を特定する前に、『邪神の本』のほうから切断されてしまったが――
やつらの気配はもう覚えた。
こちらの感覚が届かないほど遠くに逃げられない限り、追跡はそれほど難しくない。
やつらはもう隠れ場所から逃げ出しているはずだ。
力を持ったまま事典のような巨大な本を抱えていかなければならない。それだけでもかなり目立つだろう。
ここからはこちらが攻勢に打って出る。
倉庫を出る前に、刃は増田と加奈子に視線を移す。
あのような被害者を生まないために。
『邪神の本』を破壊しに行こう。
先ほど感知した気配を、再び感覚のブロックを解除して追い始める。
ここを乗り切りさえすれば、『邪神の本』との決着がつけられると思うと、ねじ切れてしまいそうな身体の疲れなど気にならなかった。
熱で脳が焼き切れようと構わない。
このあとに、自分の身体がどうなろうが知ったことではない。
押し寄せる情報に自分の意識が塗り潰されようと知ったことか。
いまこの瞬間だけは――
贖罪をしたいと思うのならば――
これだけは絶対に遂行しなければならないことだ。
いままでの怒りをすべて乗せて、広げられた感覚の中を探索する。
先ほど見つけた気配をすぐに発見できた。
一度発見してしまえば、見つけるのはたやすい。
場所はここからそれほど遠くない。消耗しているいまであっても、刃の足なら五分とかからないはずだ。
どうやら奴らは移動しているらしい。
逃げるつもりか。
いいだろう。
その勝負に乗ってやる。
そもそも、奴らに逃げられてしまったらこちらの負けなのだ。
感覚を広げたまま歩き出した刃は倉庫の鉄扉を蹴り破って外に出る。
そこには、もうすでに三十人ほどの人間が待ち構えていた。全員が凶器を持ち、どこを見ているのかわからない虚ろな目をしている。もうすでに見飽きた『邪神の本』によって操られた者たちだ。
邪魔をするか。
圧倒的優位を慢心によって崩されたのだから、まあそれは当然か。
馬鹿にはしないさ。
誰だって勝ちを確信すりゃ、慢心くらいするもんだ。
しかし――
お前らは手を出してはいけないものに手を出した。
覚悟しろ。
神に祈る前に死ね。
誰も殺さなかったとしても、僕が殺す。
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