第13話 真実
「ぎええええええええええっ! いやだあああああああああああっ! こわいいいいいいいっ!」
先ほどまでのクールな様子だったソフィーが、怯えた表情でラルタスにしがみついていた。
まさか、こんなに高所恐怖症だとは知らなかったが、それはラインハルトにとって『嫌な予感』の的中にほかならなかった。
「まさか、高いところが怖いとは」
「だから言っていたんですよおおおおおおおおお、高いところは怖いってえええええっ!」
「言っていない、はずだが」
確かに、高いところは怖いとは言っていない。
実際には、ドラゴンに乗ると言って聞き直しただけだ。
だが、それを『高所恐怖症』に取る人はあまり居ないだろう。
「だからってええええええっ。そちらの方に取る人は居ないはずでしょう!」
「まあ、そうなるけれど。……おっ、見えてきたぞ」
「わわわあっ、あれですかっ。あれが、シンギュラリティですかっ!」
シンギュラリティの機体が見えてきて、ラルタスは目を一段と輝かせる。
それに対してソフィーの恐怖心はストップ高。まだ終わらないのか、まだ到着しないのかと慌てふためている。
ブランがようやく地面に着地すると、ソフィーはやっと着いたといった感じで急いで地面に降り立った。
そして地面につけたことを安心して、深い溜息を吐くのだった。
「やっと到着したああ……。これ、私もついてくる意味あった?」
「だってソフィーが一人だとお兄ちゃん心配するからな」
「そんな、ポーズ決めながら言わなくても……」
ピースサインを決めながら、ラルタスは言う。
ラルタスは大急ぎでシンギュラリティの機体に近づき、いろいろと触り始める。
とりあえずラインハルトは様子を見ることにして、ブランの隣に腰掛けた。もちろん椅子なんてあるわけがないから、地面にそのまま座っている。
「うわあ、これもすごい。あれもすごい。すごい、すごい、すごいですよ。これは。科学の結晶ですよっ! なぜだかわからないけれど、接合部も見つからないし、エネルギー源も見当たらないんです! なぜでしょう。知っていますか?」
「いや、わからない。ただ、エネルギーは供給する必要があるんだ。一度供給すれば二週間は動く。かなり効率がいいだろ?」
そう言いながらコックピットに上がり、キーを回す。
すると口のあたりにあった蓋がぱかりと開く。
「おおっ。すごい」
直ぐにその口に近づくと、そこに何があるのかを確認し始める。身体が小さいから、その穴に入ることもできてしまうようだった。
「……うん? 何かオカシイですね?」
そこでラルタスは違和感を覚えた。
穴の向こうから、生暖かい風が流れてきたのだ。
「……何だろう、これ。ちょっと、中に入りますね」
「大丈夫だけど……何かあったか?」
「いや、ちょっと気になったので!」
そう言って、ずんずんと中に入っていく。
穴から続く通路は真っ直ぐと進んでいき、やがて突き当たる。その先はぬめぬめとした広い空間だった。
よく見ると白い棘も見つかるが、それはどう見てもこの通路には必要の無いものだ。
というよりも――この機構は明らかに『あれ』だ。
「これは……すごいものを見つけてしまったぞ……」
通路をバックする形で戻ると、ラインハルトとソフィーに変な目で見られるラルタス。
「何かありましたか?」
「いや……何か身体が濡れているから何故かな、と」
ラインハルトの言葉を聞いて、ああ、と頷く。
「そりゃあ、そうですよ。だって、あのシンギュラリティの機体の内部にはドラゴンが入っているのですから」
「……は?」
「……何を言っているのだ、ラルタスという少年よ」
ラインハルトとブランは同時に驚く。
それを見て、待っていましたと言わんばかりの様子で、解説を始めるラルタス。
「最初、これはただのエネルギーケーブルの類いかと思いました。つまりエネルギーをタンクに通すためのケーブルです。ですから、この先はただの突き当たり……だと思いまし。けれど、もう一歩先があった。その先にはドラゴンの口があったんです」
「ドラゴンって……生きた、ドラゴンが?」
「成程、ならば儂との相性も良い理由がわかる。もともとドラゴンから組み上げられたシンギュラリティを動かしていたから、儂たちドラゴンとも自然に『慣れ』が生じている、と」
「ええ、おそらくそういうことかと」
「ちょっと待ってくれよ。どういうことだよ……」
理解したくても、理解しきれない自分がそこには居た。。
ラインハルトは理解したくなかった。これはただの兵器と聞いていた。しかし、中にドラゴンが居るとなると話は違う。虐待や、それに近い話になってくる。それにドラゴンだ。ブランの同類がこんなことになっているとなると、怒り心頭になっているのは、ほかならないブランだろう。
「ブラン……。どう思う?」
「どう思う、か。今は人間に怒りを抱えているよ。はっきり言って、最低最悪の存在だとな」
「だよな、そうなるよな……。人間は最低だ。自分の利益のことしか考えていない、最低最悪の存在だ」
「だが、契約した人間までを侮蔑するつもりはない」
「……ありがとう」
その言葉は少し予想外だった。
人間全体を怒っていると思っていたからか?
自分に信頼を置いてくれていたと知ったからか?
否、そうではない。
自分を特別な存在だと思ってくれていたことよりも、契約した人間という価値でしかないということを再認識した。
それだけで、今のラインハルトには、有難いことでもあったし、救われることでもあった。
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