美咲は主張する、他人事じゃないからねと
「ちょっとメグ、聞いてよ。まじあり得ないんだけど」
鼻息を荒くしながら、親友の美咲が私の左隣りの席に座ってくる。
いつもなら横尾くんがそこには座っているけれど、今日はサッカー部が県大会の準決勝に挑んでいるらしく彼の姿はない。
もし今日勝てば、明日は決勝戦だ。
ここまで勝ち上がると、さすがに学校の中でも噂を聞くようになる。
「コータローの奴、まじない。あいつほんとにムカつく。今回は本気で別れるかもしれない」
そして全国大会への切符をかけて汗を流している横尾くんの代わりに、私の隣りに座った美咲はどうやら彼氏の
美咲の彼氏である高橋くんのことは私も知っている。一年生の時同じクラスだったので、少しだけだけど直接喋ったこともあった。
「なんか一年の女と一緒にこの前の花火大会いったっぽい。うちがその日、家庭教師くる日で誘い断ったから、代わりに他の人と一緒に行ったって。まじイミフじゃない? ふつー、彼女いるのに他の女と花火行く? いくらうちに断られたからってそれなくない?」
私は美咲の彼氏である高橋くんの顔を思い浮かべてみる。
ひょろりと背が高くて、結構チャラチャラした感じの人だった気がする。
美咲と同じように友達の多い人気者タイプで、特に高橋くんは異性の友達が多かった印象がある。
悪い人ではないと思うけど、全体的になんかこう、軽い人なのだ。
「まじありえない。サイアク。あとでもう一回殴ってやる」
あ、もう一回殴ってるんだ。
握りこぶしをつくりミシミシと音を立てる美咲の目は血走っていて、親友ながら怖ろしい。
でもわりと美咲と高橋くんはよく喧嘩をしているので、今回も本当に別れまで行くかは怪しいところだ。
美咲が気づいているかどうかはわからないけれど、高橋くんはけっこう構ってちゃんな性格だったはずなので、たぶん今回もやきもちを焼かせたくて他の子と一緒に遊んだんだろうなと容易に予想がつく。
「なんで男子ってこう女子の気持ちがわかんないわけ? うちを怒らせてなにが楽しいんだか」
美咲も高橋くんの気持ちに気づいてない気がするけどな、なんて言ってみると、は? と美咲は不思議そうな顔をする。
「いや、うちはだいたいわかってるよ。コータロー単純だし」
自信満々にそう言う美咲が面白くて、私は思わず笑ってしまう。
親友が怒ってるのに笑うなんてサイテー、と美咲は憤慨している。
ごめんごめんと謝れば、すぐに美咲は渋々といった様子で許してくれた。
「まったく。メグも他人事じゃないからね? 横尾はたぶんコータロー以上に女子の気持ちわかんないタイプだよ。あんたも苦労するよ絶対」
え? なんでそこで横尾くんの名前が出てくるの?
不意をつかれた私がすっとんきょうな声を上げると、今度は美咲が苦笑いする。
「あらら。困ったわね。相手の気持ちはおろか、自分の気持ちにすら気づいてない人がここにいるわ。むしろ苦労するのは横尾の方かもね」
さっきまであんなに怒っていた美咲はどうしてか機嫌を直していて、今度は私の方がちょっと不機嫌になっていた。
今頃、横尾くんは芝の上を駆け回っているのかな。
もし決勝まで残ったら美咲と一緒に応援に行く約束をしていた私は、なんとなく負けたような気分の自分の代わりに、横尾くんの勝利を祈った。
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