花は散る。夕日も沈むが、ギャル元気。
むむ山むむスけ
第1話 とりま暇だから来てみただけだしぃ~
ある日の午後。
緑山公園石碑前。
「…―――跡地」
今は利用する人も少なく、もはや風化しつつあるこの公園では石碑の表示も消えかかり、すでに読めなくなってしまっている。
そんな人通りの少ないこの公園で、今や絶滅危惧種となりつつある2種類の生命体が対峙していた。
『絶滅危惧種』、それは――――…
「てめぇ!あたしの大事なてっちんに手ぇ出したってどういう事だよ!?あぁン!?」
金色の髪をサラサラとなびかせながら、『唯我独尊』と書かれた特攻服に身を包み、木刀を右肩へと構えた北川沙理奈が先に口火を切った。
「知らないしぃ~。ユゥナはずぅっと前カラ
てっちゅと超仲良ピ☆だしぃ~」
沙理奈と同様に金髪でありながらも、自身の髪を巻きに巻きあげ全身を盛りに盛りまくったガングロギャルの西山ユウナは、ドスを効かせた声で怒鳴り続けている沙理奈の方を一度も見る事すらせず、ただひたすら自分の毛先を指でくるくると遊ばせながらスマホをイジっていた。
「ふざけんなよ!テツヤさんが
沙理奈同様、金属バットを肩に構えながら、ユウナにメンチを切る妹分の木村リカ。
彼女の背中にもまた、『喧嘩上等』という四字熟語が記されている。
「そんな相場、知らないしぃ~。…ってゆ~かてりゅてりゅはユゥナのだぁじゃないの~?」
そう言って同じくガングロギャルである遠山ウララは、同じく指で自分の毛先をくるくるとしながらあさっての方向を向いている。
ちなみに彼女達が言っているこのてっちんやてっちゅやてりゅてりゅという固有名詞はもちろん全て同一人物の事である。
「『だぁ』って何だよ!!『だぁ』って!」
あさっての方向を向いたまま、決して自分と目線の合う事のないウララに向かってリカは見事に舌を巻きながら怒鳴った。
「『だぁ』って言ったらダーリンの事に決まってるじゃァん。知らないヒトとか初めて見たんですケドぉ。マジウケる~」
そういうウララの顔は全く笑っていない。
「…ってか日本語話せよ!お前ら!」
「そっちこそ服に書いてあるヤツ、とりま日本語で書いて欲しいしぃ~」
「全部日本語だろ!読めね~のかよ!!」
「興味なぃしぃ~」
「読む気なぁ~い」
イキり立っているリカに対して今度は二人同時に髪をくるくるさせながら答えるユウナとウララ。
そう――――…
これは今や着実にこの世から姿を消しつつある存在…
どちらも絶滅危惧種といえるであろう、『
「とりあえずなぁ!テツヤさんと沙理奈先輩は正真正銘の恋仲なんだからお前は潔く身を引けよな!!」
そう言ってリカは手にした金属バットをビシィ!とユウナに向けて怒鳴った。
「そんなの絶対無理だしぃ~。ユゥナだっててっちゅとれっきとした恋仲?
ってゆ~か、むしろ濃い仲だしぃ~」
「ウケるぅ~」
何となく上手いんだか上手くないんだか分からないような事を言ったユウナではあったが、またもやウララは笑っていない。
「てめぇら人の話を聞くときくらいこっち向けよな!」
そう言ってリカは金属バットをまるで鬼の金棒のように構えて地面を数回叩いた。
なるほど。
普段は人の道から逸れるような事を好んで行っているような彼女が、今日はどういうワケかしごくまともな事を言っている。
完全に頭に血がのぼってしまっているリカを制し、冷静な表情で沙理奈は口を開いた。
沙理奈のそんな突然の気迫の変化に、思わず彼女に目を向ける二人。
サラサラとなびく綺麗な金色の髪と共に、沙理奈の身に纏っている裾の長い特攻服が静かにはためきはじめていた。
「あたしはな、お前と違っててっちんの事を誰よりも本気で愛してるんだ。こんなに
ジャカジャカテラテラ~♪
いつになく真面目な表情となり、シリアスとなりつつあったこの展開を突如としてユゥナの常識外れなバカデカい着信音が遮った。
「あ~い。もっし~?あ!てっちゅ~?今~?うん、超ヒマ――。うん!うん!りょ~かぁい。んぢゃ、今からマッハでそっちに行くね~ン」
沙理奈に構わず電話を取り、彼女を完全無視して話し始めるユウナ。
「てめぇ…沙理奈先輩がまだ話してる途中だろうがぁッッ!!」
そんなユウナの行動に怒りを覚えたリカが
持っていた金属バットを振り上げた瞬間―――…
「危ないッッ!!」
ユウナをかばったウララの後頭部に、リカが振り下ろした金属バットが見事にヒットした。
「ウララ…!!」
後頭部に感じた激しい衝撃が強くなっていくのと反比例してユウナの叫び声が、だんだんと聞こえなくなっていく…。
…あぁ…
昔は良かったな…
昔はギャルも沢山いて、ギャルはギャルで群れて毎日テキトーに笑って過ごして。
昔のままだったら、こんなヤンキーとかに
殴られる事もなかったのかな…
あぁ…
昔に…
昔に戻りたいな…。
ギャルとして楽しく暮らせていた、あの時代へ―――――――…
突然生じた後頭部の痛みを感じながら、ウララは薄れ行く意識のなかで強く、強く、そう願っていたのだった。
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