第14話 提案

「……さて、これからどうする?」


 落ち着いたタイミングで、ブランが問う。

 問う相手は紛れもなく、ラインハルトだった。

 ラインハルトはそれを聞いて、顔を上げる。


「どうする、とは?」

「シンギュラリティの真実を知って、テスラーへ怒りを抱いたのならば、テスラーに矛先を向けても構わない。もしなおもテスラーへ忠誠を誓っているというのであれば、それも構わない。いずれにせよ、契約者との運命共同体であることは変わらない。まあ、彼女は例外だったが」

「……そうだな」


 まだ彼はあのことを引きずっているようだった。

 ブランはそれを実感して――まだ人間なのだなと思う。兵士だとしても、結局は元を正せばただの人間であると言うことに気づかされた。


「……では、どうするかはラインハルトに任せるとして……どうだね、ドワーフの少年、まずは問いたい。この機体、直せそうかね?」

「ええっ? ああ、でも……中身のドラゴンはまだ生きているようですし……、おそらく、外部からドラゴンへ命令を伝達させる機構がうまく働いていないのかも。そこだけならなんとかなるかもしれません」

「だとさ。どうする、修理は依頼しておくか?」

「……そうだな。修理ができるのであれば、お願いしようか」


 ラインハルトはブランの言葉に、即座にそう答えた。きっとブランが質問をしなかったとしても、彼は修理を依頼していただろう。

 では、何を悩んでいたのだろうか?


「……修理を依頼することを前提としていたならば、何故悩んでいた?」

「シンギュラリティを使うことで、ブランとの契約が終了してしまうのかな、と思ってね」

「そんなことを悩んでいたのか」


 ははは、と笑いながら流すブラン。

 対してそれを笑い飛ばされたラインハルトは、ブランに対して怒りをぶつけ始める。


「何だよ、俺はずっと悩んでいたんだぞ。そりゃ、ドラゴンにとっては小さな問題かもしれないが……」

「そうさな。確かに、小さな問題だ」

「あ、言い切りやがった! 言い切りやがったな、お前! 俺がずっと悩んでいた、重要な問題を、『小さな問題』と言い切りやがった!」

「そう言い出したのはお前が先だろう、ラインハルト!」


 うふふ、と二人のやりとりを見て思わず失笑してしまうソフィー。

 それを見たラインハルトは首を傾げ、


「……何かおかしかったですか?」

「いえ。ちょっと、面白いな、と思って。二人の関係性が。いや、正確には一人と一匹、ですけれど」


 ソフィーの言葉を聞いて、そうかな? と思い返すラインハルト。

 しかし彼はわかっちゃいない。わかってはいない。いずれにせよ、彼と彼女の間に埋まるものは無く、埋まるものは見当たらない。価値観の違い、とでも言えば良いか。しかしながら、それを、位置づけるものなど存在はしないのだ。


「さて……、ラルタス。その修理なんだけれど、どれくらいかかりそう?」

「そうですね。この修理をすることは、はっきり言ってこのサイズの修理自体が門外漢なんですけれど、しかしながらやはりそこは客商売として少しは色をつけて言っておく必要がありますから、簡単に言ってしまうと、三日です」

「最後だけで良いんじゃないかな、それに余計な言葉も聞こえた気がするし。……三日?」

「ええ。やったことはありませんけれど、中身は非常にシンプルです。それに、まだ中身のドラゴンはまだエネルギーを補充したばかりと考えると、二週間は問題ない。それを考慮すれば、こちらに力をかければ問題ないので……三日あれば余裕かと」


 にんまりとした笑顔で語るラルタス。

 いや、そうではない。そうではないのだ。ラインハルトは考える。

 実際、技師を頼ろうとしたのは真実だ。だが、これほどまでに腕のある技師にぶち当たるとは考えられなかった。

 このまま考えられることは、三つ。

 一つ、その技師が己の力を過信していること。もしかしたら三日は余裕でオーバーするかもしれない。

 二つ、その技師がほんとうに力を持っていること。それは有難いが、もしそうだったら計画を早く立てなくてはなるまい。

 そして三つ目は――。


「一応聞いておくが……、ドワーフで問題ないよな? スパイという認識は? 一応言っておくが、俺は敵と判断したら直ぐ抹殺するぞ」

「それは儂も同じだよ。それに、このラインハルトと契約したときから運命共同体と位置づけられておるからのう」

「ええっ? もしかして、僕、信用されていない?」


 対して未だにほんわかムードを保っているラルタス。はっきり言ってこんな調子では、こちらがテンションについていけなくなってしまう。


「……いや、そりゃそう思うでしょ、お兄ちゃん」


 それに突っ込みを入れたのはソフィーだった。

 どうやら『三日』には何らかの追記があるようだ。


「すいません、お兄ちゃんはああなんですけれど、一応嘘は吐きませんから。一度決めた締め切りは必ず守ります! それがお兄ちゃんの唯一のモットーなんです!」

「もっと、モットーはあるよ! 例えば、元気だとか!」

「そりゃ、無いと困るわよ。……ええと、三日で良いのよね?」

「うん! 三日でいけるね! その間、ラインハルトさんたちはドワーフの王に謁見してはいかがですか?」

「ドワーフの王?」

「ええ。お兄ちゃんは、こんなキャラクターですけれど、腕は確かなので、その家族は王への謁見が許されているんです。もちろん身体検査とかはする必要がありますけれどね。どうですか、一度、王に会ってみませんか。もしかしたら力になってくれるかもしれません」


 永世中立を誇っている国の、王への謁見。

 もし力にすることができれば、世界のパワーバランスが崩れかねない、重大な問題に発展する可能性がある。

 しかし、彼が立ち向かうべき相手は、それほどまでに強大である。だからこそ、策を選んではいられない。

 そう思った彼は、ゆっくりと、それでいてしっかりと頷いた。

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