冬に産まれたきみはいま

星燕

第1話

 むかーしむかし。

 遠く、美しい世界のおはなし。


 あるところに、高慢だが誰よりも繊細な男がおりました。彼はとても美しい容姿を持ち、素晴らしい頭脳と恵まれた血筋で栄誉を思うがままにしておりました。

 だけど彼は自分がちっとも満たされているとは思えません。何をしても、何を得ても、称賛の拍手をどんなに浴びても、胸にぽっかりと空いた穴を持て余していました。本当はちっとも自分に自信が無かったのです。寂しい、男でした。


 あるところに、貧乏だが誰よりも高潔な乙女がおりました。彼女は自分が良いと思ったものを身につけ、良いと思ったものの価値を信じ抜く力を持っておりました。相手の目を真っ直ぐに見る真摯さを持ち、素晴らしい頭脳と燃えたぎる情熱は、人々を惹きつけてなりませんでした。

 だけど彼女は実はちっとも満たされていません。今暮らすここの生活が嫌な訳ではないけれど、もっと広い世界に解き放たれたいという願いを捨てきれませんでした。本当の自分を知ろうとしない人々に、少し、失望していました。悲しい、女でした。


 物語は、寂しい男と悲しい女、この二人が出会って始まります。

 最悪の出会いでした。

 でも、この出会いを起点に、さまざまなことが起こりました。信じられないことが起こりました。沢山の素晴らしい出会いがあり、助け、助けられ、教え、教えられ、沢山の涙を流し、沢山の笑顔を溢れさせました。志を同じくする仲間、そして、負けなくない誰かがいることの尊さを知りました。

 理不尽なこと、報われないものがあること、避けられない別離や越えるべき壁がありました。知りたくなかったことがありました。受け入れなれないこともありました。それでも前に進むことを学びました。

 そうして二人はいつのまにか互いが互いの唯一無二になっていることに、ようやく気がついたのです。気づいて、普段通りでなくなることもありました。滑稽な行動を取ることもありました。

 傷つけた誰かに傷つけられ、背中を押した誰かに背中を押され、そうして彼らは結ばれました。

 強くなった彼らでも、身分の差という壁はとてつもなく高いものでした。それでも彼らは諦めませんでした。

 そうして二人の恋の結末は、ハッピーエンドを迎えたのです。


 彼らの物語は、まだまだ長く続くでしょう。だけどこの物語は彼らのものではありません。

 今日この日、ひとりの女の子が産まれました。雪がしんしんと降る寒い夜。人々は扉を固く閉ざし、深い眠りについています。

 寂しかった男は妻の元へ駆け寄りました。彼は何時間も生きた心地がしませんでした。だけど今、人生で最大の幸福を味わっています。

 悲しかった女は夫を笑って出迎えます。乱れた髪と疲れた顔は、それでも彼女の輝きを霞ませることができませんでした。

 彼らは抱き合います。

 女の子はすやすやと眠っています。


 これは、貴女の為の、物語。

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